傷だらけのアイドル候補生

水谷いけと

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3.汗とあのころの情熱

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第3話 汗と思い出した情熱



アプリを閉じてスマホを机に置くと、頭がふわふわと宙に浮いているような気がした。

窓の外を見ると、さっきまで曇っていた空にはきらきらと光る太陽が見える。

制服を着たままベッドに静かに横たわると、ゆっくりと目を閉じた。

画面越しで会った見知らぬ人たちの言葉。
頭の中で鳴り響き続けている。


「よく頑張ったね」
「みゆちゃんえらいよ」
「成長が楽しみだよ」


胸がじんわり温かくなって、思わず頬が緩んだ。


30分くらいたった。

私はベッドからがばっと起き上がると、押し入れから履き古したランニングシューズを取り出した。

「外、行ってみよう」

リビングには誰もいない。
玄関でランニングシューズを履いた。
靴の紐を念入りに結ぶ。

ドアを開けると、湿った空気にむせかえるようだった。

梅雨明けしたばかりの夏の空。

見上げると、窓越しでみたときよりはるかに存在感のある太陽が見えた。

その下で立ち尽くしているだけで汗がじんわりと湧いてきた。

私は熱気に逆らうように、ゆっくりとした足取りで走り始めた。

すぐに足が重くなった。
息が上がって立ち止まりそうになる。

走っているうちに、身体の奥から、忘れかけていた感情が湧き上がってくるような気がした。

汗が額を伝って頬に流れるのを感じた。
シャツがびっしょりと肌に張り付く。 

息が苦しい。
でも、心地いい。

走りながらふと思い出した。

中学のときの、バレーボールのこと。

最初にスパイクが決まったときのこと。
仲間たちの歓声。

レシーブがうまくできなかった時のもどかしい思い。
監督に怒られてトイレで泣いていたこと。

友だちに誘われていやいやながら始めたはずのバレーボールに、私はすっかり抜け出せなくなっていた。

そして最後の大会で私の名前が呼ばれなかったこと。

思い出すと胸がドキン高鳴った。

息が切れて、足がもつれそうになる。
それでも構わずに走り続けた。

毎日放課後まで残って練習したこと。
筋肉痛で動けなくても、翌日また体育館に行ったこと。
 負けたあとも、すぐに次の試合のことを考えていたこと。

息が上がって立ち止まった。
私は唇を強く噛み締めていた。

私は、あのころ、けっして諦めなかった。

汗でびっしょりと濡れたシャツの上から胸元をぎゅっとつかんだ。

走り終えて、誰もいない家に帰るころには、シャツが重くなっていた。

シャワーを浴びながら、鏡に映った自分を見た。

 顔は真っ赤で、髪はぐしゃぐしゃ。
それでも、目元には力が残っているように感じた。

「私、まだまだやれる」

小さく呟いた。

あのとに体育館で感じた情熱を、今の夢にも注げばいい。

 失敗しても、悔しくても、また立ち上がればいい。

夕方、また配信をしよう。
今度は泣くんじゃなくて、ちゃんと前を見て画面に映る。

髪を整えて、前髪をヘアアイロンで揃えて、メイクもして画面に映る。

画面のひとたちと真正面で向かい合おう。

そう決意して私は強い足取りで浴室を出た。

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