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一章 異世界漂着
46話 パレスチナの勇者達
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……が、人間は危ないと言われている場所に行きたくなってしまう生物だ。
スリルを味わうために、逃げ惑う市民とは真逆の方向、つまり検問所の方角へ向かっていた。マフムードさんも一緒だ。
検問所の付近に到着すると、蛾と人間が融合したかのような悍ましい風貌の化け物――――いわゆる魔物とそれの侵攻を阻止しようと、正規軍と騎士団が結託し防衛線を展開していた。騎士が近接戦闘で魔物をある程度傷付け、後方から正規軍の狙撃隊がトドメを刺すという、合理的な戦法だ。
だが魔獣の勢いは圧倒的であり、いくら倒しても対岸から新たな個体が川を渡って上陸して来ていた。
「マジで映画みたいですね」
「ああ、俺もそう思うよ」
物陰に潜んで観戦を続ける。
戦場に潜入したのに戦わず目前の光景を面白がる俺達は、正真正銘のカスだな。
スコープを覗いて詳しく観察していると、戦闘で血塗れになりながらレベッカが必死に剣を払い続けていた。
魔獣の胴体を切断し、首を撥ね、あるいは突き刺して殺害。随分と手慣れなようだ。
しかしそんな彼女の顔にも焦燥が浮き出ていた。限界を感じ始めているのだろう。
「マフムードさん、ちょっくら援護します」
「友達のためか?」
「まあそういう感じですね」
購入したばかりのAKに弾倉を込めてレバーを引くと、地面に伏せて銃を構えた。
立っている状態だとすぐに動けるという利点があるが、逆に匍匐の姿勢だと反動が軽減する。
大きなスコープのレンズに目を近付ける。中心のレティクルに魔獣の頭部が引っ掛かる。
迷う事無く、発砲。
AK特有の鈍い反動が肩を襲うが、放たれた弾丸はその性能を存分に発揮したみたいで、
「一匹をあの世に送れたな」
魔獣の眉間に隕石が激突したかと思う程の大穴が生じている。生物としての大事な所を貫かれた魔獣は地面にどさりと倒れ込む。
この調子で魔獣を遠距離から一方的に駆逐した。
1匹、10匹、20匹……と、倒すのに苦労はしないのだが、半永久的に湧き続ける魔獣に手間取っていた。
「うーん、弾倉は今ので終わりだな」
とうとう全ての弾を使い切ってしまった。利用価値のなくなったマガジンを投げ捨てる。
「大丈夫だ、多分アイツらが来るから」
マフムードさんがどこか不敵な笑みを浮かべる。瞳には確信が籠っていた。
何か切り札があるのだろうか……AKを一旦手離し、そう考えていると、どこからともなく迷彩服に身を包み、頭に特徴的な緑色のヘッドバンドを括り付けた戦闘員達が何百人と出現した。武器は現代的なものであった。自動小銃は全員が携えていて、一部の兵士は軽機関銃や迫撃砲で魔獣に攻撃を加えている。
突如現れた兵士の外観がマフムードさんと似ているような気がして、慌てて彼の方へ向いた。
「俺の同志達の、ラマスさ」
嬉しそうな表情を浮かべていたのは、これが理由だったのか。
そして、ラマスによる大反撃が開幕した。
連射式の銃火器に魔獣達は為す術もなく、次々にひれ伏していった。
ラマスの火力は圧倒的で、正規軍や騎士団はもはや役に立っていない。
けたたましい銃声が断絶する事なく鳴り続け、魔獣の体躯がバラバラに吹き飛んでいく。流石に魔獣もそこまで馬鹿ではないのか、無事な個体は対岸へ逃げ始めていた。
形成が逆転しこちらの勝利が迫りつつある中、一匹の全身に棘の生えた魔獣が突進。表皮は異常に固く、斬撃はおろか、ラマスの有する武器でも歯が立たなかった。
優勢が崩壊し始める。棘の魔獣が前方の騎士達を肉の塊へと変えていき、まともに張り合える騎士はレベッカと数名の者だけとなった。
彼女は何かを呟き、体液で汚れたブレードに炎が灯った。
剣を一振りするだけで、火炎の暴風が巻き起こる。それは魔獣を包み込むが、奴は死ぬどころか活力を増大させていた。
魔獣が自分の体から棘を何本か引き抜いてレベッカへ投擲する。
凶器の棘を剣で阻み、致命傷を何とか避けている。
「クッソ―、ライフルも持ってくるべきだったな」
Hk416があれば援護できていただろう。持って来なかった事に後悔した。
防戦一方となっているレベッカだったが、そんな彼女の後ろにロケットランチャーを持ったラマスの兵士が現れる。
兵士がレベッカに飛び付いて無理やり地面に組み伏せると、今度は立ち上がってロケットランチャーを魔獣の方へと構えた。
「ほう、アイツが出て来たか。面白くなってきたな」
マフムードさんが興味深そうに首を小さく振っていると、ロケットランチャーが爆裂を響かせて、弾頭が目では負えない程の速度で魔獣に突撃していった。
