異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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8章 獣操と招集そして神獣

8.11 身に着けた技で戦った話

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「逃がさない」

「な!?」

 レグナよりも高度を上げて飛び、ゆっくりと刀を抜く。

「貴様は、空も飛べるのか!?」

「見て分からないのか?」

「神域の者だとしても、人間が神竜族を馬鹿にするとはな」

 レグナは口を開き、火球をこちらに向けて放ってくるが、それはどう見てもウリエル以下の代物であった。

 刀を上に向けハイドロキネシス<水態力>を発動した後、サイコキネシス<念動力>でそれを水球にし、レグナの火球に向かって放つ。

「こんな使い方があったとはな。ウリエルは俺に、力の併用が出来ることを教えて行ったという訳か」

「水が!? なに!?」

 水球と火球がぶつかり合い、あたりは水蒸気に包まれる。
 発生した水蒸気はあまりにも膨大で、まるで地上近くに発生した積乱雲のように視界を奪ってしまう。

「神域の者は・・・どこにいった!?」

「ここだよ」

 水蒸気の中で羽ばたくレグナの位置は手に取るように分かるが、サイコキネシス<念動力>で飛んでいる俺には居場所を知らせる物がない。
 こちらを見失った隙にレグナの背中に取り付き、翼の付け根を斬りつける。
 予想通り、神鉄の刀は難なく鱗を切り開き、鮮血が溢れて翼は頼りない範囲で繋がったまま、力なくだれてしまう。

「ぐ! なんだと!?」

 レグナはもがきながら自由落下を始め、やがて轟音と共に地面に叩きつけられた。

「貴様・・・鱗を貫いたというのか!?」

「それだけじゃない。翼を動かす健を切り取った。これでもうお前は翼を動かすことができない」

「何を訳の分からない事を!」

「高校で生物の授業を、真面目に受けていた奴がいるってことだ」

「高校とは何だ!? その鱗を斬り裂いた剣はなんだ!?」

「神からの贈り物だ。だがお前はこの刀で簡単に楽にしたりはしない。俺の中に湧いた怒りを解消するためにも、痛めつけるくらいはしてからじゃないとな」

「こんな事が・・・こんな筈では・・・」

「ついでに実験もするかな。。では今度の技は、物理の授業を真面目に受けていた奴の技にしようか」

 サイコキネシス<念動力>ハイドロキネシス<水態力>を同時に発動し、街道の砂利と創造した水を混ぜ合わせ渦巻き状に循環させる。
 充分な循環速度に達した時、レグナに向かって掌を突き出すと、渦を巻いて循環していた砂利水は、一直線の細い糸のようにレグナに向かう。

「そんなもの!」

 レグナの威勢に反し、砂利水はカッターのようにレグナの前足の付け根を切り裂く。

「な!?」

「これはな、ウォーターカッターっていうんだよ」

 これはいい情報を手に入れた。ダイヤモンドすら簡単に切断してしまうウォーターカッターであれば、神獣に手傷を与えることが出来るという事。
 神獣に手傷を与えるのが神鉄だけではないということが証明されたということは、力の工夫がもしかすれば、天使にも通用する力になるかもしれない。

 折角成績だけは良かったんだ。超常の力と、人間が手に入れてきた知識を合わせて、新たな力にしてみようか。

 とはいえ、まずはこいつに怒りをぶつけるとしよう。

「竜の踊り、見せてもらおうか」

 ウォーターカッターを操り、レグナを切り刻んでいくが、身をよじり苦しみもがくようすは、さながら不器用な踊りのように見えた。

 翼をやられ逃れるすべもなく、ただひたすら後退を続け、地面に伏して動かなくなるころには、大分と城壁から離れていた。

「勝ったんですね? ルシファー様」

「流石主、我が恩方」

 オリービアとガルムの回復力は大したものだ。致命傷になりえる攻撃を受けながら、もう歩いてこちらに来ている。

「オリービア、ガルム、大丈夫か?」

「獣操師として契約してからは、回復力も肉体の頑丈さも上がっているようですから。それに、ウリエルに吹き飛ばされた時の方が、よっぽど痛かったですよ」

「我も元より、神獣としての頑強さは持っているのでな」

「それでも良かった・・・」

 自然とオリービアの頬に手を当ててしまう。
 あれ・・・何故こんな事を?

「ルシファー様・・・、私達の心配をしてくれたのですか?」

「随分憤っているようだったが、主が我らの為に怒りを抱いてくれたのか」

「そんなつもりはないが・・・」

 慌てて手を引っ込め、安堵している自分の心に戸惑いを感じる。

「おにいちゃん、何だか温かい感じがするです」

「ご主人が居れば、僕の命は安泰だよ」

 サラーとルルも後ろから付いてきており、サラーは何故だか嬉しそうにしている。
 ルルは・・・自分の命優先のようだな。

「ぐううううう」

 後ろからもだえ苦しむ声が聞こえ、神竜族の事を思い出し振り返る。
 見るからに出血がひどいが、この状態でもまだ生きているようだ。

 何とか有効活用出来ないものだろうか? そうだ。

「オリービア、神竜族って高く売れるのか?」

 バビロアを出てからというもの、しばらく稼いでいない。
 街を出る目的は達成したものの、天使という脅威と出会った以上、不測の事態に備えて金を持っているのは悪いことではないだろう。
 神竜族なら大金が転がってきそうだが。

「値が付いた試が無いので分かりませんが、恐らくとんでもない値段で落札されるのではないでしょうか?」

「なるほど。こいつに、感謝しないといけないな」

「・・・待ってほしい。神域の者と戦ったのは、目的が・・」

 まだ喋れるとはな。

「そんなのはもうどうでもいい。今回はお前の死体を売って、金が入ればそれでいいからな」

「待ってくれ。どうか話を聞いてほしい」

「断る。とっとと死んでもらおうか」

「うぐああ! 待ってくれ!」

 刀を振り上げ額に振り下ろそうとした時、オリービアがローブを引っ張り制止してくる。

「何か理由があるごようすですし、ここは聞いてみてもいいのではないでしょうか?」

「我も・・・、神竜族がこの地まで主を探しに来た理由が気になる」

「あたしもです。もしかしたら、あのウリエルとかガブリエルと繋がっているかも知れないです」

「僕は食べられなければいいよ・・・」

「ルルはともかく、お前らも殺されかけておいてそんな寛容になれるとはな」

「ルシファー様の、愛を感じます」

「勘違いだな」

「おにいちゃんが治って・・・本当に良かったです」

 サラーがしみじみしているが、オリービアのせいで話がそれてしまった。

「もう! 何を話しているの!? とにかく、おいらの話を聞いてくれるの? くれないの?」

「おいら・・・だと!?」
「え!? そんな話し方でした!?」
「急に態度が変わったです!?」
「何が怒っているのだ!?」
「わあ~なにか親近感が湧いてきたよ!」

「頼むよ・・・この通りだから!」

 まるで犬のふせのようにしながら、レグナは懇願してくる。

「これは、土下座のつもりか?」
「えええええ! 神竜族が頭を下げてる!?」
「何が起こってるです!?」
「いくら我が主が相手とはいえ、神獣としての誇りは無いのか!?」
「そうだよ、僕もそうやってご主人に許してもらったよ!」

 土下座のような体勢を取るレグナに、あっけにとられて始末することなど忘れてしまっていた。
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