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二章 異世界ライフ
99話 湖みっけ
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葉が生い茂る森林を男1人、女2人で歩く。先頭に立つのは実戦経験豊富で頭脳も優れるアヴァカンだ。
彼女は地図片手に移動しており、時折止まっては居場所を確認する仕草を見せている。
背筋は常にピンと伸びていて、誇り高い軍人の信念を感じられる。表情もさっきまでの柔軟なものとは違い、凛とした顔だ。
「アヴァカン、あとどれくらいだ?」
「まだ、4キロはあるね。疲れたし、ちょっとこの辺りで休憩しようか」
バイクがあれば数時間で到着するだろうが、生憎徒歩だ。まだまだかかる。
休息を取るため森の開いた場所に向かう。都合よく倒木があったので、俺達は荷物を降ろし座り込んだ。
ハンカチで汗を拭う。シャワーを浴びたい気分だが、今は辛抱しなければいけない。
「そういえばアヴァカンは何でギルドなんかに?」
「有給取ったんだけど、やる事ないし暇だったから来たの」
「なるほどなぁ、そういう事か」
有給があるとは、国防軍はホワイトな組織だな。
「にしても止まってると暑いわ……ちょっと私は散歩に行って来るね」
アヴァカンは使い込まれたタオルで額の汗水を拭き取ると、ライフルを持って深い森へと歩いて行った。
この空間に、俺とレベッカが取り残される。
2人きりで過ごすのにはだいぶ慣れたが、喋る話題がないと何だか心が上下に揺れる。
「……」
「……」
互いに沈黙を貫き通す時間が、刻々と流れる。
顔も見ず、ただ地面を見ている。
何も話さず過ごすのも退屈だと思い、ダンジョンの話題を切り出してみた。
「ダンジョン、どんな所なんだろうな」
「さあ……噂によれば、初代皇帝の財宝があったり恐ろしい魔物やらゴーレムやらが住みついているそうですが」
真偽は定かでないが、危険が潜んでいるのは否定できぬ事実だ。
ギルドに居る時は気分が高揚していたのに今ではすっかり萎えている始末。調子に乗りすぎたかなと後悔していると、アヴァカンの溌剌な声が響き渡った。
「あっちに小さいけど湖あるよー!」
声の出処を見てみれば、少し離れた場所に何故か泥だらけの姿で立ち尽くす彼女の姿がある。
倒木から立ち上がってそこへ向かうと、まずは事情を聞いた。
「何でそんな汚れてるんだ?」
その問い掛けに、アヴァカンは舌を半分出して柔らかな笑みで、
「ちゃんと地面見てなくて、沼にこけちゃったの」
と、どこか照れくさそうに答えた。
かなり前の出来事だが、帝都へ向かう途中にレベッカと森で野営した時もこんな事があったよな。あれも現在では懐かしい思い出の一つだ。
「ま、それは置いといて、湖の方に行こうよ!」
寂れた倒木に座りこちらを眺めるレベッカに手招きをするアヴァカン。それに応えて、腰を上げると彼女もこちらにやって来た。
レベッカが泥濘に包まれたアヴァカンの前に立つ。
「湖とやらはどこにあるのでしょうか?」
「そうだな、こんな森にあるとは到底思えない」
2人揃って湖の存在の確証性を訊く。
「もう、そんなに疑わないで――――ほら、こっちに着いて来て!」
「あ、おい……」
呼び止めようと試みたが、声を掛ける前に彼女は軽い足取りで鬱蒼とした森の中へ突き進んでいき、俺達もアヴァカンの後を追った。
遠くを走る彼女の背中を目印に追っていると、さっき休憩を取っていたような場所に近い地形へと抜け出た。だが大きく違う箇所といえば――――アヴァカンの言葉通り、湖が堂々と広がっている点だ。
湖の面積はそれ程広くないが、張り巡らされる水は濁りが一つもなく、中で泳ぐ魚達が地上からはっきりと拝めるぐらい清潔である。
森の力強さと湖の纏う優雅さが融合し合い、この空間はまるで神殿そのものだ。
「へえ、すっごいなぁ」
湖の方に近付くと跪き、水に両手首を突っ込んだ。
貰う感覚は、冷たい。
「暑かったからこれは丁度ありがたいなぁ」
喉が渇いているので手で水を掬い口に運ぼうとした時――――手首にアヴァカンの繊細な手が這っていた。
