異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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7章 復活と使者そして仲間

7.9 初めて仲間を得た話

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 すっかり全快したルルに荷馬車を装着し、全員で荷馬車に乗り込んでシディムの谷を後にする。
 日が暮れる前にはゴモラに戻り、今夜の宿を探す必要がある。
 ルルはゴモラに向かって丁寧に荷馬車を牽き、ガルムは先行し安全を確かめていた。

 一方荷馬車の中では、ルシファーが今までの出来事を聞き、意識がなかった間の空白期間を埋めていた。

「迷惑をかけたようだな」

「迷惑だなんて思ってませんよ。助かって本当に良かったです」

「おにいちゃん! なでなでするです!」

 突き出されたサラーの頭を軽くなでる。

「サラーちゃん! それはおかしいでしょ!?」

「いいんです!」

「じゃあ! 私も!」

 オリービアが割り込み期待した顔で見てくるが。

「ん? 耳と尻尾が消えたな」

「あ! 本当ですね」

「おねえちゃんが人間に戻ったです」

「私はずっと人間ですよ!?」

 今日は無理だとしても、明日には獣操師じゅうそうしについて教えてくれる場所を見つけないとな。
 割って入る前はそれなりにウリエルと戦えていたようだし、戦力として勘定に入れられるようになったのなら、このパーティーでも出来ることが多くなったと考えるべきか。

 それにしても、分からないことがある。ここは聞いてみるべきだろうな。

「2人に聞きたい事がある」

「どうしたです?」

「私はルシファー様との子供なら何人でもいいですが、あえて言うなら3人欲しいですね」

「そんな事は聞いていない」

「おにいちゃんが治って良かったです。的確な突っ込みが入っているです」

 しみじみしているが、俺が倒れている間に何があったんだ。

「・・・何故、俺を置いて行かなかったんだ?」

 質問した後、オリービアとサラーは互いに見合って、首をかしげている。

「ルシファー様、質問の意味が分からないのですが」

「あたしも分からないです」

 分からないも何も、そのままの意味なのだが。

「俺を置いて金を持っていけば、後は自由な生活が出来たと思うが。何故助かるかも分からないのに、わざわざ危険をおかして神緑の森まで来たのかが、分からないんだ。俺を助けたところで、なんの利益もないだろ?」

「大切な人を助けたい、と思ったからですよ」

「おにいちゃんと一緒にいたいからです。おにいちゃんがいるところが、あたしの場所です」

「俺は・・・、そこまで好かれるような人間じゃないと思うが」

 分からない。こいつらが、俺を助けた理由が。

「ルシファー様」

 オリービアが俺の手を自分の両手で包み、膝立ちで優しく話し出す。

「利益とか、そういう事ではないんです。あなたにここにいて欲しい、あなたと一緒にいたい、それだけでも人は誰かのために頑張れるのです。それに、お金を持ってどこかに行ったとしても、私に行き場もありませんし、目的もないですから」

「そんなもの、物語の中だけだと思っていたが」

「私には、ルシファー様がどのような人生を歩まれ、そのような考えになったのかは分かりません。ですがあなたを慕い、ただ共に居たいと思う人がいるのです。今は無理でも、いつかは私達を信じてもらえると、今私達は信じています」

「信じるって言葉ばかりです。なんかおかしいです」

 サラーが自然と笑い出し、それにオリービアも笑顔で返す。

「そうか・・・」

オリービアとサラーを残し、蛇腹の扉を開けて1人で外に出る。

「ご主人、僕達も同じなんだよ」

「主を慕っている。だからこそ、我らはこの地に来たのだ」

 流石に獣の聴力なのか、ガルムとルルが扉から出てきた瞬間に言葉をかけてくる。

「ガルムも、父を見つけ出したのだろう? ならもう俺と一緒にいる理由もないと思うが」

「散り散りになった一族を探す使命が残っている。それに・・・それが無くとも主と共にいるつもりだ」

「お前の主人は、契約者のオリービアだろ?」

「それは契約の上で、ということ。だが我は、2度も助命してくれた主にこそ、真の忠誠を誓っている身なのだ。もちろん我母上を治療し、ウリエルとの戦いで救援してくれた、奥方にも仕えるつもりではあるが」

