3大公の姫君

ちゃこ

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二章

後日譚(前編)

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「ねぇ、ダグラス。そういえばローラン王国から此度の和睦で留学生や研究者達の交換留学をする事になっているわよね?」

「ん?ああ、そうだな」

 あの騒動から1週間。
 ティセリウス家の名簿から除名されたレオンは一兵卒として辺境へ送られ、帰れれば神殿での蟄居が決まっている。
 公都は一時大スキャンダルに動揺したかに見えたが、上層部が至って通常運転だった為かすぐに落ち着きを取り戻していた。

 そしてローラン王国とも揉めるかと危惧されていたがそれも特に無く、当初の予定通りお互いに交換留学を行い技術発展を目指す交流が予定されていた。

 公都には専門的な分野に秀でた各部署が存在し、そこへ他国の研究者たちを招く予定である。
 また、公都唯一の教育機関でもある学院にも学生を受け入れるので現在準備が進んでいる。
 学院にはローラン王国の王子とその御付き、また優秀な特待生を招く予定である。

「1週間後に公都へ到着するから、準備を怠らないようにね」

「もちろんだ。ローラン王国には俺の弟を行かせたし、向こうさんの情報も入って来る」

「あら、あの弟君が素直に行くなんて珍しいわね」

 私の言葉に苦虫を噛んだような顔になるダグラス。

「なんか、今回此方へ来る連中と関わりたくないとか何とか言ってたぜ」

「ん?何か問題のある連中なの?」

「俺も詳しくは分からないが、留学生御一行の中にがいるだろ。そいつが居ない間に向こうの学園をして来るんだとよ」

 矯正ってなんだ。
 と、レスティアは思ったが、昔からダグラスの弟は情報収集において右に出る者はいない。
 何か引っかかるものがあるのであろう。

「なら、こちらはその特待生に注意を払っておきましょう」

「だな。まぁ、俺もティアも学生ではないから時々顔を出す程度になるが学院の生徒の中で誰かしらに監視させるか」

 学院は3歳から20歳までのの国民が義務教育を受ける機関だ。爵位持ちの貴族のみならず、平民も混じっている。
 国民全体の識字率を上げた方が結果的に国力が上がるからだ。
 優秀な者は身分問わず重用する。重用されれば爵位や立場も手に入る為皆努力する。

「そうね。それなら私の妹にさせようかしら。今年確か3年だったと思うわ」

「あーフォルカか。あいつももうそんな年になるのな」

 フォルカとはレスティアの妹だ。
 今年で18歳になる。

 姉がこの性格だからか妹のフォルカもそれに影響されかなりサバサバした性格をしている。
 客観的に見る視野も広いのでうってつけの人材だろう。

「学院内ででも起こしてくれればローランの弱味を握れておあいこになるわ。やはりフェアでないとね」

「こっわ。陽動なんてすんなよ」

 ニヤリと悪い笑顔を浮かべてダグラスが揶揄う。

「あら、それに踊らされる方がどうかしていてよ。今回来るのは未来のローラン国王様御一行でしょう?側近がきちんとしていれば防げましてよ」

 そんな事態に陥るようではお話にならないとレスティアは断じる。

「フォルカと良く相談しなくてはね。色々と」

「本気かよ…」

「あら、ダグラスも参加しますか?参謀として歓迎しましてよ」

 キラキラした笑顔で手を差し出すレスティアにダグラスはブルッと大きな身体を震わせた。

「い、いや、俺は遠慮しとくわ…」

「あら?そう?気が向いたらいつでも声かけてくださいな」

 心底恐ろしいと言わんばかりにダグラスは後退して退出していった。



「うふふ。な子達であれば嬉しいのですけど」


 最後まで清々しいほど綺麗で邪悪な笑みを落とすレスティアであった。



ーーーーーーーーーーーーー




 そしていよいよ隣国からのお客様を迎える日。

 一応国賓なので到着後、少し休息を取らせた後歓迎の宴が開かれた。

 国賓席に着席する一団をレスティアは眺めた。


 ローラン国皇太子、ジオラルド殿下。

 ローラン国宰相子息、オリバー・ランドルフ。

 ローラン国騎士団団長子息、ギルバート・ロンベル。

 ローラン国筆頭公爵子息、ロイ・セレンディア。

 ローラン国特待生子爵令嬢、エリーゼ・モーガン。


 この5名が今回学院へ留学する。
 その後ろに着席した者らは、研究棟へ招かれる研究者たちが10名程控えていた。



「良く来てくれた。ローラン国の留学生たちよ。ささやかだが歓迎の場を用意させてもらった。是非楽しんでくれ」

 そんな公王の言葉を皮切りに宴がスタートした。
 この場にいるのは、公王、公妃、2大公当主、次期女公王、次期当主たちとその家族が何名かのごく少数の立食パーティーだった。

