異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

文字の大きさ
71 / 107
8章 獣操と招集そして神獣

8.12 神竜族の話を聞いた話

しおりを挟む
「まあ・・・聞いてやるよ」

「ありがとう、助かった・・・」

 急にしたしみやすい話し方を始めたな。偉そうに喋っていたのは何だったんだ?

「あ・・・でも、どんどん寒くなってきてる気が・・・」

「出血多量による新陳代謝の低下だ。死期が近いんだろうよ」

「しんちんたいしゃ? 良く分からないけど、折角神域の者を見つけたのに、死んじゃうなんて、おいらは何のためにここに来たのか、分からないくなっちゃう・・・」

「はぁ・・・。なあ、こいつと契約でもするか?」

「契約? そっちの人間のメスと?」

「オリービアと契約すれば、傷は全て癒えるし話をする事もできる。その変わり、お前はオリービアに付き従うことになるが」

「私と契約するという事は、私の旦那様であるルシファー様にも、従うことになりますけどね!」

 ドヤ顔で何を言っているんだ? こいつは。

「生き残れるのなら、契約でも何でもするよ!」

「オリービア、頼む」

「はい」

 その時、エルシドの言葉を思い出す。

 ”「契約出来る獣の数は、獣操師に備わっている命力の総量に比例する。オリービア君の命力は驚異的で、まだまだ余裕があるようだが、契約する獣の数が多くなると負担も大きくなるから気を付けるんだな。もしオリービア君の睡眠時間が長くなったり、直ぐに疲労を感じるようになったら、要注意だと思ってくれ」”

 契約をしようとするオリービアの肩を掴み、自分の元に引き寄せる。

「ど!? どうしたんですか?」

「現状疲労を感じたり、睡魔をいつも以上に感じたりしていないか?」

「ええ、いつも通りですけど。寧ろガルムさんとルルさんと契約した時から、調子が良いくらいです」

「そうか・・・今言った異常が出たら、俺に直ぐ言うように」

「はい・・・。あの、抱き寄せて頂いたのは嬉しいのですが、ここで子作りはちょっと・・・みんな見てますし。でも、ルシファー様がそういうご趣味でしたら、私は拒むつもりは・・・あああああ!」

 また訳の分からない事を言い出したので、サイコキネシス<念動力>を発動してオリービアをレグナの前に運んだ。

「くぅ・・・もうちょっとだったのに。何がいけないのかしら、もっと露出度を上げたほうがいいのかも。それに、もっと精力の付く食べ物をたくさん用意して・・・」

「あの・・・人間のメス? 契約っていうのを早くしてくれないと、流石に死にそうなんだけど・・・。もう目もあまり見えなくなってきたし・・・」

「あ! すいません! ちょっと考え事を! あとメスって言うの止めてもらえます?」

「止めるから! 止めるから! 止めるから早くして! だんだん何も感じなくなってきてるから!」

 このやりとりいつまで見ないといけないんだか。
 それにしても死にかけなのに元気だから、全く切羽詰まった感じが伝わってこないな。

「では、始めます。・・・ガルムさん! どうすればいいんでしたっけ?」

「うお~い! おいら本当に死んじゃうよ!」

 だから死にそうな感じしないっての。

「奥方は憶えていないのも当然か。レグナとやら、我の後に言葉を紡ぐのだ」

「分かったから早くして!」

 レグナはガルムに続いて契約の言葉を口にし、オリービアは戦いでできた切り傷の血を、レグナの流れ出る血と混ぜ合わせた。

 ルルの時と同じように、金色の光がオリービアとレグナを包み、それが収まるころには無傷になった状態で現れる。
 ガルムの傷も癒えたようで、とりあえずは怪我の心配はなくなった。

