異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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8章 獣操と招集そして神獣

8.2 宿屋で休息を得た話

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 通行人に宿屋街の場所を聞き、教えてもらった場所に向かう。
 確かに宿屋が見つかったのだが、一番良さそうなのが明らかにバビロアにあった”母のゆりかご”にそっくりであった。

 なんてことだ。また名前だけは不快な最高級宿屋を見つけるとは。
 他にいい宿屋は・・・。

「勝手も分かっていることですし、こちらでいいのではないでしょうか?」

「わあ~! 宿屋ってこんなに豪華なんです!? 楽しみです!」

「厩舎も割り当てて貰えるだろう」

「牧草一杯貰えるよ!」

 逃げ道が無くなったな。

 だが・・・まずは受付で、厩舎と借りられる部屋があるか聞かないと始まらない。

 受付で確認したところ、上位の3人部屋も厩舎の貸切も可能であった。

 因みに俺は一人部屋と二人部屋をそれぞれ希望したが、オリービアは自分と俺が二人部屋でサラーが一人部屋と勘違いし、大喜びして暴走しかけたが、サラーが三人一緒がいいと珍しく駄々をこねたので、三人部屋になった。

 結果的にサラーに助けられたようなもんだ。

 料金を払った後、先にルルとガルムを厩舎へ連れて行く。

 前と同じで仕切りをなくしてもらい、ルルとガルムの飯を用意してもらうが、その間に寝てしまったようだ。
 3日も寝ずに動き続けたのだから当然ではあるが。

 俺は、こういう時に誰かへ礼を伝える方法を知らない。
 そんな自分に、初めて歯がゆい思いをした。

 飯を脇に置いてもらい、ついでに荷馬車を厩舎の中に押し込んで扉を閉める。

 宿屋に戻り部屋に入ると、オリービアとサラーは深く息を吐きながらベッドにへたり込む。

「疲れただろ」

「ルシファー様も治りましたし、無事ゴモラに帰ってきたと思ったら、急に体が重く」

「ベッドがふかふかで気持ちいいです。夢見心地です」

 メニューを2人に見せて、夕飯を選んでもらい紙に書いて投函する。
 しばらくすると夕飯が運ばれてきて、テーブルに並べられた。

 運ばれた料理を確認した後、マスクを外して椅子に座り、ぐったりしている2人を呼ぶ。

「食べてから寝ろよ」

「頑張ります」

「おいしそうです! 豪華です!」

 サラーはステーキを口に運び、うっとりとして味わっている。
 オリービアは眠いのか、ゆっくりとスープをすすっていた。

 2人が落ち着いた頃に、都合の良い依頼、それを貼りだした女性、存在しないはずの万能の薬草、毒に侵されていた間の出来事を細かく聞いた。

「その女・・・何者なのだろうな。ウリエルが命とやらを受けて、ここに来ていたのも気になるし。調べないといけないことが多いな」

「その女性に関しては、明日狩猟組合に行った際に改めて組合の方に聞いてみましょう。今朝は調べる暇すらありませんでしたから」

「そうだな」

「その人が見つかったらどうするです?」

「あらゆる手を使ってでも、洗いざらい話してもらう」

「結果的に命の恩人・・・だと思うです。でも流石おにいちゃんです」

 そうか、言われてみればそういう事だな。
 こちらに敵対意思はないのかもしれないが、身元を隠している以上信用はできない。

「これは俺の勘なんだが、その女を調べれば万能の薬草はもちろん、ガブリエルやウリエルの事も分かりそうなんだ」

 2人も黙って頷き、肯定の意思を示す。

 話している間に食べ終わり、2人に風呂に入るよう促す。
 サラーに手を引かれるオリービアは不満そうだが、無下にするわけにもいかずに仲良く風呂に入っていった。

 とりあえず、明日は朝一で狩猟組合に向かい、獣操師じゅうそうしと女に関しての情報を収集。
 より角度の高い情報が手に入った方へ行動を開始、といったところか。

 何かと狩猟組合には縁があるな。

 2人が風呂から出た後、続けて風呂に入る。
 正直言うと、目が覚めてから倦怠感自体は続いている。昔インフルエンザにかかって、治った後の朝に感じが似ている。
 ただ意識を失って寝ていただけだが、体は生きようと戦っていたようだ。

