忘却の王子と孤独な女

まるい丸

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本編

16

「いよいよだな。」


 ヘイスがニヒルに笑う。側に控えていた兵士に声をかけ、剣を受け取り自身の腰にかける。



 そんな兄の姿をガブリエルは魂が抜けたような顔で見る。


「本当にアエラと彼女の父が兄さんを襲撃するのですか?」



「あぁ、我らの兵士に内通者がいてな。秘密裏に組織を調べさせていた。そしたら組織のメンバーは俺に恨みがある民の集まりであることがわかったのさ。その組織の中心人物こそお前が惚れている女の父親さ」



「兄さんは一体彼らに何をしたんだ!」



「昔の若気の至りさ、それを今でも根に持っている連中だ」



 ヘイスは事も無げに言い放ち鎧を身に着けていく。



「どうしてそんな戦のような準備をしているんです。襲撃されるという情報が入っているなら領地に行くのをやめたらいいじゃないか!」


「お前は馬鹿か?さっき組織に内通者がいると言っただろ?そいつにわざと領地へ行くと情報を流させたのさ。最近うろちょろと俺の周辺を嗅ぎ回って鬱陶しかったんだ。この機会に一掃するんだよ。久しぶりに暴れられる楽しみだなぁ」


 気持ちの悪い笑顔を作り自身の剣を磨いた。



「父上がそんな蛮行お許しになるはずがない」


 ガブリエルは努めて冷静に兄へと進言した。するとヘイスはガブリエルを見て目を見開き、顔を奇妙にくしゃりと歪ませたかと思うと大声で笑い出した。



「何がそんなに可笑しいのですか?」


 ひとしきり笑った後ヘイスは言い放った。


「はぁ、はっそういえばお前父上の事知らなかったよな。もう父上は危篤状態だ。いつ死んでもおかしくはない。お前がいなくなり父上が病に伏せてから実質この国の王は俺だ」



 ニタァと口を歪ませ淀んだ目をガブリエルにぶつける。驚きすぎて口を開けたまま喋らない弟にヘイスは告げる。


「お前もついてこい。女と組織が繋がっていることをその目で見ればいい。お前に拒否権はないぞ」


 ガブリエルが周りを見渡せば剣に手をかけた兵士達が不穏な空気を漂わせていた。


「ガブリエル様今は従うしか方法はありません。なんとか隙を見つけましょう」


 傍らに控えていたロイが小声で主へと囁く。ぎりっと歯を食いしばり頷く。そんな様子をヘイスは楽しそうに見つめている。


(彼女に手を出そうものならたとえ血がつながっていようが許さない)


 ガブリエルはヘイスを真っ直ぐ睨みつけた。



ーー


 アトラスと団長、組員、そしてエイダンとアエラはヘイス一行が通るという道の茂みに息を潜め身を隠していた。小鳥達が朝を知らせるために鳴いている。森は今から戦が始まるとは考えられないほど静かで穏やかな空気だった。


 木々が風で揺れている。ぼっーと木へと視線を向ける。するとゴツゴツとした温かい手がアエラの手を包む。


「大丈夫だ。お前は俺が命にかえても守り抜く」

 

 手を握る男を見ると、彼は前を見据えたままアエラを落ち着かせるように声をかけた。

 

 木々の揺れがおさまった。


(なんだ、あたし震えてたのか)

 

「…こんな所であたしは死なない。だからてめぇも死ぬな」



「おっ、いつもの調子取り戻したな。当たり前だ俺様だぜ」


 エイダンが鼻でふっと笑った。



 その時父の声が響く


「来たぞ!奴らだ。皆行くぞ!!」


「「「おおぉー!」」」


 何人もの野太い組員達の声が幾重にも重なり茂みから飛び出す。


「アエラ、今だ逃げるぞ!」  

 

 固まっているアエラの腕をエイダンがつかみ集団が向かう所とは別の方へと歩みを進める。


 すると鎧を着た片目を眼帯で隠した屈強な男が2人の眼の前に立ちふさがる。


「おいおい、待てよ。お前まさかエイダンじゃないか。懐かしいな」


「誰だてめぇ」


「3年前にモルティノン国と野盗との戦いで、お前にこの右目をやられた者だ!あの時の恨み今返させてもらうぞ!」



 男の胸までありそうな大剣を2人めがけて振りかざす。


 キュィーン


 エイダンが大剣を自身の剣で受け止め、風圧で辺の草が舞う。


「ったく、しつこい男は嫌われるぜ」  


 エイダンは飄々と男をからかう。



「……おのれ、馬鹿にしよって!」


 また男が力いっぱい大剣を振りかざす、エイダンは剣を受け流しアエラは後ろへと突き飛ばす。

 

