不老ふしあわせ

くま邦彦

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第三章 和二一族( 太康十年・西暦二八九年)

ワニ一族の超能力

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 クマノクスビは土塀を取り囲んだ。自分が作った難攻不落の館である。普通に攻めたら兵に甚大な被害が出るに決まっている。ここはワニ一族の超能力に頼るしかない。
 ワニ一族の超能力は、五種類の丸薬を飲むことで発揮されるが、それぞれどの丸薬をどの一家が飲むか決まっている。一つは族長、他の四つは四天王家と呼ばれる家で、家長と長男だけに許されている。それが世襲で代々受け継がれてきた。
 実際に、慣れない者がこの丸薬を飲むと、その超能力が使いこなせず、重傷を負ったり中には死んだ例もあるという。これまでなら、族長が指示を出すのだが、今回クマノクスビはそれができない。すべてを一家の長に任せることにした。
 四天王の家長を呼び、館の配置を説明した。
「固い防御だが、突破できるか」
「土塀を壊すこともできますが、さすがにこの土塀では相当時間がかかります」
 スゴウデが答えた。スゴウデは一丈はあるかと思える大男である。黄色の丸薬を飲み、凄まじい怪力を発揮するという。
「私が土塀を飛び越えて、中から城門を開けましょう」
 そう言ったのは、この男も九尺はありそうな、長身のコウタリである。紫色の丸薬を飲むと、超人的な脚力を発揮するという。その脚力で三丈もある土塀を跳び越えるという。
「それなら、コウタリが飛び越えるあたりにいる兵士たちを、私の矢で威嚇しましょう」
 ワシノメが言う。彼は黄緑色の丸薬を飲むと、一里先の小石を識別することができ、土塀の上に兵士の姿が見えたら、百発百中命中させることができる。
「それなら、儂は反対側の土塀を壊し始めて、注意をそちらに向けよう」
「それならスゴウデ、壊し始めたら『よし』と言ってくれ。それを聞いて、儂がコウタリとワシノメに合図を送る」
 そう言ったのはヤツミミである。彼は白色の丸薬を飲むと、三里離れた音を聞き分けることができる。それでは周りの音が聞こえすぎてやかましいだろうと、クマノクスビが心配して言うと、聞きたくない音は遮断することができるという。なんと便利な能力だろう。
 これでクマノクスビ側の作戦は決まった。兵士たちは、合図があれば城門から突入できるように近くに身を隠した。普通なら、闇に乗じて奇襲をかけるのが常套手段だが、暗闇だと同士討ちをする危険がある。クマノクスビはなによりも、ワニ一族の超能力を自分の目で確かめたいと思っている。もし本当にそのような超能力が発揮されるなら、味方にとって見えた方が心強く、敵にとっては大打撃となる。作戦は真昼に決行されることになった。
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