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息をしない者
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白い煙が充満した部屋に、黒い装甲服の兵士たちが次々と現れた。
催眠の霧が足元を這い、視界を奪う。中に立つ者はほとんど咳き込み、徐々に倒れて行く。
そんな中、フルフェイスの男が一歩前へ出た。
金属の面の向こうから、くぐもった声が響く。
「ドロト隊長。この子たちは一体どうしたんです?」
その問いに、ドロトは肩をすくめ、煙を手で払った。
「助けを求められた。生贄か、儀式の残りか……まあ、見りゃ分かるだろ。重傷の坊主は止血して救出だ。」
軽口とは裏腹に、その視線は鋭い。
フルフェイスの男が唸るように答えた。
「ですが、上からは“カレンデュラ軍の人間は即排除”と命令されています。軍曹には何と報告を?」
「んー、そうだな……まずは“星”の判断ってやつだ。」
ドロトは指でミズメを指した。
「その子の口を開けて見てみろ。」
フルフェイスがうなずき、恐る恐る意識を失っているミズメの口を開く。
白い息が漏れ、口腔の奥をライトが照らした。
「……あれ? 星付きじゃない。」
ドロトはニヤリと笑う。
「だろ? 寺院にいながら“星”がない。つまり“捨て駒”でも“爆弾”でもない。生きた情報源ってわけだ。」
フルフェイスは無言で頷き、バルサの腹に止血剤を撃ち込んだ。
だがその瞬間――
「どけぇッ!!」
怒号が響いた。
煙の向こうから、DOGのリンデンが飛び出してくる。
口元を布で覆い、涙を流しながらもナイフを構え、体を引きずるようにして突進した。
「リグナム様をお守りしろォ!!」
彼の声は震え、息は荒い。それでも倒れない。
ドロトは軽く手を上げ、部下を制止した。
「撃つな。弾を撃つと音で増援が来る。」
その一言に、兵たちは銃口を下げた。
煙の向こうで、リンデンは喉を焼かれながらもなお叫び続けている。
「逃げてください……殿下……!」
その傍ら――
白髪の少年、リグナムはまるで別の空間にいるように、静かに立っていた。
催眠ガスの中、マスクもせず、咳一つしない。
その姿に、フルフェイスの男が小さく息を呑む。
「嘘だろ……この濃度の中で平然と……?」
ドロトが横目で見て、薄く笑う。
「だから“神の血”なんて呼ばれるんだろうな。間違いない。あいつが標的だ。」
リンデンは震える声で叫んだ。
「掛かってこいッ! 殺すぞぉ!」
ドロトが言葉を返すより早く、リグナムが動いた。
彼はリンデンに近づき、無造作に手刀を振る。
乾いた音が響き、リンデンの体が崩れ落ちる。
「いちいち騒ぐな。ヒヨッコが。」
静かな声。その響きが、逆に部屋を凍りつかせた。
連合軍の兵士たちは、一瞬だけ引き金に指をかけたが――ドロトの手の合図で止まった。
「さて、連合軍の諸君。」
リグナムの声が響く。
「世の命が欲しいのだろう? 来るがいい。どうせ近いうちに、誰かが奪う。」
静寂。
フルフェイスの男が小声で呟く。
「……自爆、しますかね?」
ドロトは苦笑いした。
「皇帝のボンボンに自爆スイッチなんか付けるかよ。そんな教育してたらカレンデュラはもう滅んでるぜ。」
「確かに。」
ドロトは煙の中で顎を上げ、軽く手を振った。
「よーし、拘束しろ。殺すなよ? まず口を開かせて確認。それから気絶させろ。順番間違えるなよ、テストに出るぞ。」
リグナムは目を細め、淡く笑った。
「いいのか? 敵のボスが目の前にいるのだぞ?」
ドロトは口の端を上げる。
「あんたを殺しても、カレンデュラ教は終わらない。なーに、“旧聖書”。そのありかを教えてもらえりゃ充分さ。」
リグナムは鼻で笑い、ゆっくりとうなずいた。
「なるほど、取引成立だな。」
ドロトが部下に合図を送る。
兵たちは迅速にリグナムを拘束する。
ドロトはミズメとバルサを担ぎ上げた。
「急げ。増援が来る前に離脱だ。」
