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一章 異世界漂着

50話 ラマスの最高指導者とご対面

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 時折ラマスの戦闘員と出会いながらトンネルを移動し続ける事しばらく、ついに出口へ辿り着いた。外の光が薄暗いトンネルに差し込んでいる。

 「もうひと踏ん張りだ」

 励ましの言葉を掛けられ、地上へ出るための坂を上がっていく。
 トンネルの籠った空気ではなく、外部の新鮮な空気にようやく触れる。

 そして抜け出た先は、昨日の検問所付近であった。戦闘員達が続々と出現したのはここからだろう。
 地上には散乱した肉片や武器の残骸を始末するラマス兵の姿があった。本当に善行を成している光景を見て、少しの驚きを覚える。

 「何かボランティアみたいですね」

 ふと、思った事を口に表す。

 「そう言ってくれて嬉しいよ。俺らはもう、テロ行為はやらないって決めたからな」
 「え? どういう意味ですか?」

 その言葉の意図がよく分からず、聞き返してしまう。

 「やめた理由か? 単純に人間関係というものを知ったからだよ」
 「人間関係、ですか?」

 さらに質問を重ねると、彼はテロリストとは思えない穏やかな表情で話し出した。

 「知っての通り、俺達はイスラエルにいじめられ、戦ってた。国際社会にも悪者扱いされて、俺らの居場所はどこにもなかったんだ。だから、余所者とは徹底的に関係を切っていた。ここに飛ばされた当初も、現地人を攻撃する気満々だったんだ。でも、ここの人達はこんなならず者の集団に優しくしてくれて、殺す気にはなれなかった。それどころか、とても嬉しかったんだ」

 まるで映画のような話だ。いや、台本を書き上げればこの体験談を映画にできるだろう。ともかく感動する話だ。

 こんな秘話があったのだと感激していると、1人のハマス兵が寄って来た。迷彩服を着ているが、かなりの筋肉質だ。身長も高く、覆面から微かに露出する眼も鋭い。

 この兵士、見た事あるような……あ、思い出した。確かこの兵士は、敵に苦戦するレベッカを庇い、ロケットランチャーで魔獣を木っ端微塵に吹き飛ばした人だ。

 「マフムード、ロケット弾の調子はどうだ?」
 「今日の進み具合は中途半端だな」

 仲睦まじい様子で談笑する姿をじっと眺めていると、マフムードさんがこちらへ戻って来た。

 「おっと悪い。この人はモハメッド・ハーン。今はハマスの最高指導者さ」
 「誰かは知らんが、よろしくな」

 モハメッドという男に手を差し出され、無意識のまま握手する。指は太く、固い。握力の測定を行えばギネス世界記録を達成しそうだ。

 「坊や、名前は何と言うんだ?」

 声は低く、威圧感の乗ったものだ。この問いを無視すれば、処刑されるかもしれないと思う程に。

 「セルゲイ・イヴァーノヴィチ・ベレンコ、で、です」

 少し声を震わせながら答えた。

 「名前的にスラブ人か……スラブ人は戦闘に長けているとよく聞く。何かあった時は共に支え合おう」
 「は、はいっ」
 「じゃあ、作業に戻るぞ」

 モハメッドは逞しい背中を向けると、現場へ戻って行った。

 「あの人、結構怖いですね」

 彼へ感じた恐怖をマフムードさんにこぼす。

 「全然怖くないよ。というか怒ってるところを見た事がない。アイツは、人と関わるのがちょっと不器用なんだ」
 「そ、そうなんですか?」

 あんなゴリラみたいな男が優しい訳ないだろうと思っていると、マフムードさんが彼の居る所へ指を向けた。

 「ほら、見ろ」

 そこに視線を注ぐと、重たい荷物を運ぶ部下を手伝っている彼の姿。目付きも優しくなっているように感じる。

 「全然、怖くないだろ?」

 明るい笑顔でそう言われ、反論の余地がないと静かに頷く。

 「あと、呼ぶ時は『モハちゃん』って呼んでやれ。喜ぶから」
 「モ、モハちゃん……?」

 威厳たっぷりな彼にはあまりに不適切なニックネームだ。そもそも、最高指導者の愛称がマスコットキャラみたいな名前でいいのだろうか。甚だ疑問だ。

 「アイツのあだ名はもう一つあるな」
 「まだあるんですか?」

 次もインパクトが強い愛称かもしれない。
 「それは、『ロケットランチャーのモハメッド』だ」

 さっきとは別の意味で個性的なあだ名だが、このニックネームは彼にピッタリだと思う。何故なら、その愛称の言葉通りロケットランチャーで全てを無に変えていたからだ。

 「ああそれと、俺も呼び捨てでいいよ。敬語も使わなくていい。皆とは平等にやっていきたいからな」

 実は俺も、丁度この話し方に抵抗感を覚え始めていた頃だ。

 「そうさせてもらうよ、マフムード」

 こっちの喋り方の方がスラスラと言葉が出てくる。
 心を入れ替えたラマスには、こんなにも個性的な連中が居るのかと思い知った。
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