34 / 176
一章 異世界漂着
33話 異世界って癖強い奴多いな
しおりを挟む
踏み入れたと同時、ガラス張りのテーブルと上質なソファ、そして優雅な匂いの香水が迎えてくれた。
「ここは来客用のロビーです。上司に鏡を渡してくるので、セルゲイ君はここで待っていてください」
「ああ、大人しくしておくよ」
近くのソファに腰を下ろす。
「すぐに戻ってきますので」
小走りでどこかへ行くレベッカを見つめながら、帰って来るのを待った。
……おっと、危ない危ない。危うく寝そうになっていた。
大きくて間抜けな欠伸を漏らすと、閉じかけていた瞼を擦りながら開帳した。
ぼんやりとした視界にレベッカと、もう一人の知らない誰かが立っているのが映る。こっちも中々の美貌に思えるが……。
「アンタ、誰?」
開口一番に出た言葉はそんな失礼なものであった。
眠気が完全に収まったあと、戸惑う自分にレベッカが丁寧に説明してくれた。
彼女の隣に立っている長い銀髪を腰元まで伸ばした女性の名前は「シェリー」と言うらしく、昔からの良きライバルであり、上司でもあるそうだ。ここに来た理由は、自分の情報を聞き付けたからだ。
「驚かせてごめんね」
シェリーさんが柔らかな微笑みを掛けてくる。
この人も、レベッカに負けず劣らずの美女だ。顔を見るのが気恥ずかしい。
「全くもう……来なくていいと言ったのに」
はあ、と溜め息をつくレベッカが視界に紛れる。
「まあいいじゃない。それにしても、今回の転生人は若いね」
「そ、そうなんですか?」
顔を上げて問い掛けた。
「うん、大体の転生人はむさ苦しいオッサンばかりだからね。こういう男の子は初めてよ」
「へ、へえ、そうですか……」
褒められているような気がして、恥ずかしくなった俺は顔を背ける。
「ところで名前は?」
「あ、はい……えーと……」
美人騎士2人に囲まれていると言葉を紡ぐのも難しくなる。
「セルゲイ・イヴァーノヴィチ・ベレンコです……呼び方は、まあ、はい、好きにしてくれて結構です」
「じゃあセルゲイ君でいい?」
「え……!? あ、い、いいですけど」
この人も君付けで呼んでくるのか……。嫌ではないが、本当に全くと言っていい程慣れない。せめて苗字の君付けならまだ耐えられるが。
「雑談もここまでにして、そろそろ申請書を取り寄せに行きましょう。さあ、立ってください」
レベッカに手を差し出され、それを掴もうとするが――――
「はい、どうぞ~」
妨害を仕掛けるかのようにして、シェリーさんの手が伸びてきた。そっちの手の方が自分との距離が近いので、無意識のまま掴んでしまった。
「ど、どうも……」
微笑しながら礼を伝える。
シェリーさんは満面の笑みを浮かび上げていたが、対するレベッカはというと、明らかに不機嫌そうな様子だった。
二階のとある部屋に入室し、『保護許可証』という簡易的な国籍のようなものを取得するために街の管理者である人物と話し合っていた。
「ちょっと、必要な書類を取って来るから」
管理者が壁際の棚へ歩いて行き、雑多なファイルを選別している。
「あのー……質問があるんだけど」
左右に視線を交互に向ける。
自分が現在座っているソファの右にはこの世界へ来て初めて出会った人間のレベッカが居る。しかし左側には何故か、さっき知り合ったばかりのシェリーさんが。
「何で来たのですか……」
呆れ気味に言うレベッカに、
「暇だから」
シェリーさんは明るくそう答えた。
いや別に居ても居なくてもどっちでもいいというのが本音なのだが、挟まれて座るのは個人的に居心地が悪い。
管理者が必要書類を持ってくるまでの間、2人の顔をこっそりと覗いているが、双方共に非の打ち所が見当たらない。
そんな人達に挟まれているというのだから、さっさとここを抜け出したい気持ちでいっぱいだ。
「待たせて悪いね」
管理者が戻って来た。書類を取りに行ってから数分も経っていないが、俺にはとても長く感じた。
「ここは来客用のロビーです。上司に鏡を渡してくるので、セルゲイ君はここで待っていてください」
「ああ、大人しくしておくよ」
近くのソファに腰を下ろす。
「すぐに戻ってきますので」
小走りでどこかへ行くレベッカを見つめながら、帰って来るのを待った。
……おっと、危ない危ない。危うく寝そうになっていた。
大きくて間抜けな欠伸を漏らすと、閉じかけていた瞼を擦りながら開帳した。
ぼんやりとした視界にレベッカと、もう一人の知らない誰かが立っているのが映る。こっちも中々の美貌に思えるが……。
「アンタ、誰?」
開口一番に出た言葉はそんな失礼なものであった。
眠気が完全に収まったあと、戸惑う自分にレベッカが丁寧に説明してくれた。
彼女の隣に立っている長い銀髪を腰元まで伸ばした女性の名前は「シェリー」と言うらしく、昔からの良きライバルであり、上司でもあるそうだ。ここに来た理由は、自分の情報を聞き付けたからだ。