「この度のお心遣い痛み入ります。公王陛下。私はローラン国皇太子ジオラルドと申します。以後お見知り置きを」

 皇太子の自己紹介の後に順々に挨拶を行なっていく。

「まぁ、堅苦しいのはここまでにし、ゆるりと楽しんで欲しい」

 タイミングを見て声をかけた公王に、皆それぞれ挨拶回りに動き出した。
 こういう場ではゆるりと本気で過ごす馬鹿はおらずそれぞれの腹の探り合いや、社交にて人脈を広げたりと皆行動する。
 留学生の一団は皇太子がいるので5人ひと塊りで挨拶されるのを待つスタイルだ。
 しかし、そんな彼らも公王と、公妃、次期女公王へは自ら足を運ばねばならず最後になるだろう。

「何見てんだ?レスティア」

 ゆったりとダグラスと寛ぐように過ごしていたレスティアだが、先程から一点を見つめていた。


「……男が4人に女が一人…。波風立てるのが実に楽でしてよ」

「おいおい。いくらなんでも他国への留学だろう。難しくないか?」

「知っていて?ダグラス。ローランは未だ女性の地位が低く、女は家庭にが常識ですの。それなのに、この場に子爵令嬢がいるというのはおかしいと思わなくて?ここで得た知識も本国では活かせる場は殆どなく精々高位貴族相手の家庭教師くらいでしょう」

「まぁ、確かに言われてみりゃそうだな」

「えぇ。しかも今回の人選は皇太子が自ら強引に捩じ込んだようでしてよ。面白いでしょう?」

 ダグラスは思わずレスティアの言葉にうわぁ…という顔をした。

「他の付き添いは皆高位貴族の令息ばかりで自分だけ特別扱い。さて、18の小娘ならば何を感じるかしら」

「んー、優越感とかか?」

 ダグラスの答えに嬉しそうに頷くレスティア。

「えぇ。そうすると、自分は特別だ。他の令嬢とは違う。と、自尊心が高まると思わなくて?そして、あの者らの行動を見ると面白い事に皇太子筆頭に彼女を大事に扱っている節があるわ。ふふ。そこへ妹のフォルカを入れたらどうなるのかしら。あぁ、とても楽しそうですわよね」

「こえーよ。カワイソ過ぎんだろ…」

「まぁ、可哀想だなんて。もうあの年齢ならば次期国王としてありとあらゆる教育がなされている筈ですわ。社会の縮図として正しく学園で振舞っていれば成人した後すぐその効果が現れますわ。なのにあれでは、周りは納得しないでしょうね」

 王国の学園も、公国の学院も社交界の一つだ。
 それぞれの国のルールに従って行動していれば波風は立たず卒業してもその実績が役に立つ。
 しかし、ルール破りが起きるとたちまち信用を失い弾劾される。まぁ、順序立てて外堀を埋めて納得させられればそのような事態も回避出来るだろうが、恐らくあの様子ではしていないだろう。


 と、そんな事を考えていれば、やっと挨拶が途切れたのかジオラルド殿下たちがこちらへ移動してきた。

「お初にお目にかかります。次期女公王、レスティア様。私はご挨拶にもありましたがローラン国皇太子ジオラルドです。以後お見知り置きを」

「まぁ、ありがとうございます。こちらこそどうぞ良しなに」

 簡単な社交辞令の後、レスティアは切り出した。

「それで、殿下。私は学生ではありませんので学院での対応が出来ませんの。すぐ不備があれば頼って頂きたいと思いますが、多少不自由されるかもしれませんわ」

「いえ、そのお心遣いに感謝します」

 ジオラルド殿下の恐縮した声にレスティアは微笑む。

「しかし、もし何か問題でもあるといけませんので暫く私の妹を殿下にお付け致しますわ。妹経由で私へ連絡して頂いても結構ですし、妹が解決出来そうであればどうぞ頼って下さいませ」

