異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

文字の大きさ
69 / 107
8章 獣操と招集そして神獣

8.10 神竜族の力を知った話

しおりを挟む
「おい! 潰れちまったんじゃないか!?」

「あんな小さい子供まで・・・」

「神獣を使役するという噂のパーティーでも・・・神竜族相手には無力という事か」

「神竜族は何が目的だったんだ!?」

 全ての観衆がルシファー達の生存を絶望視する中、徐々に砂埃が収まっていく。

「やはり・・・貴様が神域の力を持つ者だったか!」

 黒竜の咆哮が響き、全ての観衆にルシファー達の無事な姿が見えるようになる。

「どうなってる!? 無事だぞ!」

「神竜族の前足が、空中で止まっている!」

「黒衣のマスクの男が、片手を上げている! あいつが何かしたんだ!」

 黒竜の前足は、空中にある見えない壁に阻まれているように、その進行を止めている。

「なかなかな、ご挨拶じゃないか」

 咄嗟にサイコキネシス<念動力>を発動し、不意打ちに近い攻撃を防いだ。
 ガブリエルとウリエルとの戦いを経て、俺の力は素早くそして強くなっている。天使共との戦いも、無駄ではなかったようだ。

「オリービア! ガルム!」

「承知! 神狼の崩口しんろうのほうこう!」

「はい! 神狼の崩口しんろうのほうこう!」

 同時に双方から衝撃波が飛んで行き、黒竜に直撃する。
 その衝撃に、神竜族は吹き飛ばされながら仰向けになって、轟音と共に地面に倒れた。

 後ろの城壁からは歓声が上がっていが、正直うるさいとしか感じない。
 その歓声の中、神竜族はゆっくりと起き上がり、何事も無かったかのように歩いてくる。
 その姿を見た観衆は、指揮者でもいるかのように一斉に静まり返った。

「なるほど。そこの者達も、良き力を持っているようだ」

「・・・予想はしていたが、無傷とはな」

「まだまだこれからということだ。ところで、貴様の名は?」

「・・・ルシファーだ。お前は?」

「レグナだ。さあ、語らいは終わりだ。貴様の力を見せてもらおう!」

 レグナと名乗った神竜族は、息を深く吸い込み黒炎を吐き出してくる。
 それはまるで、昔自分の名前の由来を調べた時に聖書で見た、地獄の炎の描写のようだった。

 即座にサイコキネシス<念動力>を発動し、斥力の壁を作り出してその黒炎を防ぐ。
 黒炎は放射状に広がり、まるで炎の花が咲いたように霧散していく。

「サラーちゃん! ルルさんに移ってください!」

「はいです!」

 この拮抗した状態を打破するために、オリービアは自ら動く事を考えたようで、サラーをルルに移した後、今度は自分がガルムに騎乗する。
 オリービアの騎乗を確認したガルムは、そのまま斥力の壁を迂回して回り込むように走り始める。
 その一連の動作はあまりにもなめらかで、契約獣との思考伝達がなせる業だということが見るだけで分かった。

「もう一度だ! 神狼の崩口しんろうのほうこう!」

「はい! 神狼の崩口しんろうのほうこう!」

 再び衝撃波が放たれて、レグナのわき腹に直撃しそのまま転げさせる。

「小癪な・・・」

 流石に転ばされては黒炎を吐き続けられないようで、炎はかき消えていく。

 立ち上がるレグナにダメージは無いようだが、何度も転ばされてやや苛立ちが見え始めている。

「行け!」

 この瞬間を逃すはずもなく、俺は6本全ての剣を飛ばし、レグナに向かって飛翔させる。
 襲い掛かった剣は、まるで金属にぶつかった時のような音をたてて、剣は全て鱗に弾かれてしまう。

「そのような物に、傷などつけられるはずが」
「ならこれはどうだ?」

 レグナの言葉を遮りながら、ブロントキネシス<雷電力>を発動し、剣に雷を纏わせた後、それぞれの剣先からレグナに落雷させる。

「ぐばあああああ!」

「思ったより効いてるな」

 それでも絶叫のわりには、大したダメージは受けていないようだ。

 いったい神竜族を倒すには、どうしたらいいのだろうか。

「ぐううう」

 体の痺れが取れたのか、頭を振ってから翼を広げて飛翔を始める。

「やはり地は不利か」

「させません!」

 オリービアはガルムから飛び上がり、レグナの眼前で剣を振り下ろす。

神狼の崩牙しんろうのほうが!」

 額を捉えたオリービアの技は、傷こそ与えなかったものの、衝撃を直接頭部に伝えたことで、頭からレグナを地面に追い落とした。

「ガルムさん~!」

「分かっている。落ち着くのだ・・・」

 空中でガルムがオリービアを背に乗せ、そのまま着地している。

「このまま我も、神狼の崩牙しんろうのほうが!」

 ガルムは着地と同時にきびすを返し、レグナの翼の根元に噛みついていた。

「うっとうしい!」

 だがレグナは翼を羽ばたかせ、ガルムを振りほどいてしまう。
 ガルムの技でも、神竜族に傷は付けられないようだ。

「ぐ・・・なんだ? なんだというのだ!?」

 レグナがふらついているが、どうやらオリービアの一撃で脳震盪でも起こしているらしい。
 これは好機と思った矢先、レグナの右目にサラーのオートボウガンの矢が飛んできた。

「ぐっ!」

 あまりの正確な狙撃に正直驚いたが、その矢は目に直撃したのにもかかわらず、潰れてもいなければ傷1つ付いていない。

 ここまでくると、流石に頑丈にも程がある。

「好機!」

「行きましょう!」

「おい! 油断するな!」

 ガルムとオリービアが再び一直線に突撃していく。
 功を焦ったのか、先程までに比べてあまりにも考えなしの動きに見える。
 これでは反撃されてもおかしくない。

「よくも!」

 レグナは尻尾を鞭のように使い、オリービアとガルムを吹き飛ばした。

「ぐおおおおお!」

「きゃああああ!」

 街道沿いにある草原に向けて薙ぎ払われたガルムとオリービアは、抵抗も出来ずに転がっていく。

「貴様もだ! 小娘!」

 レグナは完全に脳震盪から解放されたようで、今度はサラーに向かって黒炎を吐き出すが、斥力の壁で防御したので燃やされずに済んでいる。

「おにいちゃん!」

「ご主人!」

「サラー! ルル! 下手に手を出すな! オリービアとガルムを頼んだぞ!」

「了解だよ! 娘さんは僕の耳を手綱代わりにするといいよ!」

「分かったです! うひゃあああああ!」

 ルルはガルムに負けない速度で、レグナから離れて倒れているオリービアとガルムの
元に向かっていく。

 サラーはルルの首元に座っているが、なるほど考えたな。
 あそこなら一番揺れが少ないだろうが、それでもサラーは目を回しそうになっている。

 ウリエルとの戦いでも生き残ったのだから、オリービアもガルムも大丈夫ではあるだろうが。

 何だろう・・・この気持ちは。

 このレグナという神竜族に対して、どこから湧いてくるのか・・・分からない怒りを感じる。

「始めからうろちょろしなければいいものを。これでやっと神域の者との、戦いに没頭できるというもの」

「俺が目的と分かった時点で、あいつらを下がらせるべきだったな」

「ほう、貴様も一対一で戦いたかったと」
「違うな」

 何で俺はイラついている。
 ただ勝手に付いてきている奴らが、吹き飛ばされただけなのに。

 その理由も分かっている。分かっているんだ・・・これは。

「俺の仲間が受けた痛み、返させてもらう」

「ほう、意外だな。貴様は仲間思いであったか」

「俺にもこんな感情があったなんて、驚いているがな・・・」

「良く分からないが、やる気になってくれて何よりだ」

 レグナは再び羽ばたいて上昇を始めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...