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二章 異世界ライフ

96話 お宝いっぱい

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 念のために拳銃をホルスターから抜くと、左手にライト、右手にハンドガンというスタイルで謎の石室へ進み始めた。

 「あ、待ってください! ……もう、セルゲイ君ったら」

 レベッカは愚痴をこぼしながらも、慌てて俺を追い掛ける。

 「気を付けて進めよ」

 ライトで階段を照らしているとはいえ、まだまだ闇は続いている。それにここは古代の遺跡だ。ライトアップしたとしても、遺跡崩壊の可能性や過去に設置された罠など、危険は山ほどある。

 「うん?」

 慎重に前進していると、不意に背中に何かが絡まった。絡み付いたというよりかは、抱きつかれたに近いかも……。
 怖くなったので動くのを一度やめると、お腹に白くて細い手が回されていた。言うまでもなくこの手は、レベッカだ。
 そして、背中には2つの肉塊がぶつかり、俺は少し狼狽えた。

 「な、何だよ、どうしたんだよ」

 声を震わせる。その間にも、抱きしめられる力は強くなり、当然例の塊が当たる面積も多くなっていく。
 どんな反応を取ればいいんだと困惑していると、彼女が穏やかに優しく笑った。

 「ふふっ、いきなりすみません。でも、何だか暗くて怖くなって……とにかく、これが落ち着くんです」

 さらに、力を込められる。向こうの体温がこっちの体の芯まで伝わってくる。
 ただ、嫌ではなく……むしろ、俺も落ち着くような気がする。下心からなのか、それとも本心からなのかは分からないが。
 幾分かの時間を消耗して、ようやく抱擁から解放。これで探索の続きを始められる。
 背中に微かに残るあの塊の感触を忘れようとしながら、下へ移動する。
 コツコツ、という足音が石畳の階段に響き渡る。

 「驚きましたか?」
 「分かってる事聞くなよ……」

 これ、絶対にからかってるだろ……こうなったら、俺も彼女を一泡吹かせてやりたいところだ。
 それにしても最近のレベッカは知り合った頃と比べて性格もだいぶ丸くなったし、感情も豊かになったように感じる。
 すると、階段ではなく平坦な所に足がついた。どうやら石室に到着したようだ。それ程距離はなかったが、辿り着くまでにとても長い時間を味わった気がする。
 ライトで辺りを照らしてみると、木製の棺が2個並べられている。

 「棺桶か……」

 映画だと、墓地から死者がゾンビとなって蘇り、人々を襲う展開がよく見られるが――――流石にそういった事はないと信じたい。が、ここは現実の常識とは遠くかけ離れた異世界なので、恐ろしいがその可能性は割とあるのだ。

 「レベッカ、開けてみる?」

 ここに来て、少しの恐怖を感じ始めた。もはや探検どころではない。

 「不気味ですが……ここまで来ましたし」
 「それもそうか。じゃ、片方を開けてくれ」
 「はい、お任せください」

 俺は右の棺、彼女は左の棺にそれぞれ展開する。

 「じゃ、開けるぞ……!」
 「了解しました……!」

 息を合わせ、覚悟を決めると、棺の重たい蓋を退けさせた。
 ――――ミイラとなった悍ましい死体が眠っており、何の弾みかそれは突如として起き上がり……といったお決まりの展開は起こらなかったが、ある意味凄いものが棺桶に潜んでいた。
 金、銀、銅が活発に輝く。
 指輪や王冠、青に煌めく宝石が飾り付けられた奇妙なデザインのグラスなど、高貴な代物の数々が隠されていたのだ。

 「これはまた凄いのを見つけたな……」

 やすりがけが何度もなされた銅製の斧を片手に呟く。

 「こっちにも沢山……!」

 レベッカが開けた棺からも中身の輝きが溢れ出す。まるで夜空を駆け抜ける流星群を眺めているようだ。
 財宝がこんなにもあれば働かなくても一生を遊んで暮らせるだろう。
 それを思い付いた俺は早速秘められた宝物をごっそり盗もうと――――あれれ、腕が何か重いと感じたら、レベッカが俺の手首を掴んでいた。

 「セルゲイ君、盗みはダメですよ?」

 かつてない真剣な顔で忠告される。反論しない方がよさそうだ。

 「そうだな……でもやっぱり」

 突然バランスを崩してしまい前のめりになると、その勢いのまま棺を横転させ、中身の宝物が全てひっくり返った。

 「うわぁ、しまった……」

 悪意はないとはいえ何とも罰当たりな行為だ。
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