50 / 61
★vs張学良★
【結城薫の不安①】
しおりを挟む
痛むわき腹を押さえたときに、内ポケットに入れていた3通の親書が無い事に気付いた。
「親書は!?」
「もう読んだ。君はとても優秀な配達員だな、たとえ死んでもこれを届けるつもりだったんだろう? ご苦労様、帰りは部下たちに途中まで送らせるから帰っていいぞ」
「帰る?」
「帰らないのか?」
私の言葉に張学良はいかにも怪訝そうな顔をした。
「親書を届けに来たのは確かだが、まだ答えを受け取っていない」
「答え? 君は僕に文通でもしろとでも言うのか?」
張学良は怒りに満ちた鋭い眼を私に向けたまま、吸っていた煙草を灰皿に押し付けながら言った。
「文通……いいですね。それをしてください。そうすれば貴方の心の中にあるわだかまりも少しは解けることでしょう」
「ふざけるな‼ たとえ返書をしたためたとしても貴様には渡さん! いや貴様の血をインクに使って書いてやる!」
張学良が座っていた椅子を蹴るように立ち上がり、怒鳴るように言った。
私は冷静を保ったまま「インクに不自由するのであれば私の血を使っても構いませんし、配達に誰を使うかも自由に選べばいいでしょう。そして私を殺すことも貴方にとっては自由なのかも知れません。ただ大切なのはお互いの立場を分かち合うことと、指導者である以上、使える者たちの平和と安全を考えなければならないのではないでしょうか? このまま進軍することは、貴方たちにとって有益なことだとは思えません」と言った。
「黙れ!」
張学良が拳銃を抜き、銃口を私に向けた。
「撃ちたいなら撃てばいい。しかし暴力で解決することが何もないのは、御父上を亡くされた貴方が一番よく知っているはずだったのではないですか?」
「確かに貴様の言う通りだが、では聞くが、この気持ちをどうやって治めれば良いというのだ!」
「平和を思うのです」
「平和?」
「人々が安全に、そして安心して暮らせる社会。人々の活気と笑顔、子供たちが明るく遊ぶ姿。それでは、いけませんか?」
「他人の笑顔を見ろだと!? これは僕の問題だ、僕自身の親が殺された。その恨みをどうして他人ごときの笑顔で癒されようか」
「貴方は指導者としての教育を受けて来られたのではないのですか?」
「ああ。だから、こうして軍を率いている」
「世の中には上に立とうと思っても、生まれや育ちなどの事情で上に立つ機会に恵まれない人たちがいます。そして多くの民にとっての願いは平和で安定した暮らし。いまここで日本軍と戦えば、どうなるでしょう? 貴方は分かっているはず、たとえ戦いによって目的が達成されたとしても多くの兵士が失われる事を。そして後悔するでしょう」
「後悔? 何故僕が後悔する?」
「失われた兵士たちを殺したのが、自分だという事を、閣下は必ず後悔される」
「僕が、僕の兵士たちを殺した!?」
張学良はしばらく黙った。
黙って何か考えていた。
そして頭を抱えて笑ったかと思うと、再び私に銃口を向けて言った。
「最後に一言だけ言わせてやる。これまで貴様が言ったことを謝罪して命乞いをするのならすべて許して逃がしてやる!さあ言え! 命乞いをしろ‼」
命乞いをすれば逃してくれると言った。
親書は彼の手に渡った。
後はそれを読んだ彼が、どのように判断するかだけ。
もう私に出来るようなことは何もない。
命乞いをすれば、また薫さんと会える。
私は命乞いをせずに、ハッキリと言った。
「分かって欲しい。平和は一つの国だけでは成し得ないことを」と。
すまない、薫さん。
私は約束を守れなかった。
俯く私の頭の上で、パンという拳銃の発射音が響いた。
「親書は!?」
「もう読んだ。君はとても優秀な配達員だな、たとえ死んでもこれを届けるつもりだったんだろう? ご苦労様、帰りは部下たちに途中まで送らせるから帰っていいぞ」
「帰る?」
「帰らないのか?」
私の言葉に張学良はいかにも怪訝そうな顔をした。
「親書を届けに来たのは確かだが、まだ答えを受け取っていない」
「答え? 君は僕に文通でもしろとでも言うのか?」
張学良は怒りに満ちた鋭い眼を私に向けたまま、吸っていた煙草を灰皿に押し付けながら言った。
「文通……いいですね。それをしてください。そうすれば貴方の心の中にあるわだかまりも少しは解けることでしょう」
「ふざけるな‼ たとえ返書をしたためたとしても貴様には渡さん! いや貴様の血をインクに使って書いてやる!」
