最強勇者を倒すため。ボクは邪剣に手を染める

はりせんぼん

文字の大きさ
31 / 42

第3話 真っ二つ その14

しおりを挟む
「はいはい、シオン。動く動く、常に動くー」
「見合うのは休んでいるのと同じだぞ。常に有利をとるんだ。構えも、間合いも、位置も」

 シオンは長剣を逆手に持って上段に掲げる。
 左の短剣を添えて刀身を支える。
 打ち下ろしへの対応だとガランが思うよりも早く、シオンは真横に走り出す。

「……ああっ……」

 あっと言う間に大剣の間合いの外。
 そのままシオンは壁に張り付いた。
 壁を背負ってガランに向かう。

 上段に大剣を担いで追いかけてきたガランの動きが止まる。

「このガキ……」

 先程の床と同じだ。
 下手に打ち込めば、壁を叩くに終わる。
 そして、このすばしっこい子供は、その隙を今度こそ逃さない。
 次は何をやるのか分からない。

 駆け込むガランの勢いが止まる。
 やり辛い。明確にそう思う。
 大剣の一撃を武器とするガランの長所を、この子供は立ち回りで潰していく。

 まともに戦えば勝負にもならない相手のはずだった。
 どのような手段を使って来ても、【術技】で頭から叩き潰せるはずだった。

 冒険者であるならば、技量の差を補う裏技の類に精通している者もいる。
 だが、むしろその裏技こそがガランの得意とする所だった。

 例えばガランの大剣の柄頭は、鋼鉄製の重りで出来ている。
 必殺の一撃を例え受ける者がいたとしても、次の瞬間この柄頭に打撃の【術技】を込めて相手の顎を突き上げる。

 例えば、【術技:鋼体】という【術技】がある。
 【術技:耐性】の派生の【術技】で、全身を硬化させる効果がある。
 全身の動きが停止する、体重が増えるという副作用があるため、あまり人気の無い【術技】だ。
 しかしその副作用が、効果を生む事もある。
 【術技:重撃】を打ち込んだ瞬間、【術技:鋼体】を発動させる。
 増えた体重が【術技:重撃】の威力を倍加し、硬化した身体が鎧や盾を打った衝撃を吸収する。
 威力は倍増以上だ。

 例えば、【術技】は一度発動すると、全ての動きを完了するまで止まる事は無いと言われれいる。
 だが、より高位の【術技】を発動させる事で、途中で動きを止める事が出来る。
 それを利用すれば、通常の【術技】ではありえない連続攻撃が出来る。
 思わぬ敵の反撃にも、対応が出来る。

 そう言った裏技をガランは幾つも知っている。

 冒険者となる前、山賊として幾人も殺した経験もある。
 お綺麗な剣技などは使えない時代。
 手段を選ばずに相手を殺す。
 その手段を幾つも持っていた。

「厄介なガキだ……」

 その全てが、シオンには通じない。
 余りある手段も、一つとして有効に使う機会を得られない。
 技の半分も出せない。技の連携すら出来ない。攻めるきっかけが無い。
 やりにくい。

 舌打ちをする。
 その時にはもう、シオンはガランの目の前から消えていた。
 シオンの動きは一瞬も止まっていなかった。

 壁沿いに走る。
 ガランに背中を向けてすらいる。

 無防備に見えるその背中。
 そこに目掛けてガランは大剣を振り上げる。

 その音を、空気を揺らす大剣の音を、シオンは聞いた。
 ぐん、とシオンの踏み足が早くなる。
 踏み込み、次いで壁を蹴る。

 ぶん、と音を立てて振り下ろされた大剣が虚空を薙いで壁に刺さった。

「レオナさん。借ります!」

 その間に、シオンは目的の場所に着いていた。
 立て掛けられたレオナの大剣。
 鍛えた鋼の刀身に、斧のような刃のついた鍔飾り。
 柄頭は槍のように尖っていて、どのような手段でも相手を殺傷するのだと。
 その意志を表明するようなその武器を一本、シオンは左手に取り、逆手で構えて床に突き立てる。

 いける、と思った。
 先程のガランとの鍔迫り合いで確信した事がある。
 逆手は、順手に比べて強く重く剣を持てる。

 順手で剣を奮う時、剣を支えるのは小指一本だ。
 逆手ではそれが人差し指と親指になる。
 それが理由の一つだろう。

 逆手で構えると剣の重心が手先よりも内側に入る。
 最も力を必要とする振り出しの瞬間、身体の近くに重心がある事も理由の一つだろう。

 逆手の剣は手首の可動域が少ない。
 だから、手首は固定したままでいられる。

 腕の可動域も少ない。
 だから、剣は体捌きで振る事になる。

 他にも理由があるかもしれない。
 ただ、順手で振るよりも重い剣を振りやすい。それだけは間違いなかった。

 そして逆に、この長所はすべて短所にもなる。
 遠くに剣が届かず、剣の軌道が限られ、大きく体を捌かなければ剣を振れない。

 それを忘れてはならない。

 考え続けなくてはならない。

 そして、大剣を盾として使う限り、これら特徴は長所になるだろう。

「シオンはまったく、面白い事やるな」
「あれ、レオナが教えたヤツ?」
「型はいくらか見せたがね。それだけさ」

 シオンの動きは止まらない。
 左手の大剣で床を削って、壁沿いに走り続ける。

 ガランが壁から剣を引き抜いて、振り返る。
 大剣を担いでシオンに向かう。

「ちょ……バラン……」

 そのシオンとガランの間に『役人』がいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】国外追放の王女様と辺境開拓。王女様は落ちぶれた国王様から国を買うそうです。異世界転移したらキモデブ!?激ヤセからハーレム生活!

花咲一樹
ファンタジー
【錬聖スキルで美少女達と辺境開拓国造り。地面を掘ったら凄い物が出てきたよ!国外追放された王女様は、落ちぶれた国王様゛から国を買うそうです】 《異世界転移.キモデブ.激ヤセ.モテモテハーレムからの辺境建国物語》  天野川冬馬は、階段から落ちて異世界の若者と魂の交換転移をしてしまった。冬馬が目覚めると、そこは異世界の学院。そしてキモデブの体になっていた。  キモデブことリオン(冬馬)は婚活の神様の天啓で三人の美少女が婚約者になった。  一方、キモデブの婚約者となった王女ルミアーナ。国王である兄から婚約破棄を言い渡されるが、それを断り国外追放となってしまう。  キモデブのリオン、国外追放王女のルミアーナ、義妹のシルフィ、無双少女のクスノハの四人に、神様から降ったクエストは辺境の森の開拓だった。  辺境の森でのんびりとスローライフと思いきや、ルミアーナには大きな野望があった。  辺境の森の小さな家から始まる秘密国家。  国王の悪政により借金まみれで、沈みかけている母国。  リオンとルミアーナは母国を救う事が出来るのか。 ※激しいバトルは有りませんので、ご注意下さい カクヨムにてフォローワー2500人越えの人気作    

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

処理中です...