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第一章 奈国連合( 建武中元元年・西暦五六年 )
先見の明
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「毛皮を纏っていこう」
熊家には熊の毛皮をはじめ、獣の毛皮が多数残されている。両親が早く亡くなったため、くわしい謂れはわからないが、熊家が秦の朝廷に仕えていたとき、宮中の大事な行事を執り行っていたときにこの毛皮を使っていたようだ。
「こんな物でも、役に立つことがあるものだ」
引っ張り出してみると、長い年月が経っているが大切に保管されていたので、どれも艶のある立派な毛皮ばかりだった。特に、熊の毛皮は巨大なもので、このような大きな熊を熊叡は見たことがなかった。さっそく、精鋭の二十一人を呼び寄せ、それぞれに獣の毛皮を手渡した。
朝餉を済まし、毛皮を纏った異様な格好の連中が、博多の港に集まった。重要な使者たちだが、極秘のため見送るのは徐学一人である。
徐学は、熊叡たちの出で立ちに満足のようだ。
壱岐、對馬と、これまで何度となく訓練を繰り返した航路を無事に終え、馬韓に入った。今回は大商人のいる扶安は避け、北の端の金浦の港に向かった。こんな格好でいるところを見つかると、大商人からあれこれと詮索されるに違いない。熊叡にとって、そんなことで大事な時間を失う余裕はないのである。
金浦の港に着き、船から下りると何やら怒鳴り声が聞こえる。
「お前のような痩せっぽっちが船方になれるか。帰れ、帰れ」
声の主は、これから出航しようという大型船の船方で、その頑強そうな男に痩せ細った若造が突き飛ばされるところだった。ひっくり返った若造は「薄情もの」と叫んだが、その声を聞いて熊叡は驚いた。ヒダカ一族の言葉である。
熊叡は、すぐに若造のそばまで行き「お前は倭から来たのか」と尋ねた。
「倭?何だそれは」
言葉が分からないだろうと憎まれ口をきいたのに、いきなり同じ言葉をしゃべる人間が話しかけてきたので、若造は慌てて逃げようとした。
「逃げなくてもよい。私は馬韓の者ではない。お前はヒダカ一族か?」
「さっきから、倭とか、ヒダカ一族とか。何だ、それは?儂は辰韓から来たんだ」
「辰韓の人間が、どうしてヒダカ一族の言葉を話すのだ?」
「ヒダカ一族の言葉だと。これは斯盧の言葉だ」
熊叡は初めて知った。朝鮮半島でヒダカ一族と同じ言葉を話す国があるのだ。
「分かった、分かった。それは悪かった。許してくれ。ところで、お前は船方になりたいそうだがどうしてだ。体は痩せているし、まだ子供だろう」
「船方になりたいわけじゃない。雒陽へ行きたいのだ。そこで、金を儲けて両親を呼ぶ。貧乏な生活はもういやだ」
「雒陽へ行けば、金持ちになれるのか」
「あぁ。儂はどの国の言葉も、すぐに話せるようになる。漢語も、交易で来ていた漢人の世話をしていて覚えた。雒陽には西の砂漠を越えて、いろんな国から商人がやってくるそうだ。その連中の間に入ってうまくやるのさ」
熊叡はこの若造に興味を持った。なによりも、漢語が話せるというのは都合が良い。
徐一族は、奈国連合の中で唯一、漢語使い続けてきた。熊叡も、徐学に、わが子同然に育てられたため、漢語を話し、書くことができる。しかし、腹心のアウトヨですら、熊叡が漢語を話せることを知らない。すべて極秘であった。
徐一族以外は、ヒダカ一族の言葉しか話せないし文字は使えない。奈国はそんな未開の国として、周りの国々に知られている。そのため、朝貢にはどうしても通事を連れて行かなければならないのである。
「若造、私はこれから陸路で雒陽に向かう。お前が本当に漢語が話せるなら、通事として雇ってやってもいいぞ」
そう言うと、近くにいた男を指さして、「あそこにいるのは漢人のようだ。あの男が、今一番欲しいものは何か聞き出して来い。うまくいけば雇ってやる」
「今、一番欲しい物を聞き出せば良いのですね」と、若造はとたんに丁寧な言葉使いに変わった。現金な奴だ。
若造が男に近づくと、男は妙な奴が来たと顔を背けた。しかし、若造は世間話で男の警戒心を解き、男は商人で絹織物の買いつけにやって来たことを聞き出した。若造が辰韓人だと分かると、辰韓の絹は質がよいので、高値で買ってやるとまで言わせた。
「十分だ。あれなら通事として使える」
熊叡は、すぐに若造を呼び戻した。
「若造、名前は何という」
「コマルと申します」
年は十五歳だと言う。すぐに、通事にふさわしい衣服と毛皮を用意してやった。見かけは立派な通事となった。