白い霧の中、ドロトは最後にひとことだけ呟いた。
「これでカレンデュラ教はジ・エンドだぜ。」
催眠の霧が足元を這い、視界を奪う。中に立つ者はほとんど咳き込み、徐々に倒れて行く。
そんな中、フルフェイスの男が一歩前へ出た。
金属の面の向こうから、くぐもった声が響く。
「ドロト隊長。この子たちは一体どうしたんです?」
その問いに、ドロトは肩をすくめ、煙を手で払った。
「助けを求められた。生贄か、儀式の残りか……まあ、見りゃ分かるだろ。重傷の坊主は止血して救出だ。」
軽口とは裏腹に、その視線は鋭い。
フルフェイスの男が唸るように答えた。
「ですが、上からは“カレンデュラ軍の人間は即排除”と命令されています。軍曹には何と報告を?」
「んー、そうだな……まずは“星”の判断ってやつだ。」
ドロトは指でミズメを指した。
「その子の口を開けて見てみろ。」
フルフェイスがうなずき、恐る恐る意識を失っているミズメの口を開く。
白い息が漏れ、口腔の奥をライトが照らした。
「……あれ? 星付きじゃない。」
ドロトはニヤリと笑う。
「だろ? 寺院にいながら“星”がない。つまり“捨て駒”でも“爆弾”でもない。生きた情報源ってわけだ。」
フルフェイスは無言で頷き、バルサの腹に止血剤を撃ち込んだ。
だがその瞬間――
「どけぇッ!!」
怒号が響いた。
煙の向こうから、DOGのリンデンが飛び出してくる。
口元を布で覆い、涙を流しながらもナイフを構え、体を引きずるようにして突進した。
「リグナム様をお守りしろォ!!」
彼の声は震え、息は荒い。それでも倒れない。
ドロトは軽く手を上げ、部下を制止した。
「撃つな。弾を撃つと音で増援が来る。」
その一言に、兵たちは銃口を下げた。
煙の向こうで、リンデンは喉を焼かれながらもなお叫び続けている。
「逃げてください……殿下……!」
その傍ら――
白髪の少年、リグナムはまるで別の空間にいるように、静かに立っていた。
催眠ガスの中、マスクもせず、咳一つしない。
その姿に、フルフェイスの男が小さく息を呑む。
「嘘だろ……この濃度の中で平然と……?」
ドロトが横目で見て、薄く笑う。
「だから“神の血”なんて呼ばれるんだろうな。間違いない。あいつが標的だ。」
リンデンは震える声で叫んだ。
「掛かってこいッ! 殺すぞぉ!」
ドロトが言葉を返すより早く、リグナムが動いた。
彼はリンデンに近づき、無造作に手刀を振る。
乾いた音が響き、リンデンの体が崩れ落ちる。
「いちいち騒ぐな。ヒヨッコが。」
静かな声。その響きが、逆に部屋を凍りつかせた。
連合軍の兵士たちは、一瞬だけ引き金に指をかけたが――ドロトの手の合図で止まった。
「さて、連合軍の諸君。」
リグナムの声が響く。
「世の命が欲しいのだろう? 来るがいい。どうせ近いうちに、誰かが奪う。」
静寂。
フルフェイスの男が小声で呟く。
「……自爆、しますかね?」
ドロトは苦笑いした。
「皇帝のボンボンに自爆スイッチなんか付けるかよ。そんな教育してたらカレンデュラはもう滅んでるぜ。」
「確かに。」
ドロトは煙の中で顎を上げ、軽く手を振った。
「よーし、拘束しろ。殺すなよ? まず口を開かせて確認。それから気絶させろ。順番間違えるなよ、テストに出るぞ。」
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「いいのか? 敵のボスが目の前にいるのだぞ?」
ドロトは口の端を上げる。
「あんたを殺しても、カレンデュラ教は終わらない。なーに、“旧聖書”。そのありかを教えてもらえりゃ充分さ。」
リグナムは鼻で笑い、ゆっくりとうなずいた。
「なるほど、取引成立だな。」
ドロトが部下に合図を送る。
兵たちは迅速にリグナムを拘束する。
ドロトはミズメとバルサを担ぎ上げた。
「急げ。増援が来る前に離脱だ。」
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