S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…

senko

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第3章

第 38 話:何度でも

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テレビ局のスタッフが機材を片付ける音が、職員室前の廊下に響いていた。

 俺は壁にもたれて、まだ少し熱を持ったままのマイクを見つめている。
 さっきまでカメラの前で話していたことが、夢のように感じられた。

「お疲れさまでした、黒瀬くん」

 ディレクターの女性が最後の挨拶をして、スタッフと一緒に廊下を去っていく。
 機材を載せたワゴンの車輪が床を転がる音が、だんだん遠くなっていった。

 一人になった廊下で、俺は深く息を吐いた。

 インタビューの間、俺はずっと緊張していた。
 「天才高校生プログラマー」として紹介されることに、どうしても違和感があったからだ。

 でも、最後にたった一つだけ、本当のことが言えた。

「これは、俺一人で作ったものじゃありません」

 そう答えた時のディレクターの少し困ったような表情を思い出す。
 きっと「謙遜する天才少年」として編集されるんだろう。

 でも、それでもよかった。
 俺にとって一番大切なことは、ちゃんと言葉にできた。

 廊下の窓から差し込む午後の光が、床に長い影を作っている。
 もうすぐ放課後の時間だ。

「先輩」

 振り返ると、三上が廊下の向こうに立っていた。
 いつもの控えめな笑顔を浮かべて、でも何かいつもと違う雰囲気があった。

「お疲れさまでした」

「ああ、三上。見てたのか?」

「少しだけ」

 三上が俺の方に歩いてくる。
 その歩き方が、なんだかいつもより堂々として見えた。

「先輩のお話、とても良かったです」

「そうか?俺、緊張しすぎて何を言ったかよく覚えてない」

「一人では何もできなかった、って言ってましたよね」

 三上が俺の隣に立った。
 壁に背を預けて、同じように廊下の向こうを見る。

「本当のことだからな」

「ようやく、先輩らしい言葉でした」

 三上の声に、優しい響きがあった。
 でも同時に、どこか決意のようなものも感じられる。

「先輩らしい?」

「はい。格好つけないで、素直な先輩が一番好きです」

 三上が俺の方を向いた。
 その表情に、いつもの人見知りの影はなかった。

「あ、その...好きっていうのは、恋愛的な意味じゃなくて」

「三上...」

「友達として、です」

 彼女は少し照れたように笑った。
 でも、その笑顔にはもう迷いがなかった。

「先輩、ちょっと来てもらいたい場所があるんです」

「場所?」

「光先輩が、待ってます」

 三上が歩き始める。
 俺は慌てて後を追った。

「待ってるって、どこで?」

「内緒です」

 三上が振り返って、いたずらっぽく微笑む。
 その表情に、俺は少し驚いた。

 以前の三上だったら、こんな風に人を引っ張っていくことなんてなかった。
 いつの間にか、彼女も変わっていたんだ。



 三上が向かったのは、図書室だった。

 放課後の図書室は静かで、読書をしている生徒が数人いるだけだった。
 司書の先生は不在で、受付カウンターには「17時に戻ります」という手書きのメモが置かれている。

 三上が一番奥の書架の向こうを指差した。

「あそこです」

 俺は首を伸ばして覗き込む。
 参考書コーナーの近くに、天野が一人で座っていた。

 机の上には開かれた本と、見慣れたノートが置かれている。
 でも天野は読書をしているわけではなく、ただぼんやりと窓の外を眺めていた。

「天野、何してるんだ?」

「さあ...誰かを待ってるんじゃないですか?」

 俺は図書室を見回した。
 そういえば、ここは俺が天野と初めて話をした場所だった。

 あの時のことを思い出す。
 フリーズした図書室の古いデスクトップパソコンの前で困っていた天野。
