対ソ戦、準備せよ!

湖灯

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★vs張学良★

【決意①】

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 張学良が如何なる野望を持っているかはまだ明らかではないが、日本としては彼の武力による北京入城を阻止する手立ては整った。

 しかし私は武力での解決は回避したいと思っている。

 武力を行使すると言う事は、双方に多くの死傷者が出てしまう。

 死んだ兵士も気の毒だが残された兵士の家族はもっと気の毒だし、そういったことは必ず恨みを買い日中両国の関係に深く影響を及ぼすことになるだろう。

 政治的には日中友好条約を締結していて今回の派兵に関しても国民党の蒋介石自らの要請によるものだが、もし民意が違う方向に動けば結局政治は責めを受け、無理に民意に抗えれば必ず革命が起こる。

 小さな革命は簡単に潰すことも出来るだろうが、そうなればやがて小さな革命組織は地下に潜りお互いの目的のために大きな革命組織へと変わり政府を脅かすほどの勢力を持つようになる。

 民衆の力は偉大だ。

 何故なら政府に雇われている人たちやその家族も、そして軍人だった民衆。

 それらが力を合わせれば、あの18世紀に起きたフランス革命のように王朝を倒す事さえもできる。

 結局、力では、民衆をねじ伏せることはできやしない。



 だが私には、平和と言う強い意思がある。

 あの日墜落する機体と共に死んだはずの命を救ってもらい、更に10年さかのぼって日本を平和な国へと導くために費やしてきた。

 日本だけが平和な世界など有り得ない。

 新しい大本営もできて、私の代わりを担ってくれるはず。

 だから私は覚悟を決めて、平和解決のために働いてみせる。





 問題は朝鮮国軍の動向。

 こちらの平和による解決だけは難しい。

 なにしろ朝鮮国と言う国は、ひとつの国でありながら、その内部はどうやら2つの派閥に分かれているらしい。

 おそらく南は親米派で、北は親ソ派。

 しかし朝鮮国は、それを認めず、いつも二枚舌のような回答を示すばかり。

 国内で政治的統制が取れていない。

 今回の敵は、北の親ソ派。

 彼らの軍は、渤海湾に面した満州国国境沿いの新義州市付近に続々と兵力を集めている。



 政府から外交ルートを通じて朝鮮政府に何度回答を求めても、国境沿いの軍事演習から張学良軍への備えだと少しだけ答えが変わっただけで要領を得ない。

 朝鮮国の言い分をまともに解釈すれば、まるで我が国が張学良軍に負けると思っているように聞こえ、誠にけしからん回答と言う事になるだろう。

 だが彼ら政府の内情を思い測れば、それも致し方ないのかも知れない。

 ソウルにある朝鮮政府も、国内の平和解決に向けて内情を外部、特に以前朝鮮半島を統治していていた日本には絶対に知られたくないはず。

 知られれば再び日本が来ることを恐れているのだ。

 たしかに、そうなる確率は高い。

 再統治まではしないだろうが、政治的と軍事的に深く干渉してくることは確実だろう。



 だが見過ごすわけにはいかない。

 我が国の戦力は今、中国東部に向けられていて、特に瀋陽の守備隊を朝陽の西まで移動させていて朝鮮との国境線の守りは手薄になっている。

 もし私の読み通り、朝鮮軍の一部が満州国の国境を超える事態になれば、前線は大混乱に陥るはず。



「柏原中佐、羽田から写真が届きました」

 伊藤中尉が封筒を届けてくれた。

 彼ら1個小隊が入ってくれたことで、もう私が自ら羽田に書類を取りに行くことはなくなった。

 便利と言えば便利だが、薫さんと2人きりになれる時間が無くなってしまったことに少し寂しい気がした。
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