異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

文字の大きさ
91 / 107
10章 竜闘祭と決着そして別の戦い

10.10 神竜族の今後を考えた話

しおりを挟む
「さっそくだがレグナ・・・族長、これからどうするのだ?」

「今まで通りレグナでいいって。レビヤには変わらないで欲しいな」

「・・・レグナがそう望むのであれば」

 真相を知り、わだかまりが溶けたことによって、レグナとレビヤには以前のような関係が戻りつつあった。

「そういえば真相を聞きたくて族長を目指しちゃったから、なってからのことを考えていなかった」

「はは・・・」

 レグナの返答を聞き、呆れたのか素直に笑ったのだろうか分からない、乾いた声をレビヤは漏らす。

「そ・・・そうだね。とりあえずは、ここに留まるべきだと考えるかな」

「前族長の言とは違い、預言に従うとのことか?」

「それはちょっと違うかな。おいらも、この地を離れるのは場合によっては有だと思っているし」

 ある程度のレグナの意図を察したのか、レビヤはその言葉を飲み込み、自分の思考を巡らせているようだ。
 そのやり取りを見聞きしていた他の神竜族たちも、近くにいる者と顔を見合って物言わぬ相談をしている。
 状況から察するに、レビヤ以外は意図を汲み取れていないようで、やや混乱に変容する中、ラコーンが口を開き、沈黙の相談を終わらせにかかった。

「族長、その”場合によっては”というは、どうゆう事か?」

「そっか・・・みんなに、この人たちを紹介していなかったね」

 レビヤは顔の振りだけで、オリービア達に近くに来てもらおうと合図する。

「ど! どうも・・・オリービアと申します」

「サラー・・・です」

「神狼族のガルムだ」

「ルルだよ・・・ご飯じゃないよ」

 多数の神竜族から一斉に視線を向けられ、オリービア達は萎縮しながらもなんとか自己紹介を済ませる。
 自己紹介をされた神竜族側も、だから何だとばかりに小声で何かをそれぞれ話していた。

 唯一の変化といえば、新しい族長の客として認識を改めたようで、罵りの言葉などが無いことだ。

 一方のレグナは、これで問題ないと思っているのか、それとも異種でありながら仲間と呼べる存在を自慢したいのか、鼻を鳴らして誇らしげにしている。

「あの・・・レグナさん? 何故私達を呼んだので?」

「え? あ・・・あれ? あ! うん。そうだね、説明しないと」

 やっと状況が理解できたのか、レグナが慌てながら頭の中で言葉を纏める。

「おいらは預言に反して住処を出ること、人間を支配することに反対だった。それにカマエルの事も信用できなかった。それで一族を救うためには、どうすれば良いかを必死に考えたんだよ」

 レグナが話を始めると、一斉に神竜族は口を閉じて静寂を持って迎えている。

「とりあえずおいら、考えながらいつも通り神緑の森にご飯を食べに行ったんだ。そしたら、近くで神域の力が使われているのを感じた。その神域の力は、カマエルから感じたものと同じのが1つ、そしてもう1つは、カマエルと同じような感じもするし、おいらたちのような古くからある神域の力と似た感じのものだったんだ」

 オリービア達はレグナが言っているのが、シディムの谷で行われたウリエルとの戦いだということに気付く。
 カマエルと同じ神域の力はウリエルで、もう一つの、レグナから見れば古い神域の力はルシファーであることが、その場に居た自分達には容易く想像できるからだ。

「そこでおいらは、慎重に近づきながらその力がぶつかり合う所まで・・・」

「慎重では無く、単に臆していただけであろう?」

 ガルムが空気を読まずに言い放つ。
 レグナは図星だったのか、明後日の方向を身ながら変な雰囲気が無くなるのを時間に任せていた。

「ガルムさん・・・」

「すまない。ついな・・・」

 ガルムが丁重に謝罪をし、レグナは人間のような咳ばらいをしてから話を再開する。

「で! 到着したころにはあたりは焼け焦げた後だけになってたんだけど、匂いが残っていたから確認したんだ。それで人間が3人と若き神狼族1匹、弱い獣が1匹。後は知らない匂いがあることが分かったんだ」

 一部の神竜族は驚いている。察しがいい者は気付いているのだ。神域の力を発揮したのが、人間であることに。
 レビヤも言葉の流れから、同種の神域の力が神竜族のものではないことを察している。

「知らない匂いがカマエルと同類で、神域の力を使っていたのは直ぐ分かったんだけど、シディムの谷に着くまで、もう1つの神域の力を使っていたのが、人間だとは分からなかった。明らかに神狼族ではない、また異質な力」

「そのような人間が存在するのか、と問いたいが・・・レグナは直にその人間にあったのだな」

 レビヤも神域の力を感じれるからか、オリービアとサラーを交互に見て、どちらが神域の力の持ち主なのかを探っている。

 だがその行動の意味が分からず、当の2人は何も答えることはしなかった。

「その通りなんだ。おいらも半信半疑で匂いの後を追ったんだよ。神竜族の威厳を示すためにも、そこからはお父さんの話し方を真似ながら」

「折角そこから演技してたのに、お兄ちゃんに負けてあっさり地に戻っていたです」

「サラーちゃん・・・抉らないの」

「ご・・・ごめんなさいです」

 僅かに震えながら恥ずかしさを隠すレグナ。
 言うつもりが無かった余計なことを言ってしまい、失敗したと後悔している。
 今度はレグナが持ち直すのを、全員が待つことになってしまった。

「・・・それで後を追って、人間の街で呼びかけて出てきたのがこの人達なんだよ。それで戦った後、負けはしたんだけど神竜族を救うために、竜闘祭で手伝ってほしいとお願いして、一緒にここに来てもらったってわけさ」

