異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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5章 発明士との出会いそして旅へ

5.7 発明士の秘密を見つけた話

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 2人を連れて部屋を後にする。

 サラーに感謝するべきなんだろうか。俺はまだ、人を殺さずに済んでいる。

 何やらコジモの喚いている声が聞こえるが、もはや何を言ってるのかすら分からない。

 屋敷の外に出ると、ガルムとルルは大人しく待ったままだった。

「何やら騒ぎがあったみたいだよ」

「主よ、怪我はないか?」

「問題ない。だが、場合によってはこれから道中追われるかもしれない」

「人間など障害にもならぬ」

「僕も普通の人間だったら問題ないよ」

「工房に戻るです。ここに居ても良い事はないです」

「そうだな」

 ルルに荷馬車を牽いてもらい、工房に帰ってくる。

「もう日が暮れるな」

「出発した時間が時間ですからね」

「約束通り泊っていくです」

「本当にいいのか?」

「はいです。それに・・・1人でいるのは怖いです」

 そうか。俺のせいでサラーにも、コジモの恨みが及んでしまっているのか。もっと上手いやり方もあるのかもしれないが、俺は力を振るって自分の意志を通す事以外知らない。

 とはいえ、俺が暴れたからと思うと、流石に放って行くのにも抵抗がある。 

「泊って行く事にしよう」

 その言葉を聞いて、やっと笑顔になるサラー。この時のサラーの顔は若き天才発明士ではなく、年相応な女の子に見えた。

「ただ問題があるです」

「どうしたの? サラーちゃん」

「ベッドが無いのです。こっちの工房には、あたし用のベッドしかないです。小さくて、おにいちゃん達は寝れないです。師匠の使っていた工房に、大きいベッドがあるです。でも1つしかないです」

「問題ありません!」

 オリービアが鼻息荒く、ガッツポーズをしている。

「ルシファー様! しょうがないですね! 1つしかないんですから! 一緒に寝るしかないですね! 1つしかないんですから! だからルシファー様が、湧き上がる衝動を抑えられなくても! しょうがないですね!」

 しょうがないの理由が変わっている。そしてしょうがない事が起こる事を、望んでいる奴が目の前にいる。

「・・・とりあえず、レオハルドの工房にあるベッドを、実際に見せてくれないか?」

「そうですね。ルシファー様も、言い訳を考えないといけませんからね。あ! 置いてかないでください~」

 レオハルドが使っていた工房の扉を開ける。中はさほどサラーがいた方と変わらないが、奥にロフトのような物が見え、その上にベッドが置かれている。
 完全にシングルのベッドだな。2人で寝れなくもないが・・・、オリービアが抱きついて寝るような感じがする絶妙な面積だ。

「ルシファー様。今日は当たりそうな日なので、ご遠慮なく」

 嫌な配慮だ。・・・俺が家族を持っても、幸せに出来るとは思えないが。
 単純な話だが、俺は家族の幸せを知らないからな。自分に家族が出来たとしても、どうすればいいのか全く分からない。

「夜は・・・絶対に覗かないです」

 再びの嫌な配慮だ。

 盛り上がるオリービアと、赤面するサラーを尻目に、レオハルドの工房から出ようとした時、気になる物が置かれていた。
 ダイヤル式の金庫で、俺の背丈の半分程の大きさの、地面に直接置かれたそれが妙に気になる。

「サラー、あの金庫は?」

「金庫とはなんです?」

「これだよ」

「これが金庫なんです?」

 知らないのか。という事はこれは、レオハルドの発明ということか。

「このダイアルを回して、特定の文字列を揃えれば開くんだよ」

「なるほどです」

 ダイアルには数字ではなく文字が書かれているのが変わっている。何文字が答えなのかも分からないし、中を見たければ壊して開けるしかないか。

「開けてみるです」

 躊躇なく師匠の金庫を開けようとするのか。発明士としての興味の方が勝っているのだろう。
 ダイアルを回して、心当たりのある単語を入れているようだ。何回も何回も、凄い集中力で試すその姿は圧巻と言えるかもしれない。

 もう何度目かの挑戦で、サラーの動きが止まる。

 今度はゆっくりとダイアルを回した後、最後にハンドルへ手をかけて下ろす。
 重厚な音を立てて倒れたハンドルと同時に、中から空気の漏れる音がし、金属の擦れる音がして扉が開く。

「開いたです・・・」

「単語は何だったんだ?」

「”サラー”です」

 自分の名前が答えだった事を知り、サラーは固まってしまっている。

 自然と扉が開き続け、中が見えるようになると、そこには大量の金と設計図の数々があった。
 その中に紛れて紐で纏められた紙の束があり、気になって手に取り開いてみると、そこには今まで受けた依頼と、それぞれの収支が書かれていた。

「サラー、これを見てみろ」

 渡された紙の束を読むサラー。

「これに書かれているの、私が設計したものばかりです」

 収支を見ると、必要経費と最低限の生活費を除いて、全てこの金庫に入っているようだ。
 レオハルドは、サラーの力で遂行した依頼の報酬には手を付けていなかったようだ。もっと豪華な生活をしていると思ったが、これはいったいどういう事だろう。

「師匠・・・お金使っていなかったです」

「そのようだな」

 開けるための答えは”サラー”、それでサラーにやらせていた依頼の報酬は貯め込んでいた。

 これは・・・そういう事なのだろうな。
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