「いって、な「アエラ逃げろ、逃げてお前が惚れた相手に文句言ってやれ」



 エイダンがアエラの言葉にかぶせ声をあげる。



「…そんな事できるわけないだろ。お前を置いていけるかよ」


「…馬鹿、俺は何回死闘を繰り広げたと思ってるんだよ。絶対に負けねえから安心しな!」


 アエラの位置からエイダンの顔は見えないが、彼がいつもの様にいたずらに口の端があがるのが見えた。



「絶対にだぞ!負けたらあたしがお前を殺してやるからな!」


 アエラはエイダンの気持ちを無駄にしないように精一杯走った。ハロンがいるモルティノン国へと。


「ったく、生きてても負けたらお前に殺されるのかよ。相変わらず物騒な女だ」


 我慢できずに吹き出した。



「余裕だな。その余裕いつまで続くかな」


「さぁな、あとさ悪いけど俺は負けないぜ」


 そう言うとエイダンはアエラに向けていた柔らかい雰囲気を一変させ冷たい空気が周辺を覆った。



「いざ、勝負!」




ーー



 アエラがモルティノン国へと足を走らせている中、何人もの仲間やモルティノン国の兵士の屍を跨いだ。



キーン、キューィン


 音のなる方へ視線を向ける。すると組織の仲間と剣をまじ合わせる白い頭の男の姿が目に入った。


 1ヶ月ぶりに見る彼は額から血を流していた。



「ハロン!!」


 思わず声をかけてしまった。

すると、ハロンが目線をアエラに向けた。目を見開き眉を寄せる。


「アエラ!君のお父さんが危険だ。ヘイスと森の奥へと向かった。彼はヘイスの手下に奇襲をかけられ手負いの状態だ。早く彼の元へ行くんだ。僕も直ぐに追いつく」



 ハロンは父の向かった先へと首を振りアエラを促した。


「わかった!必ず来いよ。話はそれからだ」


 ハロンの言葉を聞きアエラは森の奥へと突き進んだ。



「あぁ、直ぐに行く」


 彼女の後ろ姿に小さく声をかけ戦っている相手へ激しく剣を動かす。



 どのくらい走ったのだろうか、息が激しくあがる。空は灰色の厚い雲が覆っている。雨が降りそうだ。


 足を進めていると森が開けた場所が広がる。そこにはハロンと似た顔の高級そうな鎧に身を包んだ男が頭から血を流し地面に差した剣に寄りかかり地面を見下ろしていた。


 アエラもその視線の先へと目をやるとそこには黒い髪の男が地面にうつ伏せに倒れていた。



「ー父さん!」 



 なりふり構わずアエラは父へと足を動かす。転びそうになりながら父の側へと跪くと彼はかすかに息をしていた。



「お前まさかその男の子供か?」


「…だったら、なんだって言うんだ!」

 

 アエラは怒りを込めて男へと顔を向ける。


「はっはっ、やはりそうか。あの美しい女を抱いた時に側にいた赤子か!あぁやっと会えた。あの女が逃げてしまってずっと探していた。もう一度あの女に会いたいと何度願った事か」


「嘘だ、お前母さんにそんな事をしたのか……」


  

「あの女の暴れようと言ったらすごかった。けれど、お前と旦那を殺すと言ったら急に大人しくなったなぁ」


 ヘイスの顔はべっとりと血で濡れており、何が可笑しいのかわからないが破顔し狂ったように言った。



「おのれ…ころしてやる」


  


 激しい怒りが身を包み、目の前が滲んでヘイスがよく見えない。アエラの傍らにはヘイスと激闘の末、力尽きた父が横たわり手には剣が握られている。


 その剣を父の手から取り、ヘイスに刃を向ける。ヘイスはそんな彼女を見ても狼狽えず相変わらずヘラヘラと笑っている。

 

 ヘイスはお互いの全てをぶつけアトラスと死闘を繰り広げたため、戦う力などもう残っていなかった。


「俺はさぞ憎い相手だろう。殺せ」


 剣を地面にボトっと落とし両手を広げる。膝立ちになり丸腰状態で静かに男は言った。



「う…このやろうぉー!!」



 剣を両の手で力いっぱい握り締め男へと向かう。だが足が鉛のように重たい。気持ちは男が憎くて憎くて仕方ない。けれど体がついていかない。


 涙が溢れ前が見えない。ぐちゃぐちゃな顔で少しづつ歩みを進める。



 ヘイスはそんな彼女をただ澄んだ瞳で見つめていた。殺気立ち武器を持った女を前にしてるのに妙に落ち着いていた。まるでこの時を待っていたかのようだった。



 やっと男の前までくる。ヘイスとアエラは時間にすればとても短い時見つめ合う。アエラにとったらその時間は短いようにもとても長い様にも感じた。


 ヘイスの瞳の奥には、諦めや安堵、また別の感情が浮かんでいるように見えた。


 アエラは剣を振りかぶるとヘイスは瞳を閉じた。



 その時ハロンが彼女の名前を呼んだ。


「アエラ!」



 瞬間動きが止まり、声がする方へと振り向く。白い頭をした美しい顔をした男が息を上げながら真っ直ぐ射抜くようにアエラを見つめていた。


 彼の姿を見て胸の中に愛おしい気持ちが溢れた。ヘイスに対しての怒りに満ちていた中ハロンの姿を見て少し冷静になれた気がした。

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