「手伝い?」

 オリービアとサラーを観察していたレビヤが、再び疑問を口にする。

「まあ・・・優勝できるように、ちょこっと援護みたいな?」

「族長・・・。まあそれに関しては何も言わないが。結果的に地力で優勝したのだろうし・・・」

 今度はラコーンが呆れているが、流石に実力での勝利であることは分かるようだ。

「レグナよ、経緯は分かったのだが、この地に一旦留まる決断に至る考えをまだ聞けておらぬ」

「あ・・・ごめん。それで出会った旦那さん達と話をしたら、他にも天使がいることが分かった。それもカマエル以外に2人もね。神狼族を虐殺したりと暗躍する、自称天使達の目的が分かるまでは、この地に残るほうが良いと思ったんだ。でも旦那さんと相談して、この地を離れてどこかに定住するのも、選択肢としては残したいと思う」

「それは、言っていることも分かるが預言はどうするのだ?」

「その預言も、おいらは独自の解釈をするようになったんだ」

「その独自の解釈を聞かせてくれぬか?」

 レビヤの言葉にレグナは頷く。

「”神竜族は彼の地を離れると滅ぶだろう”というのは、旦那さんに出会うように、ここに留まらせる為だったんじゃないかとね。カマエルが神狼族を虐殺した天使と目的を同じにしているのなら、結局は神狼族を滅ぼすつもりなんじゃないかと思って。今のところ、天使とまともに戦えてるのは旦那さんだけみたいだし」

「つまり、その旦那さんと出会うまでこの地に留まらないと、神竜族は滅びてしまうという預言だったという事か?」

「そうだと思うんだ。それにレビヤの話の中でも、カマエルが”この地に君達を留める為の方便”って言ってたし。この考えだと、そのカマエルの言葉はなんとなく信じられる気がするんだ」

「確かに・・・カマエルがそう言っていたのも、納得できるよいうもの」

 レグナの話は解釈としては自然な事に見える。

「一族の衰退も、カマエルの件が片付いた後に、新天地を目指せば解決できるのかもしれない、そんな風に感じたんだよね」

 それを聞いた神竜族の面々は、互いに頷きあいながら無言の肯定をレグナにぶつけている。

「おいらが出会った、ここにいる仲間達と出会ったことで、旦那さんと出会ったとことで、この考えに至れたんだ。だからみんなに紹介したんだよ」
 
「ほう・・・」

 何かが腑に落ちない感じを出すレビヤから、気の抜けた相槌が出てくる。

「それに旦那さんがどうやって神域の力を手に入れたのか、創造主と関係があるのかとか、色々聞ければこれからどうすればいいのかを決めやすくなるかもしれないしね!」

 息まいて見せるレグナに対し、レビヤが先程から聞こうとしていた事を口にする。

「レグナの言っている事は分かったが、そのくだんの旦那さんとやらはここにいないのか? 先程からこの2人の人間からは、神域の力を感じないのだが」

「あ・・・」

 そういえばレビヤはルシファーを見ていないことに気付き、これがきっかけでオリービア達全員が、悪気なくルシファーの事を忘れてしまっていたことに気付く。

「えっと! 旦那さんというのは私の夫の事でして!」

「それは正確ではないです。でもお兄ちゃんが旦那さんです!」

「主の呼び方は今はどうでもいい! 天使と戦いを初めた主は、どうなっているのだ!?」

「旦那さんが心配だよ!」

 混乱が招く混乱で、収集が付かなくなり始めている中、レグナは感覚を研ぎ澄ませて、ルシファーの神域の力を感じようとする。
 最初に神域の力を感じた方向へ集中すると、カマエルの力を感じることは出来たが。

「居た! でも・・・旦那さんの力が、弱くなってる!」

 その言葉にオリービア達は動きを止め、状況を理解しようと必死になる。

「カマエルは!? どうなんですか?」

「カマエルは変わっていない。旦那さんだけが・・・」

 オリービアはレグナの背中に飛び乗り、剣を抜いて声を張り上げた。

「行きましょう! ルシファー様の元へ!」

「分かった! 神竜族のみんなはここで待機してて! 族長命令だから!」

 レグナは返事を聞く時間すらもったいないと言わんばかりに飛翔を始め、飛行を開始する。
 翼を今までにないほど羽ばたかせ、高度と速度を増してルシファーの元へと向かった。

「お姉ちゃん!」

「心配するな娘。我の背に乗り、陸路で主のもとへ向かうようにと、奥方から伝わってきた」

「じゃあ早く行くです!」

 サラーはガルムによじ登り、背中で首元の毛を掴んで乗馬のように体勢を整える。

「僕も行くよ! 旦那さんを助けるよ!」

「良くぞ言った! ルルよ!」

 ガルムとルルは同時に駆け出す。

 待機を命じられ、歯がゆい思いをする神竜族の想いを背中に感じながら。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

弱いままの冒険者〜チートスキル持ちなのに使えるのはパーティーメンバーのみ?〜

秋元智也
ファンタジー
友人を庇った事からクラスではイジメの対象にされてしまう。 そんなある日、いきなり異世界へと召喚されてしまった。 クラス全員が一緒に召喚されるなんて悪夢としか思えなかった。 こんな嫌な連中と異世界なんて行きたく無い。 そう強く念じると、どこからか神の声が聞こえてきた。 そして、そこには自分とは全く別の姿の自分がいたのだった。 レベルは低いままだったが、あげればいい。 そう思っていたのに……。 一向に上がらない!? それどころか、見た目はどう見ても女の子? 果たして、この世界で生きていけるのだろうか?

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

処理中です...