張学良が座っていた椅子を蹴るように立ち上がり、怒鳴るように言った。
私は冷静を保ったまま「インクに不自由するのであれば私の血を使っても構いませんし、配達に誰を使うかも自由に選べばいいでしょう。そして私を殺すことも貴方にとっては自由なのかも知れません。ただ大切なのはお互いの立場を分かち合うことと、指導者である以上、使える者たちの平和と安全を考えなければならないのではないでしょうか? このまま進軍することは、貴方たちにとって有益なことだとは思えません」と言った。
「黙れ!」
張学良が拳銃を抜き、銃口を私に向けた。
「撃ちたいなら撃てばいい。しかし暴力で解決することが何もないのは、御父上を亡くされた貴方が一番よく知っているはずだったのではないですか?」
「確かに貴様の言う通りだが、では聞くが、この気持ちをどうやって治めれば良いというのだ!」
「平和を思うのです」
「平和?」
「人々が安全に、そして安心して暮らせる社会。人々の活気と笑顔、子供たちが明るく遊ぶ姿。それでは、いけませんか?」
「他人の笑顔を見ろだと!? これは僕の問題だ、僕自身の親が殺された。その恨みをどうして他人ごときの笑顔で癒されようか」
「貴方は指導者としての教育を受けて来られたのではないのですか?」
「ああ。だから、こうして軍を率いている」
「世の中には上に立とうと思っても、生まれや育ちなどの事情で上に立つ機会に恵まれない人たちがいます。そして多くの民にとっての願いは平和で安定した暮らし。いまここで日本軍と戦えば、どうなるでしょう? 貴方は分かっているはず、たとえ戦いによって目的が達成されたとしても多くの兵士が失われる事を。そして後悔するでしょう」
「後悔? 何故僕が後悔する?」
「失われた兵士たちを殺したのが、自分だという事を、閣下は必ず後悔される」
「僕が、僕の兵士たちを殺した!?」
張学良はしばらく黙った。
黙って何か考えていた。
そして頭を抱えて笑ったかと思うと、再び私に銃口を向けて言った。
「最後に一言だけ言わせてやる。これまで貴様が言ったことを謝罪して命乞いをするのならすべて許して逃がしてやる!さあ言え! 命乞いをしろ‼」
命乞いをすれば逃してくれると言った。
親書は彼の手に渡った。
後はそれを読んだ彼が、どのように判断するかだけ。
もう私に出来るようなことは何もない。
命乞いをすれば、また薫さんと会える。
私は命乞いをせずに、ハッキリと言った。
「分かって欲しい。平和は一つの国だけでは成し得ないことを」と。
すまない、薫さん。
私は約束を守れなかった。
俯く私の頭の上で、パンという拳銃の発射音が響いた。
13
あなたにおすすめの小説
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
太平洋戦争、回避せよ!
湖灯
歴史・時代
「対米戦、準備せよ!」「対ソ戦、準備せよ!」に続き、このシリーズの最終章となります。
時代は1040年代。
1944年のサイパン島の戦いの資料を持ち帰るべく、大本営から特命を受けた柏原大尉は水上偵察機で脱出しました。
敵のレーダー網を避けるため水上を這うように移動していたが、途中潜水艦に発見され、通報を受けて飛んで来たグラマンに襲われますが、硫黄島から飛んで来たゼロ戦に救われます。
しかしようやく本土に辿り着くと思われた房総半島上空で味方の誤射により機は重大なダメージを受けて墜落。
目が覚めたとき彼は10年前の1934年に戻っていて、柏原大尉の前には未来から来た技術者の男女2人が居て、彼らと共に戦争のない日本を築くために奮闘する物語です。
「小説家になろう」では「対米戦、準備せよ!」で先行配信中です。
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
小日本帝国
ypaaaaaaa
歴史・時代
日露戦争で判定勝ちを得た日本は韓国などを併合することなく独立させ経済的な植民地とした。これは直接的な併合を主張した大日本主義の対局であるから小日本主義と呼称された。
大日本帝国ならぬ小日本帝国はこうして経済を盤石としてさらなる高みを目指していく…
戦線拡大が甚だしいですが、何卒!
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる