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しおりを挟む午前中の授業が終わり昼休みになった。今日も王太子殿下から生徒会の仕事を押し付けられるだろうから席に座ったまま待っていると皇子殿下から声をかけられた。
「あの、よければ昼休みに学園を案内してくれないか?えーっと…」
「あっ!ミ、ミレイア・ノスタルクと申します」
「ではミレイア嬢と呼んでも?」
「こ、光栄でございます」
「そんなに畏まらないでくれ。私のこともテオハルト、いやハルと呼んでくれると嬉しいな」
「!」
まさか皇子殿下から名前を呼ばれるとは思ってもみなかった。今まで誰も私の名前など呼んではくれなかったから。
しかも皇子殿下の名前を呼ぶことを簡単に許されるなんて驚いた。皇子殿下はとても社交的な方なのかもしれない。
しかし「ハル」というとどうしても友達を思い出してしまう。
どのように返事をしようかと考えているとこちらに近づいてくる人が一人。
「おい、お前!」
「…はい、なんでしょうか。王太子殿下」
どうやら時間切れのようだ。
「何をボサッとしているんだ。さっさと婚約者としての勤めを果たしてこい!」
「…かしこまりました。皇子殿下、申し訳ございませんが案内は他の方に…」
「ああ!テオハルト殿下!学園の案内でしたら私が…」
「いや待ってくれ。私は彼女に案内をお願いしたのだが?」
「え、いや、でもこいつにはやるべき仕事が」
「じゃあ私も一緒に手伝おう。そうすれば早く終わるだろう?しかし昼食を食べずにしなくてはいけない仕事とは一体なんなんだい?」
「っ!あ、そ、れは…」
皇子殿下に聞かれ王太子殿下はかなり焦っているようだ。今では教師の間でも王太子殿下の替わりに私が生徒会の仕事をしているのは暗黙の了解になっているが、本来私は生徒会と関係のない部外者だ。
自分がするべき仕事を部外者に押し付けているなど大国の皇子殿下に知られるなど王太子殿下にとって恥でしかない。
たとえこの国の国王陛下であってもランカ帝国の皇族の方が格上なのだ。
「…も、申し訳ありません。この後予定があるのを忘れていたようで、ははは…。おま、ノ、ノスタルク嬢!テオハルト殿下をしっかり案内するんだぞ!で、では私はこれで…」
そう言って王太子殿下は足早に教室から去っていったが教室を出る際に私を睨んでいた。声には出していないが恐らく頭の中では怒り狂っているのだろう。
(次に会う時は殴られるかもしれないわね…)
「…はぁ」
「大丈夫かい?」
無意識にため息をついてしまい皇子殿下に心配されてしまった。久しぶりに人の優しさに触れて少し気が緩んでしまったのかもしれない。
「あっ!大丈夫です!申し訳ございませんでした」
「…あいつ許せないな」
「えっ?」
「いや、なんでもない。それじゃあ一緒に昼食を食べよう。食べ終わった後に案内を頼む」
「あ、あの皇子殿下、私昼食は…」
「テオハルト」
「え?」
「皇子殿下ではなくテオハルトと呼んでくれ」
「で、でも私なんかが畏れ多くて…」
「嫌、だろうか?」
寂しそうな表情で皇子殿下に問われてしまった。皇子殿下にこんな表情をさせてしまったことの方が畏れ多いと気づいた私は慌てて答えた。
「い、嫌ではありません!」
「じゃあ名前で呼んでくれるかい?」
「テ、テオ、ハル、ト…様」
「っ!…かわいい」
名前で呼ぶのに慣れていない私は恥ずかしくなってしまいうつむいてしまった。だからテオハルト様が口を押さえ顔を真っ赤にしていることになど気づかなかった。
テオハルト様から反応がなかったので不安になって私は顔を上げた。
「あ、あの…」
「!あ、あぁすまない。…あまりにも刺激が強すぎて」
「刺激…?」
「いや!こちらの話だ。これからも気にせずに呼んでくれると嬉しい。さぁ昼休みがなくなってしまうから急ごう」
結局私はいつも昼食は食べていないことを言いだせず数年振りに昼食を食べた。
残してしまうのではと心配していたのだがテオハルト様専用に個室が用意されており周りの視線を気にせずに済んだからか、食べられないと思っていた昼食をしっかり完食してしまった。
それに誰かと一緒に食べるとよりおいしく感じられることに気づいた。
一人じゃない食事は孤児院以来だったのでそれもあってか出会ったばかりのテオハルト様に親しみを覚えるのだった。
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