3大公の姫君

ちゃこ

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一章

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「……は?」



「ですから、ユリア嬢はどんなに地位の高い方と婚姻したとしても大公妃にしかなれません」

 レスティアの謎かけのような言葉にぽかんと口を開けるレオン。

「そ、それは身分上不可能という意味か!?それなら制度を変えれば良いだけの事!」
「それはそれで難しいかと思いますが、これはそんな事が理由ではないのです」
 制度をそんなに簡単に変えるなど出来る筈もないのだが。そんな事は些細な事だとでも言うようだ。
 国の法律とは一度制定してしまえばそれを改変する事がどんなに難しいか。議会に掛けて精査し、内容を詰め賛成を得るまでにどれだけ時間がかかるかわかったものではない。
 
「はっきり申せ!!」
 中々答えを言わないレスティアに焦れた様に声を張り上げた。

「…そもそも次の公王は女ですから不可能なのですよ。レオン様はわたくしに彼女を娶れとでも仰いますの?」



「…!?」

「レオン様の身分はわたくしと婚姻した場合は公配となりますが、ユリア嬢となさる場合は大公殿下になりますのよ」

 わけがわからないとレオンの表情は語る。
「…一体何を言っている…?」
「それこそ、それはこちらが寧ろ聞きたい事ですわ。もしや、レオン様はご自身が未来の公王になると思ってらしたのですか?」

「な、何をデタラメな事を言っている!?私が公王だろう!私の父は公王だぞ!」

 心底馬鹿にしたような顔をするレオンだが、レオンこそが周りから馬鹿にされているとは気が付かない。
 先程から公王や、宰相を務めるレスティアの父、軍部を司るカーライル家の当主に至るまで全貴族が今やレオンに対し冷たい蔑むような視線を送っていた。

「いいえ。一つの大公家で公位を引き継ぐのは3代まで。貴方の父上様までですわ。次代からはエルフェ家が担うのです。つまりは次期当主である私ですわね」


「馬鹿な!」

 すごい形相になったレオンは、レスティアの方へ荒々しく歩を進め掴み掛かろうとした。

「レオン。レスティア様に向かって掴み掛かろうなど許される事ではない」
「……ぐっ!!」


 既んでの所で掴み掛かろうとしたレオンの腕を捻り上げた男がいた。
 さながら劇場と化していた場所に新たな登場人物と言ったところか。
 今は会場中の人間全てがこの会話を聞いており次は何が起きるのだろうと誰もが固唾を飲んでいる。

「ダグラス!貴様!無礼な!!」
「いいや?立場上お前を諌める事が出来るのは公王、公妃、レスティア様、そしてカーライル家の大公である俺だ」
 どこ吹く風のようにニヤリと笑いながらレオンを嗜める。
「な!?」

 愕然とダグラスを見遣るレオンに更に追い討ちをかける言葉が公王から続く。

「…そうだ。ダグラス大公は昨年父上が逝去されたからな。お前同年代の事を把握していなかったのだな…」
「ち、父上……」 
 公王は顔の手前で手を二度払う仕草をするとレオンの発言を強制的に止めた。

「 お前には失望した。この場がどんな場であるのかも良く考えず、己の主張のみが正しいと他者をいとも簡単に切り捨てるなど言語道断だ。お前はいつから独裁者になった。まぁ話を戻すが、今回の沙汰を申し渡す」

ガタっと椅子から立ち上がった公王は周りに目配せを送る。

「今回我が息子が大変な失態を晒してしまい、またこの場にそぐわない無礼を働き、隣国のローラン王国の皆々様には大変申し訳ない」

 公王が発した言葉はこの場では空気になってしまっていた、隣国の使節団並びに王族に当てた謝罪であった。

 確かにこれは他国との外交の場で犯した大変な醜態だ。大スキャンダルとも言え、今後両国の和平交渉に不利な状況も予想される。

 相手がコケにされたと思えばその通りだからだ。面子を潰されたと再び諍いになる恐れすらある。

 まだ自国の内輪パーティーの場であれば多少温情をかけた処分も出来たかもしれないが、それは不可能となった。

「いや、なに。我々は面白い余興を見せてもらったと思っていますよ」
 グラスを片手で掲げ、外国のスキャンダルを面白げに見ていたローラン国の使者は答える。
「そう言ってもらえると有難い。だが、息子とはいえ無罪放免とは出来ぬ。レオンはティセリウス家の大公継承権を永久に剥奪。わしの跡は次男のエドワードとする」