「オリービアとガルムの怪我も治ったな」

「はい。もしかして、ルシファー様は私達の傷を治すために、契約をするよう進めたのですか?」

「・・・違う」

「え? なんて?」

「・・・絶対に違う」

「そうですか」

 違うと否定しているのに、何でそんな笑顔で”分かってます”みたいな感じを出しているんだ。

 違う・・・筈なんだが。

「凄い! 怪我が全部治ってる!」

「治っただけではない。我も含めて、奥方と繋がるものは命力の循環が強くなり、総合的に強くなっている」

「本当だよ! 体が更に軽くなった気がするよ!」

「お前は太りすぎな気もするが・・・」

「酷いよ!」

 本当に話が脱線するよな、こいつらは・・・。

「で? お前が俺と戦った理由は?」

「あう、それは・・・」

「早くしろ」

「えっと・・・神域の者を見つけて、その者に・・・今度開かれる竜闘祭りゅうとうさいで手伝ってもらいたいなと思って」

 いまいち要領を得ないな。これはこっちから聞いていかないと駄目のようだ。

「まずその竜闘祭っていうのは何だ?」

「竜闘祭っていうのは、族長が死ぬと行われる祭りで、次期族長立候補者どうしが勝ち抜きで戦って、次の族長を決める催し物なんだ」

「そんな催し物があるのか。じゃあ次だが、何を手伝ってほしいんだ?」

「えっと、おいらが戦う時に・・・陰ながら援護して欲しいなって」

「は?」

「だから、優勝したいから・・・みんなに分からないように、手伝ってほしいんだ!」

 優勝したいから手伝ってほしい? つまりこいつは神竜族の中でも弱いほうってことか。
 面倒ごとに巻き込まれるのも嫌だし、ここは断ったほうがいいだろうな。

「断る」

「え! お願いだから手伝ってくれよ!」

「面倒だ。断る」

「取り付く島もない感じじゃないか・・・」

「そもそも、自身が無いなら出なければいい話だろ」

「そういう訳には、いかないんだ」

「何故?」

「死んだ前族長は、おいらのお父さんなんだ」

「そうか。族長にまで昇りつめた父親の強さが、遺伝しなかったのは残念だな。まあ諦めろ」

「そういうわけにいかないんだ!」

 だから何でだ。

「出なければいけない理由を話せ」

「おいらのお父さんは、死んだんじゃない。殺されたんだ。神竜族内部にいる、急進派によって」

「急進派?」

「そう。神緑の森を出て、人間を支配するべきだという考えを持つ連中さ」

 人間を支配だって? まあ神竜族であればそれも可能なのだろうが。

「人間を支配してどうするんだ?」

「それは、知らないけど。なんか翼の生えた人間にそそのかされたのは知っている」

 レグナのその言葉を聞き、全員に衝撃が走る。

「おい、その翼の生えた人間の名前は分かるか?」

「確か・・・カマエルって言っていた気がする」

 カマエル・・・確かガブリエルやウリエルに並ぶ大天使の1人だった気がする。
 自分の名前を調べた時に見た、聖書関連の知識がこんなところで役に立つのがなんだか腹立たしいが。
 これまでの経緯からも、こいつはほぼ確実に大天使の1人の筈だ。

 全く・・・次から次へと、面倒ごとが起きてくれるものだ。

「ルシファー様、契約もしてしまったことですし、そのカマエルという者を調べてみてはどうでしょうか」

「それはそうだが、その竜闘祭というのには関わらなくてもいいんじゃないか?」

「おにいちゃん! その急進派を止めないと、人間が支配されてしまうです!」

「別に良くないか? 俺には関係ないし」

「流石に神竜族に支配されたら、今の生活は続けられないと思うです」

「まあどこかの街に定住するつもりは無かったからな。どこかでひっそり暮らせればそれでいい」

「駄目です・・・説得難易度最大です」

 別に助けなくてもいい気がするのだが、何故そこまで食い下がるのか。

「ルシファー様・・・」

「なんだ?」

「その・・・とりあえず急進派とカマエルの情報を集めて、その上でどうするか決めてはどうでしょう?」

「・・・オリービア、お前はそれがいいと思うのか?」

「はい。現時点で神竜族が、どういう支配をするかは分かりませんし、今までと違って天使に対して、先手を取れるかもしれませんし」

 確かにカマエルという天使の動きも気になる。ここはオリービアの案でいってみるか。

「ではそれでいこう」

「ルシファー様! 私の意見を聞いてくれたのですね!」

「・・・まあ、別に良い案だと思ったからだけだ」

「それでも嬉しいです!」

 そんなに大はしゃぎすることか? でも・・・人の意見を聞いたのは、これが初めてかもな。

「で? その竜闘祭はいつ行われるんだ?」

「2日後だけど」

「思ったより時間がない。細かい事は道中聞くとして、とりあえず今日は出発の準備を整えるか。レグナが味方になったと、ゴモラの狩猟組合に報告しなくてはならないからな」

「はい! ルシファー様!」
「おにいちゃんと今度は、神竜族の所へ冒険です!」
「主の行く先が、我の行く先だ」
「ご主人といるといろんな所行けるけど、危ないところばかりだよ」
「これで神竜族の未来は明るくなった。本当に良かった」

 みんな前向きだな・・・レグナなんかもう手伝ってもらえると思っているようだし、やっぱり断るべきだったかな。

 物思いにふけながら、ゴモラの城壁へ歩き始めるのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...