 それを支えてくれたのが仲間達であり、オリービアはスープまで飲ましてくれていたそうだ。
 他人にそんな献身が出来る人間が、本当にいたんだな。

 俺の金も持っていけば、当面の生活など困らなかっただろうに。
 それでも置いていかなかったとは。

 仲間として受け入れる事は出来たが、何故そんな事が出来るのかは分からない。
 逆の立場だったら、俺はどうしていただろうか。

 感謝をどうやって伝えればいいのか、誰かの為に行動するにはどうしたらいいのか、人を信じるにはどうすればいいのか、こいつらと一緒に居れば・・・分かるのだろうか。

 考えを巡らせているとのぼせそうだったので、風呂を出て備え付けの寝巻に着替える。

 風呂から出ると、オリービアがサラーの髪をとかし終えていて、協力してランプの火を落としていく。

「ちょっと待った!」

 いざ寝ようとした時、オリービアが待ったをかける。
 何だと思い振り返ると、サラーが俺のベッドに潜り込もうとしている最中であった。

「サラーちゃんのベッドはあっちでしょ!」

「あたしはおにいちゃんと寝ますです」

「駄目です! そんなうらやましい・・・じゃなかった。ルシファー様は病み上がりです。邪魔になるでしょ!」

「駄目です?」

 子犬みたいな感じで懇願されると、なんか断りづらい。

「今日だけだ・・・」

「やったです!」

「やりました!」

「だがオリービアは、お前は駄目だ」

「何でですか~!」

 オリービアの何度目かの絶叫。
 同じフロアの人に聞こえてないといいが。

 オリービアはしぶしぶあきらめ、おとなしく自分のベッドで寝息を立て始める。
 サラーもしがみつきながら寝息を立て始め、俺も眠りについた。



 この世界では、やはり太陽が目覚まし代わりのようだ。
 光に反応して起きるが、かなり体はすっきりしている。これならもう体の心配をする必要はなさそうだ。

 起き上がろうとするが、上に何かが乗っている。

 目を開けるとサラーが覆いかぶさるように、うつ伏せで自分の上で寝ていた。

「おにいちゃん・・・おはようです」

「おはよう。どいてくれるか?」

「はいです。でも、その前に」

 ゆっくりとサラーの顔が近づいてくる。
 あれ・・・これってもしかして。

「よいしょ!」

 唇が触れる前に、オリービアがサラーを起こしベッドから引きずり下ろす。

「何をやっていますか! 私もまだなのに!」

「・・・」

 サラーは黙ったままだ。

「分からないですけど、おにいちゃんを見たらなんとなく」

「あなた・・・まさか」

「こんな気持ちになったの初めてで、なんなのです!?」

「サラーちゃん」

「はいです?」

「忘れなさい」

「何でです?」

「何でもじゃありません。今後その気持ちは忘れなさい」

「なんかおねえちゃんが怖いです。とりあえず言うことを聞くです」

 そんな無意味な会話を聞きながらベッドから降りて着替え、朝食を食べた後に2人に声をかけた。

「狩猟組合で情報収集だ」

 オリービアとサラーが元気よく返事をし、宿屋を出てルルとガルムを迎えに行った。



ゴモラの外、神緑の森の境界付近。

「うむ。少々ゆっくりと歩みを進めすぎたか・・・」

 黒竜は境界の手前で立ち止まり、僅かに顔を覗かせながらようすを伺っている。

「既に森を抜けてしまったようだが。あの人間の街に匂いは続いているな」

 黒竜は鼻を大きく鳴らし、街に続く街道を見渡す。
 人の往来を観察し、念のためお目当ての人間がいないかを確認した。

「やはり既に街に入ってしまったか」

 首を引っ込めた後、木の根元に座り込む。

「このまま人間の街を強襲してもいいが、それは得策ではないだろうな。神域の者を敵に回すこともあるまい。そうだ、神域の者は神狼族を連れているはず。群衆に溶け込んではいないだろう。だとすれば、行き来する人間に接触できれば、情報を得られるかもしれぬな」

 黒竜は口の端だけで笑った。
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