異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

文字の大きさ
52 / 107
7章 復活と使者そして仲間

7.2 神緑の森へ向かった話

しおりを挟む
「ここがゴモラの狩猟組合ですか」

「すごく・・・おっきいです」

 バビロアの倍以上の建物で、人の出入りもそれに比例して行われている。
 その為か、不揃いな寄せ集めであるヴァリオスハンターズの一行は、居るだけで注目を集めるようで、往来する人々は足を止めて見物人と化していた。

「これでは・・・隠密行動など出来ませんね」

 ざわつく群衆をよそに、オリービアはサラーに荷馬車で待つように告げ、1人で狩猟組合に入って行った。

「おねえちゃん、大丈夫です?」

「奥方に任せておけばよいだろう。それより顔を出すな」

「ごめんなさいです」

「怒ったわけではない」

 群衆は騒ぎこそ起こさないものの、消える事は無くガルムとルルを取り囲んでいる。

「あの黒い獣が喋ったぞ! という事は魔獣か!? しかもエンブレムを付けてるって事は、狩猟者パーティーの一員か!?」

「あっちのは魔獣うさぎだ! 2頭も魔獣を従えてるなんて、どんなパーティーだよ!」

「あの黒い獣はなんだ? 見たことのない魔獣だな」

 好き勝手言う群衆に、再び苛立ちを覚え始めるガルムだが、ここは自らが主と認めた者の為と、必死で堪えていた。

(神獣が人間に従うなど前例が無い事。だからこそ我を魔獣と思うのも致し方ない。ここは主の為、人間の無知を見逃すべきであろう)

「ルルよ、貴様も我慢を・・・」


「きゃ~うさぎさん! 可愛い!」

「この野菜食べて!」

「ありがとうだよ!」

「柔らかい! 極上の毛並みね!」

 女性に囲まれ楽しそうにしているルルを見て、ガルムは呆れてしまう。

(主が全快した後に、許可を頂いて食べてしまうか)

「何か命の危機を感じたよ!」

 緊張感の無いルルに、ガルムはただただ冷たい視線を送り続ける。



 外がそんな状況になっているとは知らず、オリービアは依頼書に必死で目を通していた。

「神緑の森の・・・せめて調査依頼とかがあれば・・・何か・・・せめて何か情報があれば・・・」

 もともと万に一つの可能性を求めて来た。でもここまで何も無いと、流石に希望を失いかけてしまう。
 気丈に振る舞っていたものの、その心はここに来て折れかかっていた。

「もし?」

「は・・・はい!」

 オリービアが振り返ると、そこには自分と同じ背丈の、青と赤で装飾されたローブを着た人が立っていた。
 フードを深々と被っているので顔は見えないが、体系的に女性と思われる。

「こちら、追加の依頼だそうです」

「あ・・・すいません」

 ローブの女性は口元だけ笑って見せ、掲示板に依頼書を貼り付けた。

 その依頼書を見て、オリービアは声を上げる。

「神緑の森で万能の薬草の採取!? これ! これです!」

「あら・・・このような依頼をお求めでしたか?」

「はい! これが必要だったんです! こんな偶然があるなんて! ありがとうございます!」

「あらあら、私はただ依頼を貼りだしに来ただけですよ。それより急がれているのでしょう? 依頼をお受けになっては如何かしら?」

「そ・・・そうですね!」

 オリービアは依頼書を持って受付に走って行く。

 それを見送るローブの女性は、周りに気付かれないよう呟いた。

「彼を頼みますね」

 次の瞬間、そこにいたはずの人物は蒸気のように消えていた。



「神緑の森での薬草の採取・・・こんな依頼あったかしら」

「先程、ローブを着た方が貼りに来ましたが」

「うちにそんな人はいないのですが」

「と! 兎に角! 受注できるか確認してください!」

 依頼の受注条件も最低1人はゴールドランク、レベル13以上であり、オリービアでも受注可能であった。
 依頼書も偽造されたものではなさそうで、疑いながらも受付嬢は魔法陣に依頼書とオリービアの狩猟者証を入れた。

 魔法陣が輝き、依頼内容が狩猟者証に記録されて受注が完了する。

「本物だった・・・」

「やった! やりました! これで希望が見えてきました!」

 急いで組合から出て行くオリービア。それと対照的に動揺する受付嬢。

「神緑の森での依頼なんて・・・滅多にないし・・・それにプラチナがするような依頼・・・でも魔法陣が正常に処理したし・・・訳が分からない」

 受付嬢は裏に引っ込み、当日に受けた依頼の一覧の中から、必死に先ほどの依頼を探すのであった。



「みなさん! 依頼を受けてきました! 神緑の森に向かいましょう!」

 元気よく飛び出したオリービアの目に映ったのは、与えられるまま野菜を食べて女性に騒がれるルルと、好奇の目に晒されて今にも暴れ出しそうなガルムと、蛇腹の扉を僅かに開けてオリービアの帰りを待つサラーの姿だった。

「何ですか!? この混沌とした状況・・・」

 唖然として立ちつくすオリービアに気付いた群衆は、興味の矛先を変える。

「美少女が出てきたぞ!」

「お持ち帰りしたいな!」

「もしかして、こんな可愛い子がパーティーのリーダーなのか!?」

 危ない雰囲気を感じ取り、オリービアは荷馬車に飛び乗ってルルに支持を出す。

「ルルさん! 早く行きましょう!」

「え!? まだ食べきってないよ!」

「今夜はうさぎ鍋になりますよ!」

「奥さんがだんだんご主人に似てきているよ!」

 急いで群衆をかき分けて、荷馬車はゴモラの外に出る門へ向かう。

「奥方よ、我も待ちくたびれたぞ」

「ガルムさんも良く我慢してくださいました。ありがとうございます」

「礼など不要である。全ては主の為・・・」

 その言葉に、オリービアは微笑みだけで答えた。

「して奥方よ、依頼とはどんなものであった?」

「神緑の森にある万能の薬草の採取です! これならルシファー様を助けられるかもしれません! 場所も詳しく書いてありました。ガルムさん、案内していただけますか?」

「それは構わないのだが」

「どうしました?」

「万能の薬草・・・そのような物、我は聞いた事が無い」

「もしかしたら新種とか?」

「我等が訪れた時に、そのような都合が良い依頼があるとは」

「本当に運がいいですよね!」

(奥方は疑っていないようであるが、これは警戒をしておいた方が良いだろうな。今はこの可能性にかけて、向かう他ないだろうが)

「ガルムさん?」

「気にされるな、奥方」

 トラブルを避ける為、着た門とは違う門を使ってゴモラを出る。



 ガルムの案内に従い、神緑の森に到着する頃には、日は真上に来ていた。

「時間をかけてはいられません」

「奥方、その薬草がある場所とは?」

「シディムの谷という場所にある、陽光の洞窟に生えているそうですが。ご存知ですか?」

「・・・何という因果であるか」

「どうしました?」

「シディムの谷は、我ら神狼族の住処であり、かの者に襲撃を受けた地だ」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...