「まあ言いたい事は分かるが、1回目の助命は、単純に俺が殺すのをやめたからだろ」

「慈悲による助命であることに変わりはない」

 なんとも頑固なやつだ。後普通に奥方って言ってるし。

「僕は純粋にご主人が大好きだよ!」

「お前には聞いてないのだが」

「ひどいよ!」

「お前は、世界を見て周りたい!って言ってたしな」

「それはきっかけで、僕はご主人が大好きだから、勇気を出して神緑の森に入ったんだよ」

「そうなのか・・・」

 こいつは単純だから、これが本当だという事がなんとなく分かる。

「主よ」

「なんだ?」

「信じている」

 ガルムはそれだけを言い残し、再び先行して周囲を警戒し始める。
 この短時間で”信じる”という、今まで馴染みのない言葉を叩き込まれた気がする。

 俺は今まで、人を信じなられないと思って来たが、ここまで行動で示されるとどうも考えが変わり始めている。

 俺は、人を信じられないのではなく、信じないようとしていただけなのではないかと。
 期待を裏切られたり、それで絶望したりすることを、2度と経験したくないから。

 ただただ、俺は怖がっていただけなのではないか。

 俺は今、自分が変わるか、このまま目を瞑ったままにするかで葛藤しているのだろう。

 今俺と一緒にいる奴らを、どう認識するかどうかで。

 だが、既に答えは出ている。
 そう、こいつらをどう表現すべきなのかを。どう呼称すればいいのかを。

 迫害と嫌がらせを受け、唯一自分を愛した母親を失った少女。
 親も友達もいない、そして自分を育てた師匠にすら利用されるだけの存在だったかもしれない、女の子。
 父を含め一族のほとんどを殺され、母親すら失いかけた、人間の価値観がわからない神狼族の末裔。
 なんとなくついて来たうさぎ。あれ、こいつだけ何も辛い事がないな・・・。

 とりあえず、俺がこいつらをなんと呼ぶかだが・・・。

「ここに居るのは、俺の仲間ということか」

「ルシファー様! 今なんと!?」

「おにいちゃん! もう一回言ってです!」

「主、聞き逃さなかったぞ!」

「ご主人、本当は僕のことが大好きなんだね!」

 全員が一斉に声を上げる。

「しまった・・・口に出てしまっていたか」

 全員が嬉しそうに、俺から出る次の言葉を待っている。

「俺達は、狩猟パーティー・ヴァリオスハンターズの仲間だ。何にも縛られない、自由に生きる為に集った仲間。今まで言ってなかったが、改めて・・・よろしくな」

「もちろんです! 子供は何人欲しいですか?」

「おにいちゃんとは仲間で家族です! ずっと一緒です!」

「我主の道を邪魔する者は、我がその者の血に染めてみせよう!」

「僕のお腹をベッドにしていいのは、ご主人だけだよ!」

 オリービアは相変わらずの思考回路だし、サラーは何故か家族要素が加わっているし、ガルムは物騒な事を言ってるし、ルルは謎の主張をしている。

 だけど、この少しおかしい奴らといるのも、悪くないと思い始めていた。

「サラーが家族と言って思ったんだが、ルルの家族はどこにいるんだ?」

「僕? 僕はこの真っ白な体毛と赤い目が気味悪がられたから、兄弟に崖から落とされて、奇跡的に生き残って1人で暮らしてたんだよ。だから、今はどうしてるか分からないよ!」

「は!?」
「え!?」
「です!?」
「な!?」

「どうしたの? みんな驚いてるよ」

「お前もなかなかだな・・・」
「何かすいませんでした」
「あたしはルルさん可愛くて大好きです」
「ルルよ、何かあったら我に相談するのだぞ」

「あれ・・・なんかみんな優しいよ」

 いい空気から一変し、形容し難い変な空気に変わった頃、森の出口が見えその隙間からゴモラの城壁が覗いていた。
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