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三章 異世界verの中東戦争

154話 銀行襲撃作戦

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 シリア民主連邦の実質的な首都『ダマスカス市民街』に点在する商店街で、俺は夕飯の買い出しに来ていた。前回の暗殺未遂を反省し、今回はある程度の変装をしている。

 「これだけありゃ十分か」

 約三日分の食料を買い込んだ。当分食べ物には困らないだろう。
 また暗殺者に命を狙われるのはごめんなのでさっさと家へ戻ろうと歩いていると、何者かに肩を掴まれ薄暗い路地裏に連れ込まれた。
 まさか諜報部の工作員に拉致されたのか!? と思ったが……

 「よおセルゲイ」

 俺を引き寄せたのはハーフィズだった。バラクラバで顔を隠しているので誰か分からず、本当に焦った。未だに心臓の鼓動が収まらない。

 「何だよ、お前かよ……」
 「へっへっへ、驚いたか? ま、ただの冗談だよ」

 ドッキリは別に法律で禁止されている訳ではないが、世の中やっていいドッキリとやってはいけないドッキリがあると思う。

 「まあ敵じゃなくてよかったよ……それで用件は何だい?」

 路地の壁に凭れる。ひんやりとした感覚が背中に貼り付き心地よい。

 「銀行強盗さ」

 彼はバラクラバを脱衣しながら答えた。

 「強盗って……何でそんな事やるんだよ? 金が欲しいのか?」
 「金……確かにそれもあるが」

 ハーフィズは胸元のポケットから一枚の写真を出す。スーツやドレスを着た人相が悪い連中が数十人写っている。

 「その銀行はただの銀行じゃなくてな、この極悪貴族共が運営してるんだ」 

 貴族の集合写真をビリビリに破り捨てた。

 「そんなに恨んでるのか?」

 地面に舞い落ちる写真の破片を見ながら問う。

 「ああ、この貴族は脱税を繰り返している上、貧しい市民から金を搾取して、その金をこの肥溜めみてぇな銀行に隠してやがんだ」
 「それは許せないなハーフィズ――――それにしてもお前、結構優しい奴なんだな」
 「優しいっていうか……俺、影響力が強い人間が下っ端の人間を虐げるのが大嫌いなんだ」
 彼は遠い記憶を思い出すような表情で冷静に答える。
 「セルゲイ、俺の昔話をちょっと聞いてくれるか?」
 「おう、暇だしいいぞ」

 ハーフィズはいつもの活発な顔つきから少し暗い表情に切り替わった。
 そして、回想の物語が始まる。

 「俺は元々、レバノンで住んでて、ジャミーレとは一緒の小学校に通ってた。でもレバノン内戦の影響で俺はイエメンに移民として移り、そこでアイツとはしばらく間疎遠になった。あと、親も家族も死んださ」

 戦災孤児だったのか。

 「で、そこまではいい――――許せないのが……」

 彼の声が一気に震え出し、その表情が憤慨に染まる。

 「一番得をしたのは政治家だけで、損をしたのは国民だけって事なんだ」

 政府からすれば、戦争などただのアルバイトに過ぎないだろう。実際、ボスホートルーシの官僚達は国民に見向きをせず、保身と金儲けしか頭になかった。

 「……ごめんよセルゲイ、つまらなかったな」
 「いーや、そんな事ないよ。お前の気持ちは理解できるし」
 「本当に?」
 「ああ、俺の国の連中だってそんなのが大半さ。政治家ってのは所詮はパフォーマンスが上手なだけさ」
 「それは言えてるな」

 元気を取り戻したのか、ハーフィズの顔に再び笑みが宿った。
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