(完結)その『悪役令嬢』は幸せを恋い願う

玉響なつめ

文字の大きさ
38 / 56

第37話 国王陛下の思惑

しおりを挟む
「お前は同世代で考えれば教師たちから褒められることも多く、殿下からすれば賢く振る舞う第二妃を彷彿とさせたのだろうな。王妃が彼女を嫌っていることは有名だ、隠しもしない」

「それでも成り立つのですか」

「成り立つさ。彼女たちの意見は、それこそ陛下の意見も必要ない。陛下たちの婚姻と出産、それらはこの国のために貴族たちが望み、そしてそれを『国が』認めたものなのだからね」

「……」
 
「陛下と王妃、そして第二妃。この三人は正しく政略結婚で結ばれた夫婦であり、そこに情はあれども愛はない。政略結婚であろうと愛は芽生えることもあるが……あの三人にあるのは、それぞれの思惑だな」

「思惑」

 私は繰り返すしかできませんでした。
 貴族の令嬢として、公爵家の人間として、結婚も仕事の一つであると私自身、これまで学んできておりますが……それでも、私の両親はそこに愛を見出したのです。
 私もそれを知っていたからこそ、殿下との間に……と夢を見ていた時期もありました。

(まさか嫌われていた理由がそんなだったなんて!)

 しかし確かに王妃様と第二妃様の不仲は有名な話だ。
 だからといって、私が王妃様から嫌がらせをされたことはなかったけれど……本心ではどうだったのか、今なってはわからない。

 少なくとも〝ワーデンシュタイン公爵家〟の娘であった私には、王妃様にとって価値があった。
 でもアベリアン殿下からすれば、最初から与えられていた装飾品の一つのような価値でしかなかったのかもしれない。

「長子優遇ゆえに、アベリアン殿下に対しては他国から姫君を、年齢が離れていてもいいから迎えてはどうだという話もあった。それこそ、マルス殿下の婚約者候補の少女なども名前に挙がっている。なに、十歳差程度ならばよくある話だ」

「……はい」

あちら・・・が応じてくれるならば、暫定的な婚約者として国内の有力貴族の娘を据えることも、穏便に解消することも可能であった。ロレッタ、このように言うといやな響きを持つかもしれないが……我らの結婚は、愛があるだけではだめなのだ」

「はい」

「愛だけでは家族を養えない。愛があるのは確かに素晴らしいことだが、愛だけでは領民を食わせてやれない」

 お父様のその言葉に、私も深く頷きました。
 私たちの結婚は、家の繋がりを強くして……そして、互いの家を富ませること。
 富ませることによって、それを領民に、民に還元するのです。

(『愛があれば貧しくてもいい』だったかしら?)

 世間で人気のお芝居の中で言われた台詞に、そんなものがありました。
 そうです、私のことをまるでそこに出てくる『悪役令嬢だ』とアトキンス嬢たちが笑っていた、あのお芝居です。

 真実の愛を貫けるのであれば、身分を捨てることだって厭わない……そんな純真な娘に王子は心打たれて、悪逆非道な振る舞いをする婚約者を断罪し、そして周囲に祝福されるままに二人は結ばれる……感動的なお話ですわね。

 でもそれはあくまで、お話の中にある出来事だから感動的に終わることができたのです。

「たとえ普通の暮らしをしている民であっても、愛だけで食べていくのは大変だろう? だが、愛すらもない政略結婚で必要なのは、信頼だ」

「……殿下と私の間には、それが築けなかった」

「いいや、そも陛下と王妃、そして第二妃の間にもない。だからこそ陛下は今回のことを考えられたのだ」

 信頼すら築けなかった政略結婚。
 表向きは保たれた、貴族たちの均衡。

 陛下は、もしもアベリアン殿下が学び、私と信頼を築く姿勢を見せたなら……他国の姫君についても話をして、より良い道を模索されるつもりだったそうなのです。
 そうでなければ、王妃と第二妃……というよりはその生家を押さえる良い機会とし、貴族たちの派閥をまた動かそうと。

