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2章 少女との出会いそして同行
2.4 もう少女が訪ねて来た話
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3日目の朝。
この世界は、個人的には生きやすい。
朝が来たら起きて、金を稼ぎに行き、市場と露店を見て帰り、暗くなったら寝る。
スマホも、もちろんインターネットも、テレビもない。
これが本来の、人間の生き方なんだろう。
それに殴り起こす父もいなければ、爆音で音楽を流して安眠を妨害する母もいない。
そんな人間がいないというのは、何と素敵な事か。
だから昨日寝る前に感じた、あの孤独感に似た気持は、一時の気の迷いなのだろう。
朝食を食べて着替えをし、宿屋を後にして狩猟組合に向かう。
順長に街を出る資金を稼げてはいるが、未だ分からないのは、俺はこの世界をどう救えばいいのかだ。
隣の国が内戦をしているらしいが、それが世界の危機になるとは思えないし。
もしかしたら・・・これから起きる危機なのかもしれないな。
俺が人を信じられるようになれば、世界は救われると神は言った。
残念だが、今のところより人間を嫌悪するようになっている。
どうやら賭けは、俺の勝ちで終わりそうだな。
組合の側まで来ると、人だかりというか男だかりが出来ている。
女性までも足を止めて、何かを見て去っている。
これでは組合の建物に入る事が出来ない。
飛び越えるか。
やや助走をつけて男だかりの上を飛び越え、それに気づいた数人が俺を指差し、驚きの声を上げている。
しまった・・・考えなく目立つ行動をとってしまった。
長い滞空時間を経て入口前に着地し、人目から離れる為に急いで中に入ろうとする。
「あの!」
背中から聞き覚えのある声がした。
「昨日ディパーグから、助けて頂いた者です!」
振り返るより先に手を握られる。
手を握り返さずに振り返ると、やはりあの時の少女がいた。
俺の刀と似た青みがかった鎧ドレス、鉄の剣を携えて微笑みながら立っている。
あの時は数分の関わりだったし、ちゃんと見ていなかったがかなり可愛いな。
何故かこいつを見ると、複雑な気持ちになる。
手を振りほどく事が出来ず、嫌悪感と安らぎの入り混じった感覚が襲ってくる。
改めて会ってみると、こいつからはどこか俺と近しいものを感じるからだろうか。
俺と同じように、心に闇を抱えている感じがする。
「手を離してもらえるか? 依頼を受けて出発したいんだが」
「失礼は承知していますが、どうかお話をさせて頂きたいのです」
「俺に何のメリットがある?」
「メリットは・・・恐らくありませんが・・・」
「では話は終わりだ」
手を振り解き、中に入ろうとする。
「おいおい! こんな可愛い子の誘いを断るのか?」
「羨ましい限りなのに! てめぇー! 何様だ!」
「断るんだったら寄こしやがれ! このマスク野郎!」
何だ・・・この罵詈雑言の嵐は。
とはいえ騒ぎのままで依頼を受注して出かけてしまうと、何か変な尾ひれが付いて噂が広まりそうな感じがする。
「分かった・・・。ここは騒がしいから場所を変えよう。俺が泊っている宿屋の中に、食事処があった筈だから、そこで聞こう」
「はい! ありがとうございます!」
少女を伴って来た道を戻る。
まさかこんな形で引き返す事になるとはな。
「いきなり宿屋か! このスケベ野郎!」
「手が早いな! まだ若い子なのに関係ないってか!」
「お願いします! 譲って下さい!」
あれ・・・これって逆効果だったんじゃないか? というかさっきから1つだけ、願望の声が聞こえる気が。
宿屋に戻り、食事処と言われたカフェのような一角に座る。
幸い他に客はいなかったので、周りに配慮して話さなくて済みそうだ。
「俺は必要ないから、自分が飲む物だけ好きに注文しろ。金は俺が出してやる」
「いいんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
少女は店員を呼び、リクヨ茶というのを頼んだ。
この世界の茶なのか? 聞いたことがないが。
しばらくして店員はリクヨ茶を持ってきて、少女の前に置く。
ちょっと待て・・・これどう見ても緑茶何だが。
マスク越しに香る茶の匂いも、普通に緑茶だぞ。それがティーカップに入ってると、何かシュールだな。
少女は一口だけリクヨ茶を飲み、しとやかにカップを置いて俺に向き直る。
「で? 話しというのは何だ? 単刀直入に話せ。回りくどいのは嫌いだ」
「はい。・・・私を、あなたのパーティーに加えて頂きたいのです」
「断る」
「ですよね・・・」
随分納得するのが早いな。まるで断られるのが、分かっていたようだ。
「そもそもパーティーを組まず、お1人で活動されているのは何となく分かっていました。あなたから漂う雰囲気は、人を拒絶しているものです。ですが私も思う事があり、万に一つの可能性にかけて訪ねてみました。やはり断られてしまいましたが」
「なんで俺がバビロアにいる事が分かった?」
「依頼を受けて来られたとおっしゃっていたので・・・。ここらで狩猟組合があるのはバビロアだけですし」
「なるほどな。という事はあの後直ぐ村を出て、ここまで歩いてきたのか?」
「はい。もちろん道中で仮眠をとりましたが」
「そこまでして?」
断られる事を察していたにも関わらず、そこまでして俺を追ってきたのか。
金や俺を利用する目的では効率が悪すぎるし・・・他に理由がありそうだ。
「ここまで来たんだ。そこまでして来た理由位は聞いてやる」
「はい! ありがとうございます!」
この世界は、個人的には生きやすい。
朝が来たら起きて、金を稼ぎに行き、市場と露店を見て帰り、暗くなったら寝る。
スマホも、もちろんインターネットも、テレビもない。
これが本来の、人間の生き方なんだろう。
それに殴り起こす父もいなければ、爆音で音楽を流して安眠を妨害する母もいない。
そんな人間がいないというのは、何と素敵な事か。
だから昨日寝る前に感じた、あの孤独感に似た気持は、一時の気の迷いなのだろう。
朝食を食べて着替えをし、宿屋を後にして狩猟組合に向かう。
順長に街を出る資金を稼げてはいるが、未だ分からないのは、俺はこの世界をどう救えばいいのかだ。
隣の国が内戦をしているらしいが、それが世界の危機になるとは思えないし。
もしかしたら・・・これから起きる危機なのかもしれないな。
俺が人を信じられるようになれば、世界は救われると神は言った。
残念だが、今のところより人間を嫌悪するようになっている。
どうやら賭けは、俺の勝ちで終わりそうだな。
組合の側まで来ると、人だかりというか男だかりが出来ている。
女性までも足を止めて、何かを見て去っている。
これでは組合の建物に入る事が出来ない。
飛び越えるか。
やや助走をつけて男だかりの上を飛び越え、それに気づいた数人が俺を指差し、驚きの声を上げている。
しまった・・・考えなく目立つ行動をとってしまった。
長い滞空時間を経て入口前に着地し、人目から離れる為に急いで中に入ろうとする。
「あの!」
背中から聞き覚えのある声がした。
「昨日ディパーグから、助けて頂いた者です!」
振り返るより先に手を握られる。
手を握り返さずに振り返ると、やはりあの時の少女がいた。
俺の刀と似た青みがかった鎧ドレス、鉄の剣を携えて微笑みながら立っている。
あの時は数分の関わりだったし、ちゃんと見ていなかったがかなり可愛いな。
何故かこいつを見ると、複雑な気持ちになる。
手を振りほどく事が出来ず、嫌悪感と安らぎの入り混じった感覚が襲ってくる。
改めて会ってみると、こいつからはどこか俺と近しいものを感じるからだろうか。
俺と同じように、心に闇を抱えている感じがする。
「手を離してもらえるか? 依頼を受けて出発したいんだが」
「失礼は承知していますが、どうかお話をさせて頂きたいのです」
「俺に何のメリットがある?」
「メリットは・・・恐らくありませんが・・・」
「では話は終わりだ」
手を振り解き、中に入ろうとする。
「おいおい! こんな可愛い子の誘いを断るのか?」
「羨ましい限りなのに! てめぇー! 何様だ!」
「断るんだったら寄こしやがれ! このマスク野郎!」
何だ・・・この罵詈雑言の嵐は。
とはいえ騒ぎのままで依頼を受注して出かけてしまうと、何か変な尾ひれが付いて噂が広まりそうな感じがする。
「分かった・・・。ここは騒がしいから場所を変えよう。俺が泊っている宿屋の中に、食事処があった筈だから、そこで聞こう」
「はい! ありがとうございます!」
少女を伴って来た道を戻る。
まさかこんな形で引き返す事になるとはな。
「いきなり宿屋か! このスケベ野郎!」
「手が早いな! まだ若い子なのに関係ないってか!」
「お願いします! 譲って下さい!」
あれ・・・これって逆効果だったんじゃないか? というかさっきから1つだけ、願望の声が聞こえる気が。
宿屋に戻り、食事処と言われたカフェのような一角に座る。
幸い他に客はいなかったので、周りに配慮して話さなくて済みそうだ。
「俺は必要ないから、自分が飲む物だけ好きに注文しろ。金は俺が出してやる」
「いいんですか?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
少女は店員を呼び、リクヨ茶というのを頼んだ。
この世界の茶なのか? 聞いたことがないが。
しばらくして店員はリクヨ茶を持ってきて、少女の前に置く。
ちょっと待て・・・これどう見ても緑茶何だが。
マスク越しに香る茶の匂いも、普通に緑茶だぞ。それがティーカップに入ってると、何かシュールだな。
少女は一口だけリクヨ茶を飲み、しとやかにカップを置いて俺に向き直る。
「で? 話しというのは何だ? 単刀直入に話せ。回りくどいのは嫌いだ」
「はい。・・・私を、あなたのパーティーに加えて頂きたいのです」
「断る」
「ですよね・・・」
随分納得するのが早いな。まるで断られるのが、分かっていたようだ。
「そもそもパーティーを組まず、お1人で活動されているのは何となく分かっていました。あなたから漂う雰囲気は、人を拒絶しているものです。ですが私も思う事があり、万に一つの可能性にかけて訪ねてみました。やはり断られてしまいましたが」
「なんで俺がバビロアにいる事が分かった?」
「依頼を受けて来られたとおっしゃっていたので・・・。ここらで狩猟組合があるのはバビロアだけですし」
「なるほどな。という事はあの後直ぐ村を出て、ここまで歩いてきたのか?」
「はい。もちろん道中で仮眠をとりましたが」
「そこまでして?」
断られる事を察していたにも関わらず、そこまでして俺を追ってきたのか。
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「ここまで来たんだ。そこまでして来た理由位は聞いてやる」
「はい! ありがとうございます!」
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