対ソ戦、準備せよ!

湖灯

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★vs張学良★

【結城薫の不安①】

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 痛むわき腹を押さえたときに、内ポケットに入れていた3通の親書が無い事に気付いた。

「親書は!?」

「もう読んだ。君はとても優秀な配達員だな、たとえ死んでもこれを届けるつもりだったんだろう? ご苦労様、帰りは部下たちに途中まで送らせるから帰っていいぞ」



「帰る?」

「帰らないのか?」

 私の言葉に張学良はいかにも怪訝そうな顔をした。



「親書を届けに来たのは確かだが、まだ答えを受け取っていない」



「答え? 君は僕に文通でもしろとでも言うのか?」

 張学良は怒りに満ちた鋭い眼を私に向けたまま、吸っていた煙草を灰皿に押し付けながら言った。



「文通……いいですね。それをしてください。そうすれば貴方の心の中にあるわだかまりも少しは解けることでしょう」

「ふざけるな‼ たとえ返書をしたためたとしても貴様には渡さん! いや貴様の血をインクに使って書いてやる!」

 張学良が座っていた椅子を蹴るように立ち上がり、怒鳴るように言った。



 私は冷静を保ったまま「インクに不自由するのであれば私の血を使っても構いませんし、配達に誰を使うかも自由に選べばいいでしょう。そして私を殺すことも貴方にとっては自由なのかも知れません。ただ大切なのはお互いの立場を分かち合うことと、指導者である以上、使える者たちの平和と安全を考えなければならないのではないでしょうか? このまま進軍することは、貴方たちにとって有益なことだとは思えません」と言った。



「黙れ!」



 張学良が拳銃を抜き、銃口を私に向けた。



「撃ちたいなら撃てばいい。しかし暴力で解決することが何もないのは、御父上を亡くされた貴方が一番よく知っているはずだったのではないですか?」



「確かに貴様の言う通りだが、では聞くが、この気持ちをどうやって治めれば良いというのだ!」



「平和を思うのです」

「平和?」



「人々が安全に、そして安心して暮らせる社会。人々の活気と笑顔、子供たちが明るく遊ぶ姿。それでは、いけませんか?」



「他人の笑顔を見ろだと!? これは僕の問題だ、僕自身の親が殺された。その恨みをどうして他人ごときの笑顔で癒されようか」



「貴方は指導者としての教育を受けて来られたのではないのですか?」

「ああ。だから、こうして軍を率いている」



「世の中には上に立とうと思っても、生まれや育ちなどの事情で上に立つ機会に恵まれない人たちがいます。そして多くの民にとっての願いは平和で安定した暮らし。いまここで日本軍と戦えば、どうなるでしょう? 貴方は分かっているはず、たとえ戦いによって目的が達成されたとしても多くの兵士が失われる事を。そして後悔するでしょう」

「後悔? 何故僕が後悔する?」

「失われた兵士たちを殺したのが、自分だという事を、閣下は必ず後悔される」

「僕が、僕の兵士たちを殺した!?」



 張学良はしばらく黙った。

 黙って何か考えていた。

 そして頭を抱えて笑ったかと思うと、再び私に銃口を向けて言った。

「最後に一言だけ言わせてやる。これまで貴様が言ったことを謝罪して命乞いをするのならすべて許して逃がしてやる!さあ言え! 命乞いをしろ‼」



 命乞いをすれば逃してくれると言った。

 親書は彼の手に渡った。

 後はそれを読んだ彼が、どのように判断するかだけ。

 もう私に出来るようなことは何もない。

 命乞いをすれば、また薫さんと会える。



 私は命乞いをせずに、ハッキリと言った。

「分かって欲しい。平和は一つの国だけでは成し得ないことを」と。



 すまない、薫さん。

 私は約束を守れなかった。

 俯く私の頭の上で、パンという拳銃の発射音が響いた。
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