金浦を出て十日後、熊叡たちは楽浪郡の役所に到着した。ここで、入漢の手続きをするのだが、時間を無駄にしたくないため、長官には袖の下をたっぷりと用意してきた。
役所に入り、長官の前で熊叡が挨拶をしようとしたとき、予期せぬことが起こった。
「勅命。勅命」と大声で叫びながら、十数名の兵士が入ってきた。鎧と兜は黄金に輝いている。近衛兵である。その中の隊長らしい男が、長官のそばまで行くと「勅命である。下がれ」と命令し、勅旨を長官の鼻の先につき出した。
長官は慌てて、熊叡のいる場所にまで降りてくると、熊叡の横に並んでひざまずいた。
「勅命により、奈国の使者は我々近衛兵が護衛に当たり、今すぐ雒陽に向けて出発する」
あまりにも急なことで、熊叡は事の成り行きが理解できないでいた。隊長は勅命を続ける。長官はただ、おろおろするばかりで、彼も事情が理解できないようだ。
「通事は誰だ。大夫に伝えよ『殿下のお望みの品は持ってきているか』と」
コマルは慌てて通訳をする。
「殿下のお望みの品は持ってきているかとお聞きです」
「持ってきていると答えなさい」と熊叡がコマルに言うと、その通訳を待たずに「献上の品以外の貢物は必要ない。すべて持ち帰れ」と隊長は続けた。
そして、すぐに熊叡とコマルは役所の外に連れ出された。門の前では、アウトヨたちが整列させられ、そのそばには数十人の騎馬兵と空馬が並んでいた。雒陽までは、熊叡たちを馬で連れていくようだ。しかしよく見ると、空馬は十頭しかいない。
「十人だけ雒陽に連れて行く。あとの者は奈国に帰れ」
熊叡は、アウトヨ以下八人の従者を選び、残りの者に奈国へ戻るように命じた。
「近衛兵が役所に入ってきたのは、あまりにも間が良すぎる。我々が役所に入るところを見ていたかのようだ」
そのとき、熊叡は徐学が「目立つ格好で行け」と言ったことを思い出した。
漢は、馬韓や楽浪郡に間諜を送り込んでいたのだ。熊叡たちの動きは、逐一見張られていた。こうなることを、徐学は見抜いていたに違いない。そこで、間諜に見つけやすくするために、熊叡たちに目立つ格好をさせたのだ。
おかげで、長官に渡すつもりの袖の下は必要なくなったし、なによりも、無駄な時間をかけずに雒陽へ出発することができる。
「コマル、お前は馬に乗れるか」
「はい。牛にだって乗れます」
熊叡にとって、連れて行く船方が半数になったのは痛い。しかし、ここでそんなことを心配しても仕方がない。「一刻を争う今、これで充分だ」熊叡は気持ちを切りかえた。
熊家には熊の毛皮をはじめ、獣の毛皮が多数残されている。両親が早く亡くなったため、くわしい謂れはわからないが、熊家が秦の朝廷に仕えていたとき、宮中の大事な行事を執り行っていたときにこの毛皮を使っていたようだ。
「こんな物でも、役に立つことがあるものだ」
引っ張り出してみると、長い年月が経っているが大切に保管されていたので、どれも艶のある立派な毛皮ばかりだった。特に、熊の毛皮は巨大なもので、このような大きな熊を熊叡は見たことがなかった。さっそく、精鋭の二十一人を呼び寄せ、それぞれに獣の毛皮を手渡した。
朝餉を済まし、毛皮を纏った異様な格好の連中が、博多の港に集まった。重要な使者たちだが、極秘のため見送るのは徐学一人である。
徐学は、熊叡たちの出で立ちに満足のようだ。
壱岐、對馬と、これまで何度となく訓練を繰り返した航路を無事に終え、馬韓に入った。今回は大商人のいる扶安は避け、北の端の金浦の港に向かった。こんな格好でいるところを見つかると、大商人からあれこれと詮索されるに違いない。熊叡にとって、そんなことで大事な時間を失う余裕はないのである。
金浦の港に着き、船から下りると何やら怒鳴り声が聞こえる。
「お前のような痩せっぽっちが船方になれるか。帰れ、帰れ」
声の主は、これから出航しようという大型船の船方で、その頑強そうな男に痩せ細った若造が突き飛ばされるところだった。ひっくり返った若造は「薄情もの」と叫んだが、その声を聞いて熊叡は驚いた。ヒダカ一族の言葉である。
熊叡は、すぐに若造のそばまで行き「お前は倭から来たのか」と尋ねた。
「倭?何だそれは」
言葉が分からないだろうと憎まれ口をきいたのに、いきなり同じ言葉をしゃべる人間が話しかけてきたので、若造は慌てて逃げようとした。
「逃げなくてもよい。私は馬韓の者ではない。お前はヒダカ一族か?」
「さっきから、倭とか、ヒダカ一族とか。何だ、それは?儂は辰韓から来たんだ」
「辰韓の人間が、どうしてヒダカ一族の言葉を話すのだ?」
「ヒダカ一族の言葉だと。これは斯盧の言葉だ」
