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一章 異世界漂着
52話 奇妙な共同生活の幕開け
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自宅に帰り、寝室で銃のメンテナンスを行っていた。主な作業内容は銃口のクリーニングだ。
バレルを水で洗浄したので、乾くまで幾らかの時間が必要となる。その間に夕飯の準備でもやっておこう。今日は野菜炒めだ。
だがしかし、メンテナンスにそこそこの気力を使ったためか、動きたくはない。
作業台を離れると、若干シワのあるベッドに大の字になって寝転んだ。
「寝たいけどなぁ……」
何だかんだであと数時間もすれば夕食だ。今寝る訳にはいかない。
そろそろ飯でも作ろうとかと、ベッドを立ち上がった時、玄関の扉が何回か叩かれた。
ダグラスとかラファイエットとか、友達だろうかと思い、背伸びと欠伸をしながら玄関へ向かう。
「はいはい、今出る――――よ」
扉を前へ押し開けると、そこには意外な人達が待っていた。
まず1人は、両手に品質の良さそうな鞄を持ったレベッカだった。服装も柔らかい雰囲気のもので、黄色の長いスカートと白いシャツがよく似合っている。
それで2人目は、はち切れる程膨張したリュックを背負い銀髪を靡かせる美人の……えっと、あれ、この人の名前何だっけ。
「アンタ、誰?」
前にもこんな失礼極まりない事を言った気がする。
「もう忘れたの? 私はシェリーよ。当分の間、お世話になるから」
そうそう、それだ。まさしくシェリーという名前こそが正解だ。
いや、ちょっと待ってくれ。お世話になるからって、どういう意味だ。
とりあえずリビングへ案内したあと、詳しい事情を聴取した。
2人は自分達が普段住んでいる隊舎が改修工事の影響でしばらくの間住めなくなってしまい、それが完了するまでここで過ごす事に決めたそうだ。
事情はよく分かった。だが、いくら何でもこの家で過ごすのはおかしいと思う。普通はホテルに泊まった方が贅沢な暮らしができると思うのだが――――
「無駄な金銭を使いたくありません」
「あと、男の子の家の方が面白そうだし」
と、正論と圧力の強い戯言を突き付けられ、反論の意思はもみ消された。
「分かったけどさぁ……」
レベッカとシェリーさんの整った顔をチラチラと見る。
1人でも大変だろうに、こんな美女が2人も家に居たら気が狂ってしまいそうだ。
「まあとにかく、家事はちゃんとしろよ。俺に押し付けんなよ」
少し冷たくそう言って、ソファを立ち上がり、リビングを出て行った。
寝室に戻ると、扉を背もたれにして座り込んだ。
「大丈夫かな……ちょっと強く言い過ぎたかな」
本心ではないが、さっきのは言い方があまり良くなかった。嫌われたらどうしようと、頭を悩ます。
それに、こんな簡単に受け入れてよかったのかと、今になって後悔し始めた。
雄1匹と雌2匹がひとつ屋根の下で共同生活をこれから行うのだ。絶対、刺激的なトラブルが発生するだろう。特に今の状態だと。
「はあ、まあ嬉しいといえば嬉しいけどさ……こんなハーレムみたいな状況で上手くやっていける自信がないよ」
哀れで情けない呟きをぽつりと、静かに漏らす。
一時的な共同生活とはいっても不安だ。
そんな悩みを打ち壊すかのように、扉の向こうからドタバタと足音が響いた。
「セルゲイ君! こっち来て!」
この声は、シェリーさんか。慌ててどうしたのだろう。
「何だ? 今は1人に……」
「火が出たのよ!」
「え!?」
火災は無視できない。急いで部屋を飛び出した。
眼前には水が入ったバケツを抱えるシェリーさんが居た。
「火はどこだ!」
「こっちよ!」
火の出元へ急いで向かう。
走っていると煙の嫌な感じの臭いが次第に強くなっていった。
辿り着いた場所は、調理を行う台所だ。白煙がリビングに流れている。
そこらにあった適当な布で口元を覆うと、台所に入って行った。中にはレベッカがおり、火が噴き出るフライパンにコップで汲み取った水を何度も掛けていた。
「レベッカ! どいて!」
シェリーさんが彼女を押し退けると、コップの水とは比較にならないバケツに溜まった大容量の水をフライパンに全て注いだ。
噴き出ていた火は徐々に勢いが弱まっていき、ついに完全に鎮火する事に成功した。
「何やってたんだ……」
火が収まったフライパンに近寄る。まだ煙が残っているが気にしない。
「すみません……」
弱々しい声で謝るレベッカに、
「まあ怪我がないだけいい方だろ」
敢えてポジティブな言葉を投げ掛けた。
フライパンの中身を覗くと、真っ黒になった野菜ともはや何の動物だったのか判別不可能な肉が燃え尽きていた。
「ああ、俺の食い物が……」
せっかく調達した食料がゴミ同然の姿へと変わってしまい、気分が沈む。
彼女らの方へ振り向くと、何で火事が起きたのか問い掛けた。
「えっと、家事をやろうと思っていまして……」
「う、うん……ご、ごめんなさいね?」
反省の言葉を吐く2人にこう語り掛ける。
「いや、謝らなくていいよ。家事をやれって言ったのは俺の方だ。むしろ、ちゃんと教えてなくて悪かった」
自分が家事の手順をしっかり説明していれば、この悲劇は起きなかった筈だ。
「じゃあ、今から買い出し行くか!」
闇に落ち掛けていた感情を掬い上げ、財布片手に力強く叫んだ。
バレルを水で洗浄したので、乾くまで幾らかの時間が必要となる。その間に夕飯の準備でもやっておこう。今日は野菜炒めだ。
だがしかし、メンテナンスにそこそこの気力を使ったためか、動きたくはない。
作業台を離れると、若干シワのあるベッドに大の字になって寝転んだ。
「寝たいけどなぁ……」
何だかんだであと数時間もすれば夕食だ。今寝る訳にはいかない。
そろそろ飯でも作ろうとかと、ベッドを立ち上がった時、玄関の扉が何回か叩かれた。
ダグラスとかラファイエットとか、友達だろうかと思い、背伸びと欠伸をしながら玄関へ向かう。
「はいはい、今出る――――よ」
扉を前へ押し開けると、そこには意外な人達が待っていた。
まず1人は、両手に品質の良さそうな鞄を持ったレベッカだった。服装も柔らかい雰囲気のもので、黄色の長いスカートと白いシャツがよく似合っている。
それで2人目は、はち切れる程膨張したリュックを背負い銀髪を靡かせる美人の……えっと、あれ、この人の名前何だっけ。
「アンタ、誰?」
前にもこんな失礼極まりない事を言った気がする。
「もう忘れたの? 私はシェリーよ。当分の間、お世話になるから」
そうそう、それだ。まさしくシェリーという名前こそが正解だ。
いや、ちょっと待ってくれ。お世話になるからって、どういう意味だ。
とりあえずリビングへ案内したあと、詳しい事情を聴取した。
2人は自分達が普段住んでいる隊舎が改修工事の影響でしばらくの間住めなくなってしまい、それが完了するまでここで過ごす事に決めたそうだ。
事情はよく分かった。だが、いくら何でもこの家で過ごすのはおかしいと思う。普通はホテルに泊まった方が贅沢な暮らしができると思うのだが――――
「無駄な金銭を使いたくありません」
「あと、男の子の家の方が面白そうだし」
と、正論と圧力の強い戯言を突き付けられ、反論の意思はもみ消された。
「分かったけどさぁ……」
レベッカとシェリーさんの整った顔をチラチラと見る。
1人でも大変だろうに、こんな美女が2人も家に居たら気が狂ってしまいそうだ。
「まあとにかく、家事はちゃんとしろよ。俺に押し付けんなよ」
少し冷たくそう言って、ソファを立ち上がり、リビングを出て行った。
寝室に戻ると、扉を背もたれにして座り込んだ。
「大丈夫かな……ちょっと強く言い過ぎたかな」
本心ではないが、さっきのは言い方があまり良くなかった。嫌われたらどうしようと、頭を悩ます。
それに、こんな簡単に受け入れてよかったのかと、今になって後悔し始めた。
雄1匹と雌2匹がひとつ屋根の下で共同生活をこれから行うのだ。絶対、刺激的なトラブルが発生するだろう。特に今の状態だと。
「はあ、まあ嬉しいといえば嬉しいけどさ……こんなハーレムみたいな状況で上手くやっていける自信がないよ」
哀れで情けない呟きをぽつりと、静かに漏らす。
一時的な共同生活とはいっても不安だ。
そんな悩みを打ち壊すかのように、扉の向こうからドタバタと足音が響いた。
「セルゲイ君! こっち来て!」
この声は、シェリーさんか。慌ててどうしたのだろう。
「何だ? 今は1人に……」
「火が出たのよ!」
「え!?」
火災は無視できない。急いで部屋を飛び出した。
眼前には水が入ったバケツを抱えるシェリーさんが居た。
「火はどこだ!」
「こっちよ!」
火の出元へ急いで向かう。
走っていると煙の嫌な感じの臭いが次第に強くなっていった。
辿り着いた場所は、調理を行う台所だ。白煙がリビングに流れている。
そこらにあった適当な布で口元を覆うと、台所に入って行った。中にはレベッカがおり、火が噴き出るフライパンにコップで汲み取った水を何度も掛けていた。
「レベッカ! どいて!」
シェリーさんが彼女を押し退けると、コップの水とは比較にならないバケツに溜まった大容量の水をフライパンに全て注いだ。
噴き出ていた火は徐々に勢いが弱まっていき、ついに完全に鎮火する事に成功した。
「何やってたんだ……」
火が収まったフライパンに近寄る。まだ煙が残っているが気にしない。
「すみません……」
弱々しい声で謝るレベッカに、
「まあ怪我がないだけいい方だろ」
敢えてポジティブな言葉を投げ掛けた。
フライパンの中身を覗くと、真っ黒になった野菜ともはや何の動物だったのか判別不可能な肉が燃え尽きていた。
「ああ、俺の食い物が……」
せっかく調達した食料がゴミ同然の姿へと変わってしまい、気分が沈む。
彼女らの方へ振り向くと、何で火事が起きたのか問い掛けた。
「えっと、家事をやろうと思っていまして……」
「う、うん……ご、ごめんなさいね?」
反省の言葉を吐く2人にこう語り掛ける。
「いや、謝らなくていいよ。家事をやれって言ったのは俺の方だ。むしろ、ちゃんと教えてなくて悪かった」
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