異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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7章 復活と使者そして仲間

7.8 決着がつき帰路についた話

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「生きているとは驚いた」

 ウリエルは無傷のようだが、少し荒い息をしている。

「この程度では死なないね~」

「さっきまでの口調はどうした?」

「頭が冷えたからね~」

「炎に包まれて頭が冷えるとはな」

「創造主から伺った御方は、やはり創造主に相応しい御方だった、だけの事だよね~」

 その場から動かないウリエルにゆっくり近づき、首筋に刀の刀身を当てる。

「何故動こうとしない?」

「それはな~、この状況からでも、俺は貴方を制することが出来ると思っているからなんだよね~」

「そうは見えないがな・・・」

 ウリエルはその力と口調には不釣り合いな、美女の笑顔を向ける。

「俺は貴方と戦えたから満足したんだよね~。創造主も止めに入らなかったし、俺がここで貴方と戦うのも、予定のうちだったんだろうね~。あの飛んでくる剣、正直驚いたな~」

「ガブリエルには切り傷を付けた技だったんだがな」

「あいつは戦闘向きじゃないからな~。俺達みたいに、戦闘要因で創られてないし」

「どうやらお前は、ガブリエルより話が通じそうだ。色々話てもらおうか?」

「まあ、創造主が止めないって事は、話してもいいのかもな~」

 色々と質問をしようとした時、空中に待機させていた自分の剣が、自分に向かって飛んでくる。

「何だ!?」

 後ろに飛んで回避するが、剣はウリエルの前で滞空し、まるでウリエルを守るように刀身をこちらに向けている。

「お前の力か?」

「これは、創造主の力だね~。話なってところかな~」

「逃がすか!」

 再び斬りかかろうとした瞬間、自分が飛ばすよりも鋭く早く剣が飛んできて、体に刺さる直前で止まる。

 これでは身動きできない。
 創造主とやらの力は、俺の力とは比べ物にならないようだ。

「じゃあまたな~。次は俺も本気出せる位になってて欲しいね~」

 そんな言葉を投げかけ、ウリエルは羽ばたいて上空へと飛んで行く。
 あっという間に雲の中に消えていき、姿が見えなくなると同時に、剣は力なく地面に落ちた。

「あいつ、本気じゃなかったのか。創造主に天使、どこまで強いのだろうか」

 地面に降りて刀を納刀し、落ちた剣も浮かせて背中の鞘にしまう。

「ルシファー様」

「主」

 その声に反応して振り返ると、オリービアとガルムがよろけながら歩いてきていた。
 ぱっと見だけでも、至る所に裂傷や打撲の傷を負っており、 あの天使と激闘を繰り広げたということが分かる。

 だが、それと対照的に表情は明るい。

「ルシファー様、体は大丈夫なんですか?」

「そのまま同じことを聞き返したいな」

「良かった・・・本当に良かった」

 膝から崩れ落ちるオリービア。それを見た瞬間、体が勝手に動きオリービアの体を抱きとめてしまった。

「ルシファー様、うれしいです」

「いや、そんなつもりはなかったんだが」

 オリービアは背中に手をまわし、弱弱しく抱きついてくる。
 今までなら、不快に感じて振りほどいていたのだろうが、不思議とそんな事をする気にならない。

 この時、俺は初めて温もりというのを、感じていたのかもしれない。

「これ本物か?」

 オリービアに犬耳と犬の尻尾が生えているのに気づき、引っ張って本物か確かめてみる。

「あ! そんな! 駄目ですよ! せめてベッドで・・・」

 何か良く分からないことを言われてしまい、急に興味を無くしそのまま話題を変えてみる。

「それにしても、新しい天使が現れるとはな」

「彼の者はウリエルと名乗っていた。ガブリエルの名前も出していたところ見ると、仲間と見るべきかと」

 ガルムが何かを察し、会話をこの方向で持って行ってくれるが、オリービアは目論見が外れたような、残念そうな顔をしている。
 こいつ、どうやらこの姿になったことで何かを企んでいたな。

「そのウリエル、とやらと互角に戦っていたのには、正直驚いたな」

「ガルムさんが、契約とやらを私と結んだんです。そしたら強くなって、この耳と尻尾がありました」

「簡潔すぎて・・・訳が分からん」

「天啓を得た如く、我に契約という概念のような知識が入ってきたのだ」

「もしかしたら、これが獣操師じゅうそうしの力なのかな、と思いまして」

 そういえばオリービアは狩猟組合で、獣操師じゅうそうしの才能があるかもしれないと言われていたな。
 それにゴモラになら、獣操師の適性から訓練までをしてくれる所がある、とも言っていた。
 どっちにしろ、ゴモラに戻らなければならないようだ。

「サラーから聞いたが、既にゴモラに立ち寄ってからここに来たらしいな?」

「主を治す薬草の採取依頼があってな」

「なるほど。それで、その薬草というのは?」

 オリービアがもじもじしだす。

「全部・・・使ってしまいました」

「そうか」

「すいません・・・」

「何故謝る? 俺の為に使ったのだろう?」

「見つかった万能の薬草が少量で、どの分量で効果があるのかも分からず、とりあえず全部使ってしまったので、依頼の達成が出来なくなってしまって。ルシファー様の顔に、泥を塗る形になってしまったので・・・」

「なんだ、そんな事か。俺は別に狩猟者になって、名声や地位を手に入れようとしているわけじゃないからな。別に評判が下がろうと、どうでもいいことだ」

「ルシファー様、ありがとうございます」

「この場合、礼を言うのは俺の方だ。ありがとう、助かったよ」

「お礼なんて・・・私は未亡人になるのが嫌で」

「主よ、礼など不要だ」

「ガルム・・・」

「あれ? 私ついに無視されるようになった!?」



 くっついて離れないオリービアと、明らかに呆れているガルムと一緒に荷馬車に戻る。

 荷馬車の傍では、サラーが必死の看病をしている。

「おにいちゃん!」

「ルル・・・」

「ご主人・・・良かったよ。元気になったよ」

 傷だらけの体を見ると、素人でもルルがもう永くないことが分かる。
 こいつも臆病ながら、サラーと寝ていた俺を守ろうとしたと聞いた。

 傷を癒すような力は無いかと、頭の中の本を検索するが、何も引っかからない。

「ルル、俺はお前に何もしてやれないようだ」

「いいんだよ。ご主人が元気なったからそれでいいよ・・・。でも、1つお願いがあるよ。おでこをなでなでして欲しいよ」

「分かった」

 ルルの額を撫でてやる。するとルルは目を細めて、気持ちよさそうにする。痛みが和らいでいるようで、少し呼吸が穏やかになった。

「ありがとうだよ、ご主人」

 もうすぐ最後の時が訪れる、そう思った時だった。

「主よ、まだルルを救えるかもしれぬ」

「何か手があるのか?」

「奥方とルルが、契約をすればよい。奥方と我が契約を交わした際、何故か全身の傷が治癒していた。それが契約時の現象なのであれば、ルルと契約しても同じことが起こるかもしれぬ」

「オリービア、やってくれるか?」

「えっと・・・契約した時、私は意識が無かったのでどうすればいいのか・・・」

「ルルよ、聞こえるか?」

 ガルムがルルに近づき、優しく声をかける。

「聞こえるよ、だんだん痛みも引いてきたよ」

「それは今際の時の安らぎにすぎん、身をゆだねてはだめだ。いいか? 我の後に同じことを言うのだ。奥方、ルルの脇で待たれよ」

 オリービアが前に進み、ルルの脇に立って次の指示を待つ。
 ガルムがルルの耳元で契約の言葉を話、ルルは弱りながらもしっかりその言葉を口にした。

「僕らの創造主に宣言するよ、僕はこの者と契約を交わし、いかなる時も付き従う事をこの身に誓うよ」

 ルルの口調にアレンジされているが、それでも効果はあるようで、ガルムがオリービアに、血を混じり合わせるよう指示を出す。

 オリービアが自分の傷とルルの傷口を合わせると、オリービアとルルが金色こんじきの光に包み込まれ、やがて全快した状態で現れる。

「これは・・・」

 ガルムの傷も全快している。

「お前ら全員治ってるな」

 ルルが自分の体を確かめて、大喜びした後オリービアにすりすりしていた。

「やったよ! 治ったよ!」

「良かったです、ルルさん!」

 ルシファーは1人、みんなが大喜びする姿を見て、今まで感じたことのない気持ちを感じていた。

 ひとしきり騒いだ後、暮れ始めた空を見てルシファーが帰ろうと言い、一行は帰路に就いたのだった。



 同時刻、そんな一行を優しい笑顔で見守っている、青と赤で装飾されたローブを着た女性がいた。

「やっとここまで来ましたか。もう少しの辛抱でしょうか」

 女性は目を瞑り、何かの力を発動させてウリエルに呼びかける。

『ウリエル、大儀でしたよ』

 頭の中に響く、テレパシーのような会話が始まる。

『創造主!? 見ておられたのですか?』

 いつもの間の抜けた口調は鳴りを潜め、ウリエルは天使に相応しい口調になっている。

『ええ、しっかりと』

『俺は、知らない間に命を果たしていた、という事でしょうか?』

『はい。ですが、あの方はまだわたしを知る段階にありません。少しお話が過ぎていましたね』

『申し訳ありません』

『いいえ、あれでよいのですよ。予定通りですから。それに、熱しやすく冷めやすあなたの性格も、充分に楽しめましたし。ですけどもっと私にも、砕けたいつもの口調で話してほしいのですがね』

『それは・・・流石に過ぎた行いかと』

『そう言うとわかっていましたよ』

『恐縮です。ところで創造主、いつゴモラを滅ぼせばよろしいので?』

『あの方が街を離れたらです。あなたを早々に派遣したのは、あの方と戦ってもらいたかったからですから。急ぐ必要はありませんよ』

『予定通りだったわけですか。畏まりました』

 頭の中での会話が終わる。

 だが女性は立ち去らず、ルシファーが見えなくなるまで、ただ優しい笑顔で見守っていた。
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