最強勇者を倒すため。ボクは邪剣に手を染める

はりせんぼん

文字の大きさ
40 / 42

第4話 そして勇者は夢を見る その8

しおりを挟む
「……ルーク様……」

 『聖女』と呼ばれ民草どもに讃えられ。
 そんな旅を続けるさなか、『勇者』が現れた事を知った。

 『聖女』の【天名】と、名門の血筋が役に立った。
 生まれたばかりの『勇者』様に拝謁し、その一団に加わる事が出来た。

 『勇者』は、まだ少年と言っていい年頃だった。
 垢抜けない。どころか、垢だらけの襟首の上着を着ていた事を覚えている。
 白い肌にはそばかすが浮いていた。
 立ち振る舞いも、横にいる少年の方が余程マシなくらいだった。

 これのどこが本物の『勇者』かと思った。

 強さだけは本物だった。
 そのたった一つの本物だけで、彼女を全ての枷から自由にする事が出来た。
 自由を与えてくれるなら、誰でも良かった。

 それに。

「あの金色の髪だけは、いいわ」

 呟いて、アリアは自分の髪を一房手にとって、指の中で遊ばせる。
 闇の中でもきらきらと輝く金色の髪。
 アリアの自慢の髪だった。

 妹が髪を長く伸ばさないのは、アリアのように綺麗に透き通った金色をしていないからだ。
 アリアが彼女である証。それがこの髪の色だった。
 だから、自分の子供にもこの髪を伝えたいと思った。

「あの子なら、まあ、いいわ」

 陽の光に輝くルークの金色の髪。
 ふわふわと柔らかく巻いて、髪自体が光を発するような透き通った金色の髪。
 アリアの色とは違う。しかし十分に魅力的な髪の色。

 だからきっと、二人の子は綺麗な金色の髪の子供が生まれるだろう。
 きっと、愛しているフリをすることだって出来るだろう。

 だから、子を作る相手は、ルークであって欲しかった。
 それだけの事だった。
 それだけの事が、アリアにな重要な事だった。

「そのためにも、進まなければいけませんわね」

 どこまでも続く闇の中、這うように下っていく。
 どれほど長く下っていたのか。
 それとも一瞬の間の事だったのか。
 闇の中ではそれすら判然としない。

 このまま地の底を越えてしまうのではないか。
 そんな事を思い始めていた。

「光をもう少し遠くまで飛ばしてみましょうか……」

 そう言えば、灯りの魔法は杖から先に飛ばす事も出来る。
 それに、光を発するのは灯りの魔法だけではない。
 光の精霊を召喚する事も出来た。

 冷静に考えれば、試すべき事はいくらもある。
 その事に気付いて、アリアは思わず笑ってしまう。

 闇は冒険者にとっては隣人のようなものだ。
 恐れる必要などありはしない。
 光の魔法を使えば。あるいは感知の【術技】を使えばいい。

 それだけの事すら気付く事が出来ない程に自分は焦りを感じていた。
 その事に気付いて、ようやく心が軽くなった。

 さて、それでは何の魔法を使おうかと。
 そう、思ったその時だった。

「伏せろ」

 ぬっ、と闇の中から手が伸びた。
 頭を掴まれた。
 慌てる間も無く、強い力で地面に押し付けられていた。

「……ちょっ……何?」
「いいから黙れ。大人しく伏せ……」

 声は聞き覚えがある。
 『魔剣士』コーザが雇った盗賊。
 アリアは名前も覚えていない。
 それの声だった。

 どん、と衝撃が通り抜けた。

 地面に押し付けられた頭のすぐ上を、轟音と強風が通り抜けた。

 周囲の岩がびしびしと音を立てていた。
 目前の床に亀裂が走る。
 揺れ、唸り、ひび割れ、ボロボロと床の表面が砕けて剥がれるのが見えた。

 闇の中で轟音が反響していた。
 足元から凄まじい破壊の衝撃が吹き上がってくるのを感じた。

 一瞬、光が満ちる。
 闇を追い払う強烈な光。
 光が岩肌を削り、砕き、消し飛ばす。
 アリアには見た事も無いような圧倒的は破壊の光景。
 それすら、遥か下方で行われている破壊のほんの余波にしか過ぎない。

 それに気付いてアリアは頭を抱えて地面に伏した。
 強く目を瞑る。
 早く、この光が消えて欲しい。それだけを考えていた。

「……ったく、たまんねえな。こりゃ」

 盗賊の声が聞こえた。
 聞こえる事の意味に気付いて目を開く。

 闇が戻っていた。
 あの恐ろしい光の乱舞の後では、闇にも静寂にも、安らぎすら感じた。

「……なんだ。お前か」

 そして、聞き慣れたルークの声。
 全身にバチバチと雷を走らせて、手足からは強い光を余韻のように放射して。
 そして、金色の髪を闇の中で輝かせて。

 その姿を感じて、アリアはひれ伏した姿勢のまま、意識が遠くなっていくのを感じていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます

七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。 「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」 そう言われて、ミュゼは城を追い出された。 しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。 そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……

処理中です...