「そ、そんな!何故です!!」
 レオンが何か喚くが周囲は無視だ。

「そして、レオンは辺境にて兵役の後蟄居の処分とする。もちろんレスティア殿との婚約は解消だ。しかしレオンが子をもうけた場合、叛意を大公家引いては公国に向ける恐れがあるため婚姻自体を禁じる。どこかで作ったとしてもそれはただの親もわからぬ私生児である。連れて行け」

 公王が沙汰を伝えると周りに控えていた衛兵がレオンを取り囲んだ。
 それを慌てたように逃れようとした女がいた。

「ちょっ!ちょっと!私は関係ないわよ!!レオンが私たちの大切な話だからって私を連れて来たんだから!それにその女が私を殺そうした事はどうなるのよ!その女だけ罰せられないなんておかしいでしょ!?」

 自分は関係ないと喚く女に周りは冷ややかだ。この場にいる事自体が関係ないとは言えない状況なのに。

「何を言っている?お前など殺す動機も無ければ、証拠もない。それに報告ではレスティア殿ではなくお前たちの周りの学友たちの手の者の仕業だと証拠と共に上がっておるが?」

 心底蔑んだ瞳で今回の首謀者でもあろう女に公王は告げた。

「な!?どういう事なの!?あなたたち私たちの味方じゃなかったの!?」

 そんな公王の言葉にユリアの背後にいたが嗤った。

「当たり前だろう。俺たちはレオン殿下の側近だ。お前の味方ではない。本来ならばレスティア様と婚姻すれば公配となられ安泰であったのにお前が全てぶち壊したんだ。殺してやりたいほど憎んでいたさ」

 ニヤリと学友たちが嗤う。
 誰も彼もが後悔はしていませんと言わんばかりだ。
 その言葉で戦意喪失したのがユリアは暫く沈黙した後、気が触れたようにブツブツ呟きながら喚くレオンと共に連行されて行った。
 漸く静まり返った現場。

「とはいえ、私共はレオン殿下の配下でありながら主人に諫言出来ず、また男爵位ではありますが令嬢に手を掛けようとした事は事実ですので如何様な処分にでも従います。この度は力及ばす申し開きも出来ません」

「あいわかった。処分は追って言い渡す。自宅にて謹慎せよ」

「はっ」

 こうして学友達も退場していった。
 既に公妃は心痛で自室に退室しているし、公王も疲れたように玉座に腰掛ける。
 漸く和やかな空気に包まれ、会場も本来の役割を果たすべく動き始めた。
 

「そなたには大変申し訳なく思う。どうかこれで手打ちにしてもらえぬだろうか」

「結構でございます。わたくしとしましても残念でございました。婚約破棄にしても本当に添い遂げたいならばもっと他にやりようはあったでしょう」

 もっともである。と言うように公王は頷いた。

「で、あるな。そして、貴女の婚約もとなったのでこれからが大変だ。今まで抑圧されておった者共が一斉に名乗り上げる上、権力を欲する有象無象が貴女に群がるだろう。わしも退位まで後5年だ。貴女を射止めるのは果たして誰になる事やら」

 そんなからかいの言葉にレスティアは軽く笑う。

「まぁ。キズモノですわよ。それでもいいと仰る奇特な御仁がいるかしら」
 ウフフと笑うレスティア。
「少なくともここに一人はいるぜ。レスティア」
 と、後ろからダグラスが声をかけてくる。
「まぁ…それは大変ね。でもわたくしは安い女ではなくてよ。射止めて見せなさいな」

 妖艶に笑う美女の顔に一瞬惚けた顔をしたダグラスは一呼吸置いてニヤリと笑った。




「あぁ、必ず落としてみせるさ。俺にも弟がいるし大公も任せられるしな!覚悟しておけよ。女公王陛下!」








 未来では女の公王の隣に満足顔で寄り添う男がいたとかいなかったとか。









 これはとある公国の珍事なお話。
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