異世界の無法者<アウトロー> 神との賭け・反英雄の救済

さめ

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11章 仲間と帰還そして帰還

11.8 天使との戦いが激化した話

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「おかしいのだ・・・貴方はさっきまで、そういった力の使い方は出来なかったはずなのだ」

「出来なかったんじゃない。知らなかったんだ」

「同じことなのだ。それに、怪我も治っているのだ」

「オリービア達ほどじゃないが、俺にもそれ位のものは与えられている。それに・・・お前が雑魚と決めつけた存在が、俺の怪我を癒したんだ」

「あの長い耳の奴は、なんの役にも立たないと思っていたのだが」

 まあ俺もそう思っていたのはあるけど・・・。
 正直全身舐められた感触が残っているので、荒地の速乾で乾いたとしても早く風呂入りたい。

 だが・・・まあ可愛いペット? にはなりつつあるかな?

「どうしたのだ?」

「なんでもない。さあ、ここからは俺が相手してやるよ。力の調整を手伝ってもらおうか」

「・・・創造主から、あなたは放っておいてそこの奴らだけを殺せと言われたのだ。だから・・・もうあなたと戦う必要はなくなったのだ」

「俺を連れていくんじゃないのか?」

「それは必要ないとの仰せなのだが・・・」

 カマエルは弾き飛ばされたことを怒るわけでもなく、ただただそこをどけと圧をかけてくるだけになる。

 話の途中で斧を下げて地面を蹴り、高速移動を行って俺を迂回し、後ろにいるオリービア達を屠ろうとするが。

「見えてはいる」

 その進行方向に回り込んで、刀を振り下ろした。カマエルに簡単に防がれてしまったが、そのまま高速移動を続けながら切り結んでいく。
 目もこの力の使い方にも慣れてきたのか、恐らくは戦斧による武術を使っていると思われるカマエルを、上回る手数を繰り出せるようになってきていた。



 空間には神鉄がぶつかり合う、甲高い音が響き渡り続けている。

 飛び上がり、間合いを詰め、横に薙ぎ払われる戦斧を避け、また間合いを詰め、刀を振り、それを受け流され、戦斧の柄で殴られそうなり、それを交わして反撃する。

 時には空中を飛び、時には地をかけているような動きをし、重力や古典力学の法則を無視した戦いが繰り広げられていた。

「ルシファー様・・・カマエルの動きに着いて行っていますよ」

「僅かな間に、主に何があったというのか」

「右! 上! あれ? 今度は地面で戦って・・・もうあっちにいる!」

 戦いの中で命力の循環を多く行い、得た力を無意識のうちに向上させていたオリービア達は、この高速戦闘を目で追うことは出来るようになっていた。

「どうやら我らは、動きが見えるようになっている。後は体が順応してくれることを、願うばかりだな」

「どういうことですか?」

「順応? どういうこと?」

「奥方とレグナ殿はそれでいい」

 ガルムは途中で面倒になったのか、自分が気づいた自分たちの変化を説明するのを放棄したようだ。

「あ~ごめんなさい。今考えが伝わってきました」

「命力っていうのがあるんだね。契約するとそれが循環? そして相乗効果で契約している者は、奥さんを通じて強くなるんだね」

「思念が伝わるようになって良かったと、我は思う・・・」

 ガルムが安堵している間にも、ルシファーとカマエルの攻防は続き、互いに疲労というものは無いのかと思うほどの、驚異的な運動量を保ったまま戦い続けている。

「・・・ルシファー様、さっき”仲間”って言っていましたね」

「主があんなに感情をむき出しにしているのを、我は始めてみた」

「今も明らかに、おいらたちを守って戦っているね」

 明確な怒りを露わにして現れたルシファーの変化に、気づかないはずもなく三者三葉に思いを巡らす。

 その間も、戦いから目を離すことは無かった。

「あのカマエル、エルシドさんの動きに近いものを感じます」

「我も同意見だ。恐らくは、カマエルは初めて出会った、武術を修めている大天使ということだと思う」

「おいらはそこら辺のこと分からないけど、カマエルの方が動きが効率的に見えるね。旦那さんはより大振りで単調に見えてしまうし」

「ですが、徐々にルシファー様が押しているようにも見えますが」

「いや・・・奥方、この戦いは長引きそうだ」

 オリービア達は戦いを見守ることしかできず、何か助けになることはないかと、話をしながらもそれぞれが考えを巡らせ続けていた。



「いい加減にするのだ!」

 回転による遠心力も加わった、大質量の戦斧による薙ぎ払い。
 後方へ一蹴りで飛び、胸の前をかすめて通過していく。

 今のは危なかった。そう思った時、この高速戦闘が始まってから初めてカマエルが足を止める。
 今の攻撃で肝を冷やしたことで、こちらも休憩代わりにカマエルの次の行動を観察しながら、足を止めて僅かに上がった心拍数を整えようとした。

「なんでなのだ。どうして貴方を倒せないのだ!?」

「俺も未だにお前を倒せていないがな」

「僕は創造主の武器なのだ! いくら貴方が創造主の求めてる方だとしても、似たような力を与えられているとしても! 僕が倒せないはずないのだ!」

 駄々をこねる子供のように、その場で地団駄を踏むカマエル。
 こうやってみると、でかい戦斧を持って翼を生やした子供にしか見えない。

「さっきのは殺す勢いの振りだったようだが、俺を殺すのはまずいんじゃないのか?」

「確かに・・・大変なことをしでかすところだったのだ。でも結果的に貴方は避けて、無事だったのだ」

「なんでそんなことをしたんだ?」

「貴方に・・・」
「イラっとしたんだろ?」

 行動の根拠を言われてしまったからか、カマエルは信じられないという表情で固まり、返事すらしなくなる。

「お前は創造主の命とやらを、創造主の求めている御方とやらを、イラっとしたからっていって、破っちまうような小者なんだよ。お前の忠誠のようなものも、敬う気持ちもその程度のものだったんじゃないか?」

「ち・・・違う! 僕は! 僕は創造主の・・・僕は創造主の命に従って! ガブリエルとウリエルとは違って・・・命を果たせる存在で」

「お前がその体たらくだとすると、やはりお前の創造主とやらは、大したことないんだな」

「黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 黙れ! 貴方が死ななければいいんだ! だから今度こそ、動けなくなるまで叩きのめせば、その侮蔑の言葉も言えなくなる! そのあとあいつらを殺して、貴方を献上すればいいんだ!」

「口調が変わっているぞ? それに俺は放っておくんじゃ無かったのか? 命とやらは無視するのか?」

「いい加減しゃべるな!」

 カマエルがとびかかってくるが、動揺し激高した天使の動きは単調そのもの。
 最初に挑発した時は上手くいかなかったが、今度は成功したようだ。

 戦っていて分かったことがある。

 この戦いに決着がつかない理由は、押してるように見えて力が拮抗していたからだ。
 力と速さは俺が勝っているものの、カマエルにはその差を埋めるだけの武術がある。

 これが分かったのは、獣操師のエルシドと模擬戦をした時に感じた感覚と、ほぼどうようの感覚だったから分かったことだ。

 あの模擬戦は、無駄ではなかったということ。

 そもそもエルシドは、獣操師を目指すものが武術を修めるのは、獣との実力差を埋める為と言っていた。
 だからこそ、今や速さと力で勝る俺とカマエルは戦えていたということになる。

 ということは、そのカマエルから武術の要素を引けば、どうなるだろう。

「こうなるんだよ!」

 声を張り上げながら、冷静さを失ったカマエルの顔面に向かって、刀を振る。

 直前でそれに気づいたカマエルは、空中で体制を捻った上で顔をそらし、迫りくる刀の刃から逃れようとした。
 だが反応と判断が遅れたのか、切っ先は頬を斬ることに成功し、そこから滴るほどの血を放出しだす。

 着地したカマエルは、その落ちる血の雫たちを掌で受け止め、ただ眺めている。

「なんだこれ・・・これって痛み? これが痛いっていうこと?」

 致命傷ではないものの、神鉄の武器であれば大天使を傷つけられることを確信し、大天使対策があるということを得たのはいいが。

「僕が・・・血が・・・出てる。創造主に頂いた、完璧な体から。創造主からの、賜りものが・・・。許さない! ルシファーあああああ!!!」

 ほら、予想通りこうなったか。

 さてここからが大変だ。この怒気に触れるとよくわかるが、もう完全に冷静さを失っている。
 こうなってしまったら、逆に厄介な状態になるかもしれない。もう、後先も考えていないようだからな。

「うがあああああ!」

 獣のような咆哮を上げながら、カマエルは戦斧を振り回してくる。
 もはや武術とは言えず、素人がバットを振っているように滅茶苦茶な動きだ。

 だがこれがなかなか厄介で、交わすのに一苦労な状態になり反撃まで手が回らない。

 冷静に戦われていた時のほうが、弱く感じてしまうほどに。

 それでも僅かに見つけた攻撃の間に、刀で脇腹を斬りつけるが、こいつらの宗教服のような衣装は、オリービアの鎧ドレスと同じように、神鉄の糸で作られているようで、事実上の打撃へと変化してしまう。

 加えてウリエルのように露出もないので、攻撃個所は首か顔、手首に限定されてしまう。

 他の力と合わせて攻撃を繰り出そうにも、集中する時間もない状態だ。

「ルシファー! ぐぎ!?」

 カマエルの猛攻を凌いでる最中、目の前をガルムの神狼の崩口しんろうのほうこうが通過する。
 吹き飛ばされて離れていくカマエルを目で追いながら、オリービアとガルム、レグナが集まり、横に並んで臨戦態勢を整えた。

「あの状態のカマエルならば、私たちも戦えそうです!」

「主と共に! あやつを討つ」

「お父さんの敵なんだ! おいらだって!」

 そうか。もう1人で戦わなくてもいいのか。

「そうだな。寄ってたかって倒してやろうじゃないか」

 自分のその言葉を聞き、オリービア達が喜んでいるように感じた。
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