 俺が声をかけて、コマンドプロンプトで再起動させた。

 あれが、俺たちの最初の会話だった。

 三上が俺の肩を軽く押した。

「行ってください」

 三上が俺の方を向く。
 その瞳に、真剣な光が宿っていた。

「今度こそ、終わらせてください」

 三上の言葉に、俺は息を呑んだ。

「そして、ちゃんと始めてください」

 彼女は振り返って、図書室の入り口の方に歩いていく。
 俺は慌てて呼び止めた。

「三上」

「はい」

 扉の前で立ち止まった三上が、肩越しに俺を見る。

「ありがとう」

「どういたしまして」

 三上が最後に、いつもの優しい笑顔を見せた。

 そう言って、彼女は図書室から出ていった。

 扉が静かに閉まる音が響く。
 俺は一人、書架の陰に取り残された。

 天野の座っている席まで、歩いて15秒もかからない距離だ。
 でも、その距離がやけに遠く感じられた。

 俺は深呼吸をして、天野の方に向かった。



 足音を殺して歩いたつもりだったが、天野は俺に気づいた。

「和人くん」

 振り返った天野の顔に、安堵の表情が浮かんだ。

「お疲れさま」

 俺は天野の向かいの席に座った。
 机の上には開かれた校内新聞があった。学園祭の特集記事で、俺たちのアプリのことも小さく紹介されている。

「これ...」

「私達たちのアプリの記事、載ってたの」

 天野がページを撫でる。

「でも、全然詳しく書いてないの」

「別に、詳しく書かれても困るよ」

「そうかもしれないけど」

 天野が残念そうに眉を下げる。
 その表情を見ていると、胸の奥が温かくなった。

「俺、さっきのインタビューで色々話したんだ」

「うまく話せた?」

 天野が興味深そうに身を乗り出す。

「天才高校生プログラマーとか言われて、すごく恥ずかしかった」

「ふふ、らしいね」

「学園祭のアプリをどうやって作ったかとか、将来の夢とか」

「そんなことまで」

「まだよく分からないって正直に言った」

 天野が微笑む。

「それも和人くんらしい」

「でも最後に、一つだけ本当のことが言えた」

 俺は机の上で手を組んだ。

「これは俺一人で作ったものじゃない、みんなで作り上げたものだって」

 天野の表情が、ぱっと明るくなった。

 俺は天野の瞳を見ながら、言葉を探した。
 何から話せばいいのか、分からなかった。

 天野は机の上のボールペンを手に取ると、ノートの端に小さな線を引き始めた。
 何かを描いているわけではなく、ただ手を動かしていたかった様子だった。

 俺は深呼吸をして、口を開いた。

「...この数ヶ月で、色んなことがあった」

「うん」

 天野がペンを置いて、椅子に深く座り直す。

「初めて友だちができたんだ」

 天野が少し首を傾げる。

「俺の情けない姿を見ても隣で笑って助けてくれる。ダメなときには叱ってくれる」

 天野は何も言わずに頷いた。

「俺のことをちゃんと見てくれてる先生がいたんだ。俺が無理したときにはちゃんと怒ってくれて」

 天野がゆっくり立ち上がって、窓際に歩いていく。
 夕日が彼女のシルエットを美しく浮かび上がらせていた。

「それに...こんな俺のことを好きだって言ってくれる女の子がいたんだ」

 天野の肩が、わずかに強張った。

「俺はその子に何も返せていないのに、それでも行って来いって背中を押してくれたんだ」

 しばらくの沈黙が流れた。
 天野は窓の外を見つめたまま、動かない。

「その子のこと...大切にしてあげて」

 天野がようやく口を開いた。
 その声は少しかすれていた。

「初めて好きな人ができたんだ」

 俺は立ち上がって、天野の方に歩いていく。

「うん」

 天野が振り返る。

「その人のことを考えるとなんていうか冷静じゃいられなくて論理的じゃなくなってしまって」

「うん」

 俺は天野の隣に立った。
 窓から見える中庭には何人かの生徒が歩いていた。

「自分でも、こんなことは初めてだったからどうしていいかわからなくて、何度も何度も迷走して遠回りして」