「妹さんがいらっしゃるのですね。それは心強い」

「ええ。殿下方と同じく高等部の3学年です。フォルカ。来なさい」

 と、レスティアは少し離れた場所にいたフォルカを呼んだ。
 ちなみに先ほどから殿下の後ろにいるエリーゼといえば、フォルカの話題を出した途端目に見えて気に入らないというような表情を浮かべていた。

「お姉様。少し席を離れていて申し訳ありません」

「大丈夫よ。フォルカ。この方がジオラルド殿下よ。ご挨拶を」


「お初にお目にかかります。妹のフォルカですわ。どうぞ良しなに」

「こちらこそ。貴女には学院で世話になる。よろしく頼みます」

 まぁ、初邂逅はこんなものだろう。
 いきなり馴れ馴れしく世話は焼かず、事務的な案内だけ最初に行い、困っていそうであればフォルカを使えば良い。

「それで、レスティア様。私の学友を紹介致します」

 とジオラルドが背後に控えていた者らを紹介し出した。

「お初にお目にかかります。私はオリバー・ランドルフと申します。ジオラルド殿下の補佐をさせて頂きます」

「お初にお目にかかります。私はギルバート・ロンベルです。学院内では衛兵は居ますが側仕えの警護がいないとの事ですので特別に拝任致しました」

「同じくお初にお目にかかります。ロイ・セレンディアと申します。殿下並びにオリバー様の補佐として参上しました。よろしくお願い致します」

「エリーゼ・モーガンと申します。ローラン国学園特待生としてこの国の良き所を勉強させて頂きます。また、長らく国交も途絶えていましたから、お互いに相互理解し合えるよう尽力致します」

 5人それぞれの自己紹介に満足そうにレスティアは頷いた。

「遠路遥々よく来られました。皆様を歓迎しますわ。学院にてお互いの国の違いや風習の差、知識を活かしての新しい技術の研究など良く学んで下さいませね。こちらも協力は惜しみませんわ」

 レスティアがジオラルドに向け流し目をすると少し顔を赤らめ怯んだ。
 フォルカに腕を肘で突かれるが、知らんフリだ。

「さて、申し訳ありませんが私はそろそろ退出しなければなりませんので、ここで失礼致します」

「え?」

 レスティアが告げるとエリーゼという娘が疑問符を上げた。

「エリーゼ嬢…でしたかしら。…何か?」

「あ、いえ。今日は国賓たる皇太子殿下を招いた宴ですのにそれより重要な事が?と、思ったもので…」

 そのエリーゼの発言に、周囲にいたレスティアの側近たちが鋭い視線をエリーゼに向けたがレスティアがその視線を遮るように片手で制した。
 ジオラルドはエリーゼの発言に愕然として慌てて制止しようとするがそれもレスティアが目配せして黙らせた。

「確かに我が国にとって大事なお客様ですが、ローラン王国での優先事項と我がルベインでは違うのですわ。未だローラン国との和睦の道は始まったばかり。宰相といち早く話を詰めなくてはなりませんのよ」

「あ…」

「ご理解頂けたかしら?」

 ニコリと笑って扇子で口元を隠す。
 元々レスティアに意見しようなど、他国の人間に許される筈もない。
 掌握術においても小娘の手に負えるような人物ではなかった。

「エ、エリーゼ!謝罪を!私からも謝罪致します!お許しを!」

「あ…申し訳ございません…!」

 ジオラルド殿下が慌てて両者の間に入る。

 まずまず及第点な対応だ。

「よろしいのよ。ローラン国では女性は政事に関わらぬと聞き及んでいますわ。分からなくても致し方ない事」

「……っ」

 暗に小娘では考え及ばないだろう。すっこんでいろと匂わせた為、エリーゼはそれに気付き悔しさと羞恥で顔を赤くさせた。

「では、皆様失礼しますわね。ゆるりと繕いで頂けると嬉しいですわ」

 そう一同に声をかけ、レスティアは優雅に退出して行った。



「えげつねーー……」


 その様子を少し離れた所で聞いていたダグラスが声を震わせていた。





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