GOD DOG

針ノ木みのる

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地獄よりの使者

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金属がこすれる音と共に、突然、壁から現れたガスマスクをつけた男。――どこの軍人? 見たことのない服だった。

「お前がリグナムか?」

誰のこと? いや、待って。そんなことよりバルサ!

バルサは地面に倒れていて、返事がない。
血が止まってない。
服の下が真っ赤に染まって、息も浅い。

「バルサっ、ねぇ、バルサ……!」
手を握っても、握り返してこない。
体が冷たくなってくる気がして、怖かった。

「まさかジョーちゃんがリグナムってわけじゃないよね?」

ガスマスクの男が、こっちを見た。
なにそれ? ジョーちゃん? 誰?
今そんな冗談言ってる場合じゃないでしょ!?

私は首をぶんぶん横に振った。
「違う! バルを助けて!!」

男は一瞬ぽかんとしたあと、
「げっ」と変な声を出して、頭を抱えた。

「聞け俺。今作戦は今後を左右する……だが、可愛い少女が助けを求めている。無視できるか? いや、できるわけ――いや待て、落ち着け俺。」

何言ってんのこの人!? 自分と喧嘩してる!?

頭の中でツッコミを入れている間に、
「死ねッ!」って怒鳴り声が響いた。

振り向くと、慈道律院官の女が槍を構えていて、
そのまま男に向かって投げた。

空気が裂ける音。
あっという間だった。
でも、男は首をちょっと傾けて避けた。
ギリギリで。
ただ、その刃がマスクをかすめた。
マスクが“カラン”って音を立てて床に転がる。

現れた顔は――
ちょっと汚れてて、髭も伸びてて、
正直言って“かっこいい”って感じじゃなかった。
でも、不思議とその瞬間に思った。

……あ、この人、味方だ。

慈道律院官の女が顔をしかめた。
「貴様……! 第八部隊の悪魔だなッ!」

男は口の端をゆがめて笑った。
「あー、悪魔? そいつは光栄だ。地上の地獄じゃ、あんたの美貌が話題なんだぜ。……眼鏡姫。」

な、なにそれ!? いきなり口説いた!?
この状況で!? 死ぬほど場違い!!

でも……正直、ちょっと笑いそうになった。
怖いのに、なんか変な人すぎて。

次の瞬間、“ドンッ”って音がして、
床が波打つみたいに動いた。
男が持った女の槍がズブズブって地面に沈んでいく。

「貴様!!」

男は軽く笑って、
「狭い部屋で長い槍振り回すなって、地下戦の基本だろ? ……習わなかったのか? 眼鏡姫。」

焦った女が、兵士の短剣を奪って構える。
「くそ! お前たち! リグナム殿下を守れ! 剣を構えろ!」

男は拾ったマスクを慌てて顔につけた。
「おっと、マスクマスク。」
言いながら、壁に手を当てて指でトントンと何かを叩く。

その音のあと、壁がブワッと震えた。
何かの装置が動き出す音。
次の瞬間――
壁中から筒みたいなのが飛び出して、白い煙が噴き出した。

「う……なに、これ……」

鼻がツンとして、目が痛くて、頭がぼーっとする。
「催眠……ガスか……」
女がそう呟いた声が、遠くで聞こえた。

私の体が、どんどん重くなる。
膝が抜けて、倒れそうになった時――
壁の中から、人が出てきた。

灰色のマスク。灰色の服。
たくさんの人たちが、地面から生まれたみたいに生えてくる。

一番前の男――さっきの人が、こっちを見た。
そして、マスク越しに軽く手を上げた。

「大丈夫だ、おジョーちゃん。ここよりはマシな場所に連れてってやる。」

その声を最後に、
視界が真っ白にかすんで、
私は眠るみたいに意識を失った。

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