「セル坊、駄目じゃない、水をそのまま飲んだら」
「あ、それもそうか……」
外見がどんなに綺麗でも、中身には夥しい数の寄生虫が潜んでいる。それを濾過せずに飲むなど、もはや禁忌というべき行為だ。
彼女は地図片手に移動しており、時折止まっては居場所を確認する仕草を見せている。
背筋は常にピンと伸びていて、誇り高い軍人の信念を感じられる。表情もさっきまでの柔軟なものとは違い、凛とした顔だ。
「アヴァカン、あとどれくらいだ?」
「まだ、4キロはあるね。疲れたし、ちょっとこの辺りで休憩しようか」
バイクがあれば数時間で到着するだろうが、生憎徒歩だ。まだまだかかる。
休息を取るため森の開いた場所に向かう。都合よく倒木があったので、俺達は荷物を降ろし座り込んだ。
ハンカチで汗を拭う。シャワーを浴びたい気分だが、今は辛抱しなければいけない。
「そういえばアヴァカンは何でギルドなんかに?」
「有給取ったんだけど、やる事ないし暇だったから来たの」
「なるほどなぁ、そういう事か」
有給があるとは、国防軍はホワイトな組織だな。
「にしても止まってると暑いわ……ちょっと私は散歩に行って来るね」
アヴァカンは使い込まれたタオルで額の汗水を拭き取ると、ライフルを持って深い森へと歩いて行った。
この空間に、俺とレベッカが取り残される。
2人きりで過ごすのにはだいぶ慣れたが、喋る話題がないと何だか心が上下に揺れる。
「……」
「……」
互いに沈黙を貫き通す時間が、刻々と流れる。
顔も見ず、ただ地面を見ている。
何も話さず過ごすのも退屈だと思い、ダンジョンの話題を切り出してみた。
「ダンジョン、どんな所なんだろうな」
「さあ……噂によれば、初代皇帝の財宝があったり恐ろしい魔物やらゴーレムやらが住みついているそうですが」
真偽は定かでないが、危険が潜んでいるのは否定できぬ事実だ。
ギルドに居る時は気分が高揚していたのに今ではすっかり萎えている始末。調子に乗りすぎたかなと後悔していると、アヴァカンの溌剌な声が響き渡った。
「あっちに小さいけど湖あるよー!」
声の出処を見てみれば、少し離れた場所に何故か泥だらけの姿で立ち尽くす彼女の姿がある。
倒木から立ち上がってそこへ向かうと、まずは事情を聞いた。
「何でそんな汚れてるんだ?」
その問い掛けに、アヴァカンは舌を半分出して柔らかな笑みで、
「ちゃんと地面見てなくて、沼にこけちゃったの」
と、どこか照れくさそうに答えた。
かなり前の出来事だが、帝都へ向かう途中にレベッカと森で野営した時もこんな事があったよな。あれも現在では懐かしい思い出の一つだ。
「ま、それは置いといて、湖の方に行こうよ!」
寂れた倒木に座りこちらを眺めるレベッカに手招きをするアヴァカン。それに応えて、腰を上げると彼女もこちらにやって来た。
レベッカが泥濘に包まれたアヴァカンの前に立つ。
「湖とやらはどこにあるのでしょうか?」
「そうだな、こんな森にあるとは到底思えない」
2人揃って湖の存在の確証性を訊く。
「もう、そんなに疑わないで――――ほら、こっちに着いて来て!」
「あ、おい……」
呼び止めようと試みたが、声を掛ける前に彼女は軽い足取りで鬱蒼とした森の中へ突き進んでいき、俺達もアヴァカンの後を追った。
遠くを走る彼女の背中を目印に追っていると、さっき休憩を取っていたような場所に近い地形へと抜け出た。だが大きく違う箇所といえば――――アヴァカンの言葉通り、湖が堂々と広がっている点だ。
湖の面積はそれ程広くないが、張り巡らされる水は濁りが一つもなく、中で泳ぐ魚達が地上からはっきりと拝めるぐらい清潔である。
森の力強さと湖の纏う優雅さが融合し合い、この空間はまるで神殿そのものだ。
「へえ、すっごいなぁ」
湖の方に近付くと跪き、水に両手首を突っ込んだ。
貰う感覚は、冷たい。
「暑かったからこれは丁度ありがたいなぁ」
喉が渇いているので手で水を掬い口に運ぼうとした時――――手首にアヴァカンの繊細な手が這っていた。
「セル坊、駄目じゃない、水をそのまま飲んだら」
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