「驚かせてごめんね」
シェリーさんが柔らかな微笑みを掛けてくる。
この人も、レベッカに負けず劣らずの美女だ。顔を見るのが気恥ずかしい。
「全くもう……来なくていいと言ったのに」
はあ、と溜め息をつくレベッカが視界に紛れる。
「まあいいじゃない。それにしても、今回の転生人は若いね」
「そ、そうなんですか?」
顔を上げて問い掛けた。
「うん、大体の転生人はむさ苦しいオッサンばかりだからね。こういう男の子は初めてよ」
「へ、へえ、そうですか……」
褒められているような気がして、恥ずかしくなった俺は顔を背ける。
「ところで名前は?」
「あ、はい……えーと……」
美人騎士2人に囲まれていると言葉を紡ぐのも難しくなる。
「セルゲイ・イヴァーノヴィチ・ベレンコです……呼び方は、まあ、はい、好きにしてくれて結構です」
「じゃあセルゲイ君でいい?」
「え……!? あ、い、いいですけど」
この人も君付けで呼んでくるのか……。嫌ではないが、本当に全くと言っていい程慣れない。せめて苗字の君付けならまだ耐えられるが。
「雑談もここまでにして、そろそろ申請書を取り寄せに行きましょう。さあ、立ってください」
レベッカに手を差し出され、それを掴もうとするが――――
「はい、どうぞ~」
妨害を仕掛けるかのようにして、シェリーさんの手が伸びてきた。そっちの手の方が自分との距離が近いので、無意識のまま掴んでしまった。
「ど、どうも……」
微笑しながら礼を伝える。
シェリーさんは満面の笑みを浮かび上げていたが、対するレベッカはというと、明らかに不機嫌そうな様子だった。
二階のとある部屋に入室し、『保護許可証』という簡易的な国籍のようなものを取得するために街の管理者である人物と話し合っていた。
「ちょっと、必要な書類を取って来るから」
管理者が壁際の棚へ歩いて行き、雑多なファイルを選別している。
「あのー……質問があるんだけど」
左右に視線を交互に向ける。
自分が現在座っているソファの右にはこの世界へ来て初めて出会った人間のレベッカが居る。しかし左側には何故か、さっき知り合ったばかりのシェリーさんが。
「何で来たのですか……」
呆れ気味に言うレベッカに、
「暇だから」
シェリーさんは明るくそう答えた。
いや別に居ても居なくてもどっちでもいいというのが本音なのだが、挟まれて座るのは個人的に居心地が悪い。
管理者が必要書類を持ってくるまでの間、2人の顔をこっそりと覗いているが、双方共に非の打ち所が見当たらない。
そんな人達に挟まれているというのだから、さっさとここを抜け出したい気持ちでいっぱいだ。
「待たせて悪いね」
管理者が戻って来た。書類を取りに行ってから数分も経っていないが、俺にはとても長く感じた。
10
あなたにおすすめの小説
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました
東束末木
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞 奨励賞、いただきました!!
スティールスキル。
皆さん、どんなイメージを持ってますか?
使うのが敵であっても主人公であっても、あまりいい印象は持たれない……そんなスキル。
でもこの物語のスティールスキルはちょっと違います。
スティールスキルが一人の少年の人生を救い、やがて世界を変えてゆく。
楽しくも心温まるそんなスティールの物語をお楽しみください。
それでは「スティールスキルが進化したら魔物の天敵になりました」、開幕です。
2025/12/7
一話あたりの文字数が多くなってしまったため、第31話から1回2~3千文字となるよう分割掲載となっています。
アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~
うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」
これしかないと思った!
自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。
奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。
得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。
助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します
名無し
ファンタジー
毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる