不老ふしあわせ

くま邦彦

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第二章 夏一族( 建安九年・西暦ニ〇四年 )

米塚

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 奈国を出発して約二か月、やっと耶馬一国にたどり着いた。梯儁らはまさにたどり着いたという状態で、徐熊の策略はみごとに成功した。いよいよ最後の仕上げである。
 大王の館の前で出迎えた文成は、大王と名乗らず梯儁を館の中へ案内した。正面の階段を上がると謁見の間で、普段ならここで各国の王が文成と会談を行うのであるが、今回は様子が違っていた。
「ここから先は、梯儁殿お一人で女王火巫女様に謁見していただきます。お供の方々は、ここでお待ちください」
 そう言って文成は扉を開ける。内は照明がなく、中ほどまでは扉から差し込む光で床がかろうじて見える。梯儁が入ると、すぐに文成は扉を閉めた。もう全く見えない。
 さすがに武官である梯儁は、前方に人の気配を感じた。その時、前方の壁の一部から、わずかに光が差し込んだ。気配は影となって梯儁の前に姿を現した。光がさらに増すと影は一層濃くなる。しかし、後方からの光のため顔は見えない。
「私が火巫女です」影がしゃべったが、梯儁は茫然として口上が出てこない。
「お使者様、詔書と印綬をこれへ」と言って、横から盆が差し出された。横にも従者がいたようだが、完全に気配は消されていた。梯儁は言われるとおりに盆の上に詔書と印綬を置いた。
 従者は盆を掲げて火巫女のところまで持っていくと、火巫女はそれを受け取り「長旅、御苦労でした」とだけ答えると光が消え、謁見の間は再び真っ暗闇となった。
 一言も発しないまま立ち尽くす梯儁だったが、すぐに入り口の扉が開き、「お使者殿、こちらへ」という文成の言葉で、足元をふらつかせながら出てきた。今あったことをどのように報告したらよいものか、帯方郡に着くまで梯儁は頭を悩ませ続けることになる。
 徐熊の思惑通り、司馬懿には耶馬一国ははるか遠くの国として報告されたようで、当面の危機は回避された。もっとも、司馬懿の方も魏での実権は握ることができたが、蜀と呉を滅ぼすまでには至らなかった。ただ、難升米には策士として興味があったのか、再三朝貢するようにと連絡をしてきた。徐熊はその都度、木の国から駆けつけ対応することになる。
 正始八年(二四七)、瑞麗が八十八歳で亡くなった。徐熊が夏一族の掟を破ったために、麗媛が後を継げず、長い間九州の龍退治を続けてきた。おかげで、九州の龍は東馬国の卵一個を残して、すべて退治することができた。
 墓は瑞麗の遺言通り、社の北にある乳房山に埋葬された。以後、この山は火巫女塚と呼ばれ、いつしか八十八塚(米塚)と呼ばれるようになった。
 さらに四年後、嘉平三年(二五一)司馬懿が死んだと呂強から連絡が入った。
 徐熊は、「これで、難升米としての役目はすべて終わった」と、徐福に耶馬一連合の行く末を頼んで木の国に戻って行った。
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