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一章 異世界漂着

27話 凄腕鍛冶職人

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 随分と年季の入ったドアを数回ノックすると、スキンヘッドが特徴的な初老の男性が登場した。

 「おお……」

 外見だけではさっきの店主よりも恐ろしい。放たれる威圧感に少し引き下がってしまう。

 「坊やに小娘か……こんな朝早くから何だ?」

 店主のように中身は優しい人だと信じ込んでいたが、性格も険しく隙がない。
 職人の登場に怯えどうすればいいか迷っている時、代わりにレベッカが事の説明を始めた。

 「セルゲイ君の……この子のナイフを研いでもらいたくて」
 「刃こぼれか?」
 「そんな感じです」
 「見せてみな」
 「あっはい」

 震える手で鞘をベルトから外し、職人に手渡すとナイフを引き抜き、全体を見渡している。

 「こりゃ随分と変わったデザインのナイフだな。それは置いておくとして、確かに刃が欠けておるな」
 「直せそうでしょうか?」

 身代わりになってくれるレベッカ。頭が上がらない。

 「ああ、問題ない。すぐに完了するさ。外は寒いだろうし、中に入れ」

 ナイフを再び鞘へと納め、鍛冶場へ入っていく職人。
 茫然と立ち尽くす俺に、レベッカが語り掛けた。

 「悪い人でも怖い人でもありませんよ。さあ、入りましょう」

 澄んだ顔で颯爽と中へ足を運ぶ。
 戦闘も、性格も完璧とは、欠点が見当たらないな。
 鍛冶場に踏み入る。
 鋼を溶かしブレードを精製するための大釜が2つあり、素人には全く理解できない器具や工具が並べられた作業台があった。
 職人が作業台に備えられた椅子に座ると、机上に積み重なった書類や本を乱暴に床へ落とし、砥石をそこから引き出した。

 「これぐらいの欠けなら1000番でいいな」

 専門用語を口にして砥石を眺める職人。

 「ちょっと待ってくれ」

 職人が立ち上がると、作業場の端に置かれている樽へ近寄り、丁度そこにあったバケツで水を汲み取った。
 水が満タンとなったバケツをこちらへ運んで来ると、職人が砥石を水に浸し、ついに修復作業が開始した。

 「…………」

 職人は無言で、刃こぼれを招いたナイフのブレードを集中して研いでいる。
 ナイフを一旦上げて確認し、再び研ぐ。
 乾きを帯びたら砥石を水に浸ける。
 角度を変えてみる。
 この単純だが奥の深い工程を、職人は何度も繰り返していた。
 職人の生み出す作業風景を黙って鑑賞していると、修復が済んだのかナイフを砥石から離した。

 「こんなもんでいいだろう」

 額に汗が浮かぶ職人の手に、新品同様エッジが鋭くなったナイフが握られていた。元の切れ味よりも期待できそうだ。

 「ど、どうも感謝します……」

 作業に見惚れていた俺はいきなり夢の世界から目覚めたような感覚に包まれて、おぼつかない口調で礼を言い渡した。
 ナイフのエッジは銀色に輝いている。職人技でしか実現できない至宝だ。
 鞘にナイフを入れベルトに戻すと、職人が小さな石を見せてきた。

 「せっかくだし、これをやる」
 「これは一体何ですか?」
 「小型の砥石だ。普段からのメンテナンスに使うといい」

 穏やかな表情で使い方を推奨される。
 この人も、根はいいのか。やっぱり人は中身で判断するのが重要だ。
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