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 ーーあの日の夜、テオハルトの部屋にて


「レイを悲しませてしまった…」


 彼女の口から祝福の一族のことが出てきたのが嬉しくて焦ってしまった。
 おそらく彼女は自分が公女であるとは気づいていない。髪と瞳の色はペンダントによって色が変わっている。
 それに彼女の今までの境遇を考えれば当然だ。今まで不遇なことが当然の毎日を過ごしてきたのだからそんな都合のいいことがあるはずないと思って自分が公女であるとは考えていないだろう。
 私も歴史の話だけでまとめればよかったもののどうしても彼女に本当の家族のことを伝えたかった。
 でも話し終わった時の彼女は悲しみをこらえているような表情だった。


「くそっ…!」


 彼女を安心させたいと思って伝えたことが逆に彼女を悲しませてしまった。


 (そりゃそうだよな…。私は彼女が本物だと知っているけど彼女はそんなこと知らないんだから当然だ。互いを想い合っている家族の話を今の彼女にしてしまうなんて…焦りすぎた)


 あの愚かな王太子や公爵家が婚約破棄を企んでいると聞いたときはこれでレイを縛るものは無くなると喜んだ矢先のこれだ。
 もう卒業パーティーまではあまり日がない。これ以上は彼女を悲しませないように一層気を付けなければ。


「でも必ずレイを帝国に連れて帰る。これだけは絶対に譲れない」


 友達であり初恋の相手であり婚約者になるはずだった大切な彼女を迎えに行くのは私でありたいのだ。でも…


「少しでもレイの不安を減らせるのなら…」


 そう言って私はペンを取り手紙をしたためる。
 手紙を書き終えたら帝国から連れてきた信頼できる侍従に手紙を託す。


「この手紙を急ぎ皇帝陛下に」

「かしこまりました」


 侍従は手紙を持って部屋から出ていった。
 部屋に一人だけになったことを確認してため息をつく。


「はぁ…」


 しかしこのまま落ち込んでいるわけにはいかない。明日も変わらずに学園に行くのだからレイに気を遣わせることだけはないように気を付けなければ。


「…よし!」


 自分の頬を叩き気合いをいれる。
 学園生活も残りわずかだ。卒業パーティーがラストチャンスになるだろう。

 私はレイを必ず帝国に連れて帰るんだと決意を改めるのだった。
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