 私は、最初からいずれにせよアベリアン殿下との婚約について白紙に戻される予定であったと……。
 呆れてものが言えませんが、国政を担う方々はそうして迂遠な手段を選ぶことで、民に迷惑をかけないようにしているのかもしれません。

 私の視線にお父様は軽く肩を竦めました。
 
「少々意地の悪い話だと相談された際には思ったが、わたしはそれに乗っかることにした」

「どうしてですか?」

 にやりと、お父様が笑いました。
 その顔は、とても楽しそうです。

「お前が、恋しい男と結ばれるにはそれしかないと思ったからだ」
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

婚約者様への逆襲です。

有栖川灯里
恋愛
王太子との婚約を、一方的な断罪と共に破棄された令嬢・アンネリーゼ=フォン=アイゼナッハ。 理由は“聖女を妬んだ悪役”という、ありふれた台本。 だが彼女は涙ひとつ見せずに微笑み、ただ静かに言い残した。 ――「さようなら、婚約者様。二度と戻りませんわ」 すべてを捨て、王宮を去った“悪役令嬢”が辿り着いたのは、沈黙と再生の修道院。 そこで出会ったのは、聖女の奇跡に疑問を抱く神官、情報を操る傭兵、そしてかつて見逃された“真実”。 これは、少女が嘘を暴き、誇りを取り戻し、自らの手で未来を選び取る物語。 断罪は終わりではなく、始まりだった。 “信仰”に支配された王国を、静かに揺るがす――悪役令嬢の逆襲。

【完結】亡くなった婚約者の弟と婚約させられたけど⋯⋯【正しい婚約破棄計画】

との
恋愛
「彼が亡くなった?」 突然の悲報に青褪めたライラは婚約者の葬儀の直後、彼の弟と婚約させられてしまった。 「あり得ないわ⋯⋯あんな粗野で自分勝手な奴と婚約だなんて! 家の為だからと言われても、優しかった婚約者の面影が消えないうちに決めるなんて耐えられない」 次々に変わる恋人を腕に抱いて暴言を吐く新婚約者に苛立ちが募っていく。 家と会社の不正、生徒会での横領事件。 「わたくしは⋯⋯完全なる婚約破棄を準備致します!」 『彼』がいるから、そして『彼』がいたから⋯⋯ずっと前を向いていられる。 人が亡くなるシーンの描写がちょっとあります。グロくはないと思います⋯⋯。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

クリスティーヌの本当の幸せ

宝月 蓮
恋愛
ニサップ王国での王太子誕生祭にて、前代未聞の事件が起こった。王太子が婚約者である公爵令嬢に婚約破棄を突き付けたのだ。そして新たに男爵令嬢と婚約する目論見だ。しかし、そう上手くはいかなかった。 この事件はナルフェック王国でも話題になった。ナルフェック王国の男爵令嬢クリスティーヌはこの事件を知り、自分は絶対に身分不相応の相手との結婚を夢見たりしないと決心する。タルド家の為、領民の為に行動するクリスティーヌ。そんな彼女が、自分にとっての本当の幸せを見つける物語。 小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

婚約破棄されたので、戻らない選択をしました

ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた 貴族令嬢ミディア・バイエルン。 だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、 彼女は一方的に婚約を破棄される。 「戻る場所は、もうありませんわ」 そう告げて向かった先は、 王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。 権力も、評価も、比較もない土地で、 ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。 指示しない。 介入しない。 評価しない。 それでも、人は動き、街は回り、 日常は確かに続いていく。 一方、王都では―― 彼女を失った王太子と王政が、 少しずつ立ち行かなくなっていき……? 派手な復讐も、涙の和解もない。 あるのは、「戻らない」という選択と、 終わらせない日常だけ。

婚約者に愛する人が出来たので、身を引く事にしました

Blue
恋愛
 幼い頃から家族ぐるみで仲が良かったサーラとトンマーゾ。彼が学園に通うようになってしばらくして、彼から告白されて婚約者になった。サーラも彼を好きだと自覚してからは、穏やかに付き合いを続けていたのだが、そんな幸せは壊れてしまう事になる。

処理中です...