爆発音が一帯に響き渡る。
炸薬がたっぷりと詰められた弾頭を真正面から受けた魔獣は死骸が残らず、ただの破片となってこの世を去った。
スリルを味わうために、逃げ惑う市民とは真逆の方向、つまり検問所の方角へ向かっていた。マフムードさんも一緒だ。
検問所の付近に到着すると、蛾と人間が融合したかのような悍ましい風貌の化け物――――いわゆる魔物とそれの侵攻を阻止しようと、正規軍と騎士団が結託し防衛線を展開していた。騎士が近接戦闘で魔物をある程度傷付け、後方から正規軍の狙撃隊がトドメを刺すという、合理的な戦法だ。
だが魔獣の勢いは圧倒的であり、いくら倒しても対岸から新たな個体が川を渡って上陸して来ていた。
「マジで映画みたいですね」
「ああ、俺もそう思うよ」
物陰に潜んで観戦を続ける。
戦場に潜入したのに戦わず目前の光景を面白がる俺達は、正真正銘のカスだな。
スコープを覗いて詳しく観察していると、戦闘で血塗れになりながらレベッカが必死に剣を払い続けていた。
魔獣の胴体を切断し、首を撥ね、あるいは突き刺して殺害。随分と手慣れなようだ。
しかしそんな彼女の顔にも焦燥が浮き出ていた。限界を感じ始めているのだろう。
「マフムードさん、ちょっくら援護します」
「友達のためか?」
「まあそういう感じですね」
購入したばかりのAKに弾倉を込めてレバーを引くと、地面に伏せて銃を構えた。
立っている状態だとすぐに動けるという利点があるが、逆に匍匐の姿勢だと反動が軽減する。
大きなスコープのレンズに目を近付ける。中心のレティクルに魔獣の頭部が引っ掛かる。
迷う事無く、発砲。
AK特有の鈍い反動が肩を襲うが、放たれた弾丸はその性能を存分に発揮したみたいで、
「一匹をあの世に送れたな」
魔獣の眉間に隕石が激突したかと思う程の大穴が生じている。生物としての大事な所を貫かれた魔獣は地面にどさりと倒れ込む。
この調子で魔獣を遠距離から一方的に駆逐した。
1匹、10匹、20匹……と、倒すのに苦労はしないのだが、半永久的に湧き続ける魔獣に手間取っていた。
「うーん、弾倉は今ので終わりだな」
とうとう全ての弾を使い切ってしまった。利用価値のなくなったマガジンを投げ捨てる。
「大丈夫だ、多分アイツらが来るから」
マフムードさんがどこか不敵な笑みを浮かべる。瞳には確信が籠っていた。
何か切り札があるのだろうか……AKを一旦手離し、そう考えていると、どこからともなく迷彩服に身を包み、頭に特徴的な緑色のヘッドバンドを括り付けた戦闘員達が何百人と出現した。武器は現代的なものであった。自動小銃は全員が携えていて、一部の兵士は軽機関銃や迫撃砲で魔獣に攻撃を加えている。
突如現れた兵士の外観がマフムードさんと似ているような気がして、慌てて彼の方へ向いた。
「俺の同志達の、ラマスさ」
嬉しそうな表情を浮かべていたのは、これが理由だったのか。
そして、ラマスによる大反撃が開幕した。
連射式の銃火器に魔獣達は為す術もなく、次々にひれ伏していった。
ラマスの火力は圧倒的で、正規軍や騎士団はもはや役に立っていない。
けたたましい銃声が断絶する事なく鳴り続け、魔獣の体躯がバラバラに吹き飛んでいく。流石に魔獣もそこまで馬鹿ではないのか、無事な個体は対岸へ逃げ始めていた。
形成が逆転しこちらの勝利が迫りつつある中、一匹の全身に棘の生えた魔獣が突進。表皮は異常に固く、斬撃はおろか、ラマスの有する武器でも歯が立たなかった。
優勢が崩壊し始める。棘の魔獣が前方の騎士達を肉の塊へと変えていき、まともに張り合える騎士はレベッカと数名の者だけとなった。
彼女は何かを呟き、体液で汚れたブレードに炎が灯った。
剣を一振りするだけで、火炎の暴風が巻き起こる。それは魔獣を包み込むが、奴は死ぬどころか活力を増大させていた。
魔獣が自分の体から棘を何本か引き抜いてレベッカへ投擲する。
凶器の棘を剣で阻み、致命傷を何とか避けている。
「クッソ―、ライフルも持ってくるべきだったな」
Hk416があれば援護できていただろう。持って来なかった事に後悔した。
防戦一方となっているレベッカだったが、そんな彼女の後ろにロケットランチャーを持ったラマスの兵士が現れる。
兵士がレベッカに飛び付いて無理やり地面に組み伏せると、今度は立ち上がってロケットランチャーを魔獣の方へと構えた。
「ほう、アイツが出て来たか。面白くなってきたな」
マフムードさんが興味深そうに首を小さく振っていると、ロケットランチャーが爆裂を響かせて、弾頭が目では負えない程の速度で魔獣に突撃していった。
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