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第三章 和二一族( 太康十年・西暦二八九年)
逃げ出した敵将
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スゴウデと息子のテカシタは近くの森から、五丈もあるかと思える松の木を引き抜いてきて、二人で南側の土塀をその松の木で叩き始めた。これには土塀の上で警備していた兵士たちはびっくりした。大きな揺れと共に、徐々ではあるが土塀の土がはがれ始めた。慌てた兵士たちはスゴウデ親子に矢を射ようとした。
その時、最初に弓を構えた兵士の額に、矢が突き刺さった。ワシノメの息子のメカシタがスゴウデ親子の手助けに備えていたのである。メカシタは弓を構えた兵士から順に、寸分違わず額を射抜いた。次々と倒れる兵士を見て、後の兵士たちは顔を上げることができなくなった。
北門では「よし」というスゴウデの声を聞いたヤツミミが、コウタリに合図を送る。ワシノメが弓を構えると同時に、コウタリは土塀に向かって走り始めた。土塀の二丈ほど手前で左足でポーンと地面を蹴ると、土塀を越え館内に吸い込まれていく。次の瞬間、城門がギギーと音を立てて開いた。
わずかな時間である。間髪入れずに、クマノクスビは兵士を館内に突入させた。遅れるとコウタリが危ない。クマノクスビは兵士たちに、無益な殺生はするなと命令していた。タカシレウクを見つけたら生け捕りにしろと言ってある。それは、兵士たちにとってありがたかった。今は敵味方に分かれて戦ってはいるが、同じヒダカ一族である。
西門には兵士を待機させていたが、東門には見張りの兵以外は配置しなかった。逃げ出すとしたら東門だけである。そして、そのまま若狭国を目指して逃げた者は放っておけと命令されていた。
しばらくすると、東門の見張りから報告が入った。一番最初に東門から逃げ出したのはなんと、国王のタカシレウクだった。重臣を五人引き連れて馬で一目散に若狭に向かったという。
その後を追うように数十の騎兵が逃げ出し、しばらく間をおいて今度は歩兵が飛び出していったという。館内には女子供もいたはずだが、女子供が逃げ出した形跡はない。
すると今度は、北門から突入した兵士から連絡が入った。逃げ遅れた女子供を捕まえたがどうすればよいか命令を待っているという。
クマノクスビは呆れ返ったが、兵士たちが館に残って抵抗していれば、多くの命が失われていたところだったので、結果的にはこれでよかった。
「女子供には食料を持たせて、若狭まで歩いて移動させろ」と命令した。
問題は出雲国の住民の処置である。やっとこの土地にも慣れ、作物の収穫も順調に進んで居れば、田畑を捨てて出雲を去ることができない者もいるだろう。中にはタカシレウクについて若狭に行きたい者もいるだろう。
クマノクスビは、困ったときは人に頼ることを厭わない。すぐに石見国の王シラウキに連絡をとった。
その時、最初に弓を構えた兵士の額に、矢が突き刺さった。ワシノメの息子のメカシタがスゴウデ親子の手助けに備えていたのである。メカシタは弓を構えた兵士から順に、寸分違わず額を射抜いた。次々と倒れる兵士を見て、後の兵士たちは顔を上げることができなくなった。
北門では「よし」というスゴウデの声を聞いたヤツミミが、コウタリに合図を送る。ワシノメが弓を構えると同時に、コウタリは土塀に向かって走り始めた。土塀の二丈ほど手前で左足でポーンと地面を蹴ると、土塀を越え館内に吸い込まれていく。次の瞬間、城門がギギーと音を立てて開いた。
わずかな時間である。間髪入れずに、クマノクスビは兵士を館内に突入させた。遅れるとコウタリが危ない。クマノクスビは兵士たちに、無益な殺生はするなと命令していた。タカシレウクを見つけたら生け捕りにしろと言ってある。それは、兵士たちにとってありがたかった。今は敵味方に分かれて戦ってはいるが、同じヒダカ一族である。
西門には兵士を待機させていたが、東門には見張りの兵以外は配置しなかった。逃げ出すとしたら東門だけである。そして、そのまま若狭国を目指して逃げた者は放っておけと命令されていた。
しばらくすると、東門の見張りから報告が入った。一番最初に東門から逃げ出したのはなんと、国王のタカシレウクだった。重臣を五人引き連れて馬で一目散に若狭に向かったという。
その後を追うように数十の騎兵が逃げ出し、しばらく間をおいて今度は歩兵が飛び出していったという。館内には女子供もいたはずだが、女子供が逃げ出した形跡はない。
すると今度は、北門から突入した兵士から連絡が入った。逃げ遅れた女子供を捕まえたがどうすればよいか命令を待っているという。
クマノクスビは呆れ返ったが、兵士たちが館に残って抵抗していれば、多くの命が失われていたところだったので、結果的にはこれでよかった。
「女子供には食料を持たせて、若狭まで歩いて移動させろ」と命令した。
問題は出雲国の住民の処置である。やっとこの土地にも慣れ、作物の収穫も順調に進んで居れば、田畑を捨てて出雲を去ることができない者もいるだろう。中にはタカシレウクについて若狭に行きたい者もいるだろう。
クマノクスビは、困ったときは人に頼ることを厭わない。すぐに石見国の王シラウキに連絡をとった。
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