「うん」

 天野がそっと窓ガラスに手を当てる。

「色んな人を傷つけて迷惑かけたんだ」

「うん」

「でも、みんなそんな俺のことを見捨てなかった。どんなに情けなくても、どんなに迷惑かけてもそばにいてくれた」

 天野の目に、涙がにじんでいるのが分かった。

「和人くん」

 天野が俺の方を向く。

「私たちって、色んなことがあったよね」

 俺も窓の外を見る。

「最初にお話したのも、ここだったっけ」

「ああ。あの古いデスクトップが固まって」

「和人くんが魔法みたいにコマンドを打って、直してくれた」

 天野が微笑む。

「あの時から、和人くんのことが気になってた」

「それから...あんなことがあって」

 天野の表情が少し曇る。

「SNSで叩かれて、もう終わりだと思った時に、nullさんが現れてくれた」

「あの時の天野は、本当に辛そうだった」

「でも、声を聞いたら安心できた。不思議だったの」

「オンラインゲームも楽しかったな」

 天野が嬉しそうに笑う。

「夏祭りのデートも、初めてだった」

「俺も緊張しすぎて、何も覚えてない」

「私は全部覚えてる。和人くんが射的でうさぎのぬいぐるみを取ってくれたこと」

「まぐれだよ」

「花火も綺麗だったね」

 天野が遠い目をする。

「問題解決部のことも、モデルの撮影のことも、学園祭のことも」

「全部、初めてだったんだ」

 俺は天野の言葉に頷いた。

「俺にとっても全部初めてだった。こんな風に誰かのことを考えて、一緒にいて、深く関わって」

「きっと私も和人くんも、この先ずっと間違え続けるんだと思う」

「うまくいかないことばっかりで、何度もすれ違って傷つけ合って」

「それは...嫌だな」

「でも」

 天野が俺の方を向く。

「その度にちょっと離れて、また近づいて」

 彼女の瞳に、温かい光が宿っている。

「理想的な関係になんてなかなかなれなくて」

「天野...」

「でも、そんな私たちが一緒にいられたら、きっとそれは本物って言えるんじゃないかな」

 俺は天野の言葉に、心を打たれた。
 こんな風に未来を語る天野を見るのは、初めてだった。

「好きだ、天野」

 俺は天野の手を取った。
 その手は温かくて、少し震えていた。

「この先ずっと隣にいさせてほしい」

「どれだけ間違ってもいいよ」

 天野が俺の手を握り返す。

「私も一緒に間違うから」

「ただ、嘘だけはつかないで」

 天野が俺を見つめる。

「絶対に、隣にいてね」

 俺は少し考えてから答えた。

「善処する」

 天野がプッと吹き出した。

「ふふ、『約束する』じゃなくて『善処する』なんだ」

「俺、プログラマーだから。確約できないことは言えない」

「なにそれ変なの」

 天野が笑いながら俺の腕を軽く叩く。

「バグは出るかもしれないけど、必ず修正する」

「プログラムの話?」

「俺たちの話」

 天野が両手で俺の手を包み込んだ。

「好きだよ、これまでも、これからも」

 彼女が俺に向かって一歩近づく。

「一緒にバグ修正していこうね」

 俺は天野を抱きしめた。

 図書室の静寂の中で、俺たちは言葉を交わすことなくそこにいた。

 天野の手が、俺の背中にそっと回される。
 その指先が、シャツの生地越しに小刻みに震えているのが分かった。

 俺の胸に顔をうずめた天野の呼吸が、だんだん深くなっていく。
 まるで、今この瞬間を記憶の奥底に刻み込もうとするように。

 本棚に囲まれた小さな世界で、時計の秒針だけが静かに時を刻んでいる。

 天野がそっと顔を上げる。
 その瞳に、薄っすらと涙の膜が張っているのが見えた。

 俺は天野の頬にそっと手を当てた。
 彼女が目を閉じて、その手に頬を押し付けてくる。

 でも俺たちは、まだ離れなかった。
 夕日の最後の光が窓ガラスを通して二人を照らし、やがてそれも静かに消えていく。

 この瞬間、俺たちは確かにそこにいた。
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