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一章 異世界漂着

33話 異世界って癖強い奴多いな

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 踏み入れたと同時、ガラス張りのテーブルと上質なソファ、そして優雅な匂いの香水が迎えてくれた。

 「ここは来客用のロビーです。上司に鏡を渡してくるので、セルゲイ君はここで待っていてください」
 「ああ、大人しくしておくよ」

 近くのソファに腰を下ろす。

 「すぐに戻ってきますので」

 小走りでどこかへ行くレベッカを見つめながら、帰って来るのを待った。
 ……おっと、危ない危ない。危うく寝そうになっていた。
 大きくて間抜けな欠伸を漏らすと、閉じかけていた瞼を擦りながら開帳した。
 ぼんやりとした視界にレベッカと、もう一人の知らない誰かが立っているのが映る。こっちも中々の美貌に思えるが……。

 「アンタ、誰?」

 開口一番に出た言葉はそんな失礼なものであった。
 眠気が完全に収まったあと、戸惑う自分にレベッカが丁寧に説明してくれた。
 彼女の隣に立っている長い銀髪を腰元まで伸ばした女性の名前は「シェリー」と言うらしく、昔からの良きライバルであり、上司でもあるそうだ。ここに来た理由は、自分転生人の情報を聞き付けたからだ。

 「驚かせてごめんね」

 シェリーさんが柔らかな微笑みを掛けてくる。
 この人も、レベッカに負けず劣らずの美女だ。顔を見るのが気恥ずかしい。

 「全くもう……来なくていいと言ったのに」

 はあ、と溜め息をつくレベッカが視界に紛れる。

 「まあいいじゃない。それにしても、今回の転生人は若いね」
 「そ、そうなんですか?」

 顔を上げて問い掛けた。

 「うん、大体の転生人はむさ苦しいオッサンばかりだからね。こういう男の子は初めてよ」
 「へ、へえ、そうですか……」

 褒められているような気がして、恥ずかしくなった俺は顔を背ける。

 「ところで名前は?」
 「あ、はい……えーと……」

 美人騎士2人に囲まれていると言葉を紡ぐのも難しくなる。

 「セルゲイ・イヴァーノヴィチ・ベレンコです……呼び方は、まあ、はい、好きにしてくれて結構です」
 「じゃあセルゲイ君でいい?」
 「え……!? あ、い、いいですけど」

 この人も君付けで呼んでくるのか……。嫌ではないが、本当に全くと言っていい程慣れない。せめて苗字の君付けならまだ耐えられるが。

 「雑談もここまでにして、そろそろ申請書を取り寄せに行きましょう。さあ、立ってください」

 レベッカに手を差し出され、それを掴もうとするが――――

 「はい、どうぞ~」

 妨害を仕掛けるかのようにして、シェリーさんの手が伸びてきた。そっちの手の方が自分との距離が近いので、無意識のまま掴んでしまった。

 「ど、どうも……」

 微笑しながら礼を伝える。
 シェリーさんは満面の笑みを浮かび上げていたが、対するレベッカはというと、明らかに不機嫌そうな様子だった。
 二階のとある部屋に入室し、『保護許可証』という簡易的な国籍のようなものを取得するために街の管理者である人物と話し合っていた。

 「ちょっと、必要な書類を取って来るから」

 管理者が壁際の棚へ歩いて行き、雑多なファイルを選別している。

 「あのー……質問があるんだけど」

 左右に視線を交互に向ける。
 自分が現在座っているソファの右にはこの世界へ来て初めて出会った人間のレベッカが居る。しかし左側には何故か、さっき知り合ったばかりのシェリーさんが。

 「何で来たのですか……」

 呆れ気味に言うレベッカに、

 「暇だから」

 シェリーさんは明るくそう答えた。
 いや別に居ても居なくてもどっちでもいいというのが本音なのだが、挟まれて座るのは個人的に居心地が悪い。
 管理者が必要書類を持ってくるまでの間、2人の顔をこっそりと覗いているが、双方共に非の打ち所が見当たらない。
 そんな人達に挟まれているというのだから、さっさとここを抜け出したい気持ちでいっぱいだ。

 「待たせて悪いね」

 管理者が戻って来た。書類を取りに行ってから数分も経っていないが、俺にはとても長く感じた。
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