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一章 異世界漂着
58話 東欧の狂犬マリウポリ
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涼しい風が吹き流れ込んでくる静かな森を、オッサン2人で移動。
「そういえば、名前は何なんですか?」
「アンドリー・イリイチ・フルシチョフ、マリウポリの小隊長さ」
マリウポリ大隊、か。
この部隊は2014年のウクライナで、ロシアに対抗するために創設された民兵組織だ。当初はネオナチ思想のテロ集団として各国から警戒されていたが、現在は正規軍に編入され、警察も過激思想を持つメンバーを取り締まった事により、昔と比べてかなり丸くなっている。ただし、今でも黒い噂が囁かれているのは事実だ。
腕やら背中やら太ももやらにハーケンクロイツのタトゥーが刻まれていれば、彼もネオナチの一員だろう。
恐ろしい事にマリウポリ大隊を英雄扱いしている人達も居るが、悪行を知っている自分からすると賛美できたものではない。
まあ、ホロドモールという大事件をウクライナ人は経験させられているので、ナチスを神格化する気持ちも少しは分かってしまう。
民族問題は本当に難しい存在だ。
「そっちの名前は?」
「セルゲイ・イヴァ―ノヴィチ・ベレンコです。貴方と同じスラブの人間です」
「セルゲイか。そんな名前の奴は俺の部隊にもいっぱい居たよ」
俺の名前はスラブ圏ではありふれたものだ。
アンドリーさんは見た目こそ凶悪だが中身は非常に明るい人物で、会話が自然と弾んでいった。
故郷や転移の雑談で盛り上がっていると、木々の隙間から村のような地域が見えてきた。
それを発見するとアンドリーさんは柔らかな表情を一転させ、真剣な顔つきに変えた。双眼鏡を腰元の茶色いバッグから取り出し、偵察を行っている。
「目的地はここだな……」
村の隅々を見渡しながら低い呟きを漏らす。
偵察に満足したのか、双眼鏡を戻してこっちを振り返った。
「いいかセルゲイ、気を付けるんだぞ。恐らく、あの村人全員がゲリラだ」
「ま、マジで言ってるんですか?」
「ああ、まず体格が農民のそれじゃねえし、刃物も携帯してるぞ」
彼に村を見てみろと促され、少しフレームが錆付いた双眼鏡を受け取った。
確かにアンドリーさんの言っている事は正解で、村人全員が只者ではないオーラを纏っていた。それこそ、ラマスの戦闘員みたいだ。
人以外だと、建造物の構造も特殊だ。
建ち並ぶ家屋にはどれも鉄格子が付いており、扉も何故か頑丈そうな鋼だ。さらには村の周りを塹壕らしき堀がぐるっと囲っている。
これではまるで、ただの要塞だ。いくら部外者を警戒しているとはいえ、ここまでの設備は普通築かないだろう。
それにしても、村の人間全てがゲリラ兵だとは驚きだ。
こんな鉄壁の集落を壊滅させられる自信が全く湧き出てこない。むしろ、ネガティブな思考が根付いて、失敗した時の対処法しか考えられなくなった。
村の人口は100人を余裕で越えているが、対する自分達はたったの2人。どうやって村を破滅させるのか、見当も付かない。
アンドリーさんが固まる自分から双眼鏡をそっと取り返すと、こう語り掛けてきた。
「俺を信じろ。今回も、その次も、絶対に成功するんだ」
双眼鏡を元あった場所に戻しながら勇気づけてくれる彼の表情は、ウクライナの戦士そのものであった。
「そういえば、名前は何なんですか?」
「アンドリー・イリイチ・フルシチョフ、マリウポリの小隊長さ」
マリウポリ大隊、か。
この部隊は2014年のウクライナで、ロシアに対抗するために創設された民兵組織だ。当初はネオナチ思想のテロ集団として各国から警戒されていたが、現在は正規軍に編入され、警察も過激思想を持つメンバーを取り締まった事により、昔と比べてかなり丸くなっている。ただし、今でも黒い噂が囁かれているのは事実だ。
腕やら背中やら太ももやらにハーケンクロイツのタトゥーが刻まれていれば、彼もネオナチの一員だろう。
恐ろしい事にマリウポリ大隊を英雄扱いしている人達も居るが、悪行を知っている自分からすると賛美できたものではない。
まあ、ホロドモールという大事件をウクライナ人は経験させられているので、ナチスを神格化する気持ちも少しは分かってしまう。
民族問題は本当に難しい存在だ。
「そっちの名前は?」
「セルゲイ・イヴァ―ノヴィチ・ベレンコです。貴方と同じスラブの人間です」
「セルゲイか。そんな名前の奴は俺の部隊にもいっぱい居たよ」
俺の名前はスラブ圏ではありふれたものだ。
アンドリーさんは見た目こそ凶悪だが中身は非常に明るい人物で、会話が自然と弾んでいった。
故郷や転移の雑談で盛り上がっていると、木々の隙間から村のような地域が見えてきた。
それを発見するとアンドリーさんは柔らかな表情を一転させ、真剣な顔つきに変えた。双眼鏡を腰元の茶色いバッグから取り出し、偵察を行っている。
「目的地はここだな……」
村の隅々を見渡しながら低い呟きを漏らす。
偵察に満足したのか、双眼鏡を戻してこっちを振り返った。
「いいかセルゲイ、気を付けるんだぞ。恐らく、あの村人全員がゲリラだ」
「ま、マジで言ってるんですか?」
「ああ、まず体格が農民のそれじゃねえし、刃物も携帯してるぞ」
彼に村を見てみろと促され、少しフレームが錆付いた双眼鏡を受け取った。
確かにアンドリーさんの言っている事は正解で、村人全員が只者ではないオーラを纏っていた。それこそ、ラマスの戦闘員みたいだ。
人以外だと、建造物の構造も特殊だ。
建ち並ぶ家屋にはどれも鉄格子が付いており、扉も何故か頑丈そうな鋼だ。さらには村の周りを塹壕らしき堀がぐるっと囲っている。
これではまるで、ただの要塞だ。いくら部外者を警戒しているとはいえ、ここまでの設備は普通築かないだろう。
それにしても、村の人間全てがゲリラ兵だとは驚きだ。
こんな鉄壁の集落を壊滅させられる自信が全く湧き出てこない。むしろ、ネガティブな思考が根付いて、失敗した時の対処法しか考えられなくなった。
村の人口は100人を余裕で越えているが、対する自分達はたったの2人。どうやって村を破滅させるのか、見当も付かない。
アンドリーさんが固まる自分から双眼鏡をそっと取り返すと、こう語り掛けてきた。
「俺を信じろ。今回も、その次も、絶対に成功するんだ」
双眼鏡を元あった場所に戻しながら勇気づけてくれる彼の表情は、ウクライナの戦士そのものであった。
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