熊叡は初めて知った。朝鮮半島でヒダカ一族と同じ言葉を話す国があるのだ。
「分かった、分かった。それは悪かった。許してくれ。ところで、お前は船方になりたいそうだがどうしてだ。体は痩せているし、まだ子供だろう」
「船方になりたいわけじゃない。雒陽へ行きたいのだ。そこで、金を儲けて両親を呼ぶ。貧乏な生活はもういやだ」
「雒陽へ行けば、金持ちになれるのか」
「あぁ。儂はどの国の言葉も、すぐに話せるようになる。漢語も、交易で来ていた漢人の世話をしていて覚えた。雒陽には西の砂漠を越えて、いろんな国から商人がやってくるそうだ。その連中の間に入ってうまくやるのさ」
熊叡はこの若造に興味を持った。なによりも、漢語が話せるというのは都合が良い。
徐一族は、奈国連合の中で唯一、漢語使い続けてきた。熊叡も、徐学に、わが子同然に育てられたため、漢語を話し、書くことができる。しかし、腹心のアウトヨですら、熊叡が漢語を話せることを知らない。すべて極秘であった。
徐一族以外は、ヒダカ一族の言葉しか話せないし文字は使えない。奈国はそんな未開の国として、周りの国々に知られている。そのため、朝貢にはどうしても通事を連れて行かなければならないのである。
「若造、私はこれから陸路で雒陽に向かう。お前が本当に漢語が話せるなら、通事として雇ってやってもいいぞ」
そう言うと、近くにいた男を指さして、「あそこにいるのは漢人のようだ。あの男が、今一番欲しいものは何か聞き出して来い。うまくいけば雇ってやる」
「今、一番欲しい物を聞き出せば良いのですね」と、若造はとたんに丁寧な言葉使いに変わった。現金な奴だ。
若造が男に近づくと、男は妙な奴が来たと顔を背けた。しかし、若造は世間話で男の警戒心を解き、男は商人で絹織物の買いつけにやって来たことを聞き出した。若造が辰韓人だと分かると、辰韓の絹は質がよいので、高値で買ってやるとまで言わせた。
「十分だ。あれなら通事として使える」
熊叡は、すぐに若造を呼び戻した。
「若造、名前は何という」
「コマルと申します」
年は十五歳だと言う。すぐに、通事にふさわしい衣服と毛皮を用意してやった。見かけは立派な通事となった。
金浦を出て十日後、熊叡たちは楽浪郡の役所に到着した。ここで、入漢の手続きをするのだが、時間を無駄にしたくないため、長官には袖の下をたっぷりと用意してきた。
役所に入り、長官の前で熊叡が挨拶をしようとしたとき、予期せぬことが起こった。
「勅命。勅命」と大声で叫びながら、十数名の兵士が入ってきた。鎧と兜は黄金に輝いている。近衛兵である。その中の隊長らしい男が、長官のそばまで行くと「勅命である。下がれ」と命令し、勅旨を長官の鼻の先につき出した。
長官は慌てて、熊叡のいる場所にまで降りてくると、熊叡の横に並んでひざまずいた。
「勅命により、奈国の使者は我々近衛兵が護衛に当たり、今すぐ雒陽に向けて出発する」
あまりにも急なことで、熊叡は事の成り行きが理解できないでいた。隊長は勅命を続ける。長官はただ、おろおろするばかりで、彼も事情が理解できないようだ。
「通事は誰だ。大夫に伝えよ『殿下のお望みの品は持ってきているか』と」
コマルは慌てて通訳をする。
「殿下のお望みの品は持ってきているかとお聞きです」
「持ってきていると答えなさい」と熊叡がコマルに言うと、その通訳を待たずに「献上の品以外の貢物は必要ない。すべて持ち帰れ」と隊長は続けた。
そして、すぐに熊叡とコマルは役所の外に連れ出された。門の前では、アウトヨたちが整列させられ、そのそばには数十人の騎馬兵と空馬が並んでいた。雒陽までは、熊叡たちを馬で連れていくようだ。しかしよく見ると、空馬は十頭しかいない。
「十人だけ雒陽に連れて行く。あとの者は奈国に帰れ」
熊叡は、アウトヨ以下八人の従者を選び、残りの者に奈国へ戻るように命じた。
「近衛兵が役所に入ってきたのは、あまりにも間が良すぎる。我々が役所に入るところを見ていたかのようだ」
そのとき、熊叡は徐学が「目立つ格好で行け」と言ったことを思い出した。
漢は、馬韓や楽浪郡に間諜を送り込んでいたのだ。熊叡たちの動きは、逐一見張られていた。こうなることを、徐学は見抜いていたに違いない。そこで、間諜に見つけやすくするために、熊叡たちに目立つ格好をさせたのだ。
おかげで、長官に渡すつもりの袖の下は必要なくなったし、なによりも、無駄な時間をかけずに雒陽へ出発することができる。
「コマル、お前は馬に乗れるか」
「はい。牛にだって乗れます」
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