異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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2章 少女との出会いそして同行

2.3 初めて狩猟完了報告をした話

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 人目につかない街外れに降り、カゴに車輪を創造し縄を引いて街に入った。

 人々が足を止め”1人で荷車を引いている!”や”噂の来訪人だ”と話しているのが聞こえてくる。

 まあ活躍もしているようだし、それなりに暴れているから嫌でも目立つ。

 ここは我慢するしかないだろうな。

 獣市に到着し、受付でディパーグの出品をお願いする。

「このディパーグを・・・1人で仕留めたと?」

 市場の受付にいた青年が、ディパーグを見ながら驚愕している。

「このサイズ、もうすぐメガディパーグになる個体だったようですね。それを1人で仕留めるとは」

 狩猟完了を登録していなかったので、狩猟者証をディパーグにあてると魔法陣が出現し、狩猟完了の登録がされる。

 登録が終わったのを確認し、ディパーグを荷車ごと引き取りに来た男たちに渡した。

「頭の切り口も奇麗で、個体の状態も良い。これは高値が期待できますよ!」

 青年はそう言うと受け付けを済ませ、俺の後ろに並んでいた人の対応に移った。

 待つのにも暇だったので、俺は市場の近くにある露店を見て回る事にした。

 この国の装飾品など目新しいものが沢山あり、見ているだけでも楽しい。

「よう! 兄ちゃん」

 そんな中、声をかけてきたのは騎馬騎士隊の隊長だった。

「聞いたぜ! 大物のディパーグを仕留めたらしいな」

「何の用だ?」

「そっけねえな」

 関わりたくないと思った奴に程、会ってしまうのは何だろうな。

 こいつと話しても、ろくな事にならない気がする。

「兄ちゃんに折り入って、頼みがあるんだがよ」

「断る」

「聞くだけ聞いてくれよ! その~・・・なんだ・・・うちのパーティー、騎馬騎士隊に入ってくれねえか?」

「何故だ? 俺に何のメリットがある?」

「・・・それはだな」

 大方稼ぎ頭になってもらって、自分達は楽をしようという魂胆なんだろう。

 昨日あれだけ楽をして、金貨を得ているしな。

 人は楽な方、楽な方に逃げ、利益を得られると思ったものは、是が非でも確保しようとする。

 こいつからはそんな意図が露骨に伝わって来るし、待っても回答が無いのが何よりの証拠だろう。

「俺になんのメリットもないのに、そんな誘いを受けるわけないだろう」

「しょうがねえな~、腹割って話すよ。最近うちもメンバーが増えたりしたんだが、狩猟の成果が上がってなくてな。騎馬騎士隊はブロンズしかいないんだが、ブロンズで受けられる依頼じゃ生計を立てられなくなってきてるんだよ」

「メンバーを減らせばいいだろ」

「うちに1人でやっていける奴はいね~し、引き取ってくれるところもいないだろうから、そんな事する訳にいかないんだよ。兄ちゃんゴールドの13になったんだろ? 頼むよ、助けてくれ」

 もうこいつの耳に入るくらい、噂になっているのだろうか。

 だとするとこいつみたいに俺を利用しようとする奴が、他にも現れそうだな。

 それにしてもいちいち癇に障るかんにさわる喋り方をする奴だ。

「引き取り手が無いか・・・。その様子じゃ、お前ら他のパーティーと問題を起こしたりしてるのか?」

「それは・・・」

 こいつらみたいな小物がしそうなのは、報酬の持ち逃げ、獲物の横取り、かつあげといったところか。

 今日も組合で、同じような事があったしな。

「頼む! 昨日のメガネパルも、無理に無理を言って受注させてもらったんだ。お前が居れば実入りの良い仕事も受けられるだろ!」

 人の往来の中、隊長は大声で懇願してくる。

 ようは俺に狩猟させて、報酬だけ寄こせと言っているだけじゃないか。

 無理を言ってということは、こいつらはメガネパルも狩猟出来ていたかも分からなかったという事。

 正直なんの役にも立たないだろう。

 それに頼んでいる割には、一度も頭を下げようとしない。

 これで受け入れてもらえると思っているのだろうか?

「断る。クズが・・・」

「その言い方は無いだろ! こんなに頼んでるのに、お前に人の心は無いのか?」

「俺は・・・誰からも人間扱いされてこなかった。俺にとって人と関わる事は苦しみの象徴でしかないし、人としての心なんて作ってこなかったんでね。狩猟で食べていけないのなら、他の仕事をすれば良いだけの話だ。結局お前は、楽して甘い汁を吸いたいだけなんだよ」

「俺はそんなつもりは!」

「否定しても無駄だ。お前の話は不快でしかない。俺は遊ばれて搾取され続けてきた。もう誰からも利用されない」

「この野郎!」

 隊長は剣を抜き切りかかってくる。振り下ろされた力の無い剣をかわし、右ストレートを顔面に入れて壁まで吹き飛ばす。

 今朝の女のように、歯が何本か飛び、鼻は醜い押し花のように潰れている。

「・・・兄ちゃん・・・良い死に方しないぜ」

 俺が近付くと捨て台詞を吐いて、隊長はそのまま気絶してしまった。

「知っているよ・・・」

 気絶した隊長に向かって、俺は寂しく呟いた。

 そのまま市場巡りを止めて獣市に戻ると、もう競りは終わっていて金を受け取る事が出来た。

 今度は金貨26枚になったので、かなりの儲けになって喜びたいが、俺は不快な気持が晴れないまま。

 やはり人と関わるとロクな事がない。

 そうだ、狩猟完了報告をする必要がある事を思い出し、金を受け取って、直ぐ狩猟組合に向かう事にした。

 狩猟組合の建物に入り、驚いた顔をしている受付嬢の前に立つ。

 狩猟者証を取り出し、狩猟が完了した事を告げる。

 受付嬢は半信半疑で魔法陣に狩猟者証を入れると、魔法陣が光始めて、狩猟履歴が情報として記録され、今回の依頼が完了になった事が、空中に浮かぶ光の文字として表示される。

「狩猟完了!?」

 受付嬢の声が建物に響く。これじゃ晒されものだな。

「半日程しか経っていないのですけど・・・」

「急ぎましたので」

「急いだっていう・・・話でもないですが」

「超急ぎましたので」

「・・・承知しました」

 手続きが完了し、組合を立ち去ろうとする。

 今朝の事もあって、周囲からの目線が突き刺さるな。

 さっきの隊長みたいな、不快な奴等が近付いてくるようになる前に、やはりこの街を離れた方が良いだろう。

 とりあえずの目標として、金貨100枚以上を貯めたら移動するとするか。

 後は宿屋に帰るだけなのだが、この先の旅の為にも食糧を買う必要があるので、この世界の食文化を観察してからにした。

 肉類はどんな動物か分からないが、乳製品と野菜は見慣れたものが多い。

 調味料は砂糖、塩、スパイスはあるようだが、なじみ深い醤油や味噌などは見当たらなかった。

 道中武器屋と防具屋を見つけたが、正直ここに立ち寄る事は無いだろう。

 ゲネシキネシス<創造力>で事足りるしな。

 食材市場を回っている間に、日も暮れてきたので宿屋に戻る事にした。

 カウンターでの挨拶も程々にして部屋に戻り、風呂に入った時に何故か、あの少女の事を思い出す。

 あの少女は1人で討伐に来ていたようだが、何故そんな事をしていたのだろう。

 とても腕に自信があるようには、見えなかったが。

 "ありがとう"か。

 あんな事を言われたのは初めてだ。

 あの言葉を聞いた後、たまに知らない気持ちになる。

 自分を助けに来てくれたと勘違いしているから、出た言葉なんだろうが。

 だが自分にとって良い結果になったことへの感謝だから、間に合わなくて怪我でもしていれば文句を言われていたのだろう。

 所詮人間なんてそんなものだ。

 だが・・・金目的ではなさそうだったな。

 それの為に命を掛けに来たようには見えなかったが。

 どんな理由があっても、また危険に飛びこまないと良いが。

「何で気にしてるんだ・・・俺は」

 もう忘れてしまった方がいいだろう。2度と合う事もないだろうしな。

 風呂から出て今日もステーキを注文し、その味を堪能して寝床につく。

 ベッドも変わらずふかふかだ。こういう生活に憧れていたはずなのに。

 はずなのに・・・。自分以外誰もいない空間に、何か思う事がある。

 いや・・・もういい、考えるのをやめよう。
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