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★10年前の日本へ★
【二・二六事件③】
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放送日が決まり、それまでの間に私は私に与えられた30人の兵士の訓練に勤しんだ。
訓練と言っても何処か広い場所に移動して行ったわけではなく、市ヶ谷の大本営のビルの中で市街戦ならぬ屋内戦の訓練をした。
陸軍でも屋内戦の練習などはしたことがないので、手本にしたのは薫さんたちが未来から持ってきた小型映像装置で見せてもらった中東地域での市街戦の様子。
何名かがチームを組んで、お互いの死角を補い、更に援護し合いながら進むのは理に適っている。
また兵士たちが使用する武器は三八式歩兵銃ではなく、性能比較サンプルとして購入してあったアメリカのM1928トンプソン。
こいつは銃弾初速が極端に遅いので射程距離も短いが、サブマシンガン故に連続射撃ができるうえに寸法が短いので屋内での取り回しが楽になるし、そもそも屋内で戦うのに射程距離なんて殆ど関係ない。
狙いを定めて撃つ余裕もないだろうから、瞬時に沢山の銃弾を飛ばせるほうがいいだろう。
「ふ~ん、さすがね。タブレットに入れてあった映像も見てちゃんと習得していたなんて、さすがアノ柳生さんが最後にとっておいただけの事はあるわ」
訓練を指導している私の傍に来た薫さんが、私の背中に覆いかぶさるように近くに来て耳元で甘く囁く。
「まっ、まあな……」
肩甲骨の少し下の辺りに、彼女の柔らかい部分が当たっていて少し動揺した。
放送日当日、用心のために30人の兵士たちを6班に分けて放送局の各入り口などに配置したが特に問題なく放送は終了し、今度は6班を3班に集約して3人の出演者を家まで送り届け当日はそのまま朝まで警護させた。
「ふぅゎ~ぁ……結局、朝まで何もなかったわね」
帰っていいと言ったのに、結局朝までつきあってくれた薫さんが背伸びをしながら言った。
「だから、何もないのは分かっているって言ったじゃないか」
「だったら、どうして? 警備の人たちだって、きっと眠かったと思うわよ」
「ちゃんと警備をして守り抜く姿勢が大切なんだ」
「それって、どういうこと?」
「相手に付け入る隙を見せないってこと」
そして私たちも宿舎に向かった。
宿舎に戻ると柳生は、なにやら設計図を描いていた。
しかも大量の。
何をしているのかと聞くと、柳生は兵器の改良や新しい兵器の図面だといったあと、これから忙しくなるぞ!と何やら嬉しそうに言った。
彼が最近顔を見せないのは、こういった事に没頭しているからだった。
次の日の朝、軍令部に向かう途中、街の人たちの様子が何だか少し違う気がした。
なんとなくウキウキしていると言うかソワソワしていると言うか、とりあえず明るい雰囲気で話をしている人が多い。
また街頭には『戦車1台よりも、米! 軍艦1隻よりも、家‼』と言う、真新しいポスターも貼られていた。
「あのポスター、チョッと危なくない?」
薫さんがポスターを見て言った。
たしかに、この時代では危ういが、こういうポスターが見られるというのは先行きの明るさを感じさせる。
私がここに戻る前の時代では、軍部を批判するような意見はタブーとされていたのだから。
しかし一体何が変わった?
軍令部に着くとすぐに放送協会から電話があった。
“何かあったのか⁉”と、少し緊張が走る。
電話を取ると、ヤケに大きな声で昨夜行われた『政治討論会』の担当者が陽気な声で「昨夜の放送は大成功でした!ありがとうございます‼」と、放送の反響が非常に良かった旨を伝えてくれた。
なるほど、街が明るく思えたのは、討論会のラジオを聞いた人たちの明るい顔と会話だったのだ。
最近の外交情勢は芳しくなく、陸軍も海軍も来るべき戦争に備えて予算拡大を求めていた。
もう戦争は不可避。
そんな風潮が、市民の顔にも表れていた。
そこに2人の総理経験者と海軍の予備役とはいえ将軍が、今は軍備拡大よりも国力向上や国民の生活向上を優先するべきだと言葉で討論会を締めたのだから希望の光が差さないはずはない。
未来の事を勉強しながら、Youtubeやインスタグラム、Xなどのメディアを政治家が有効に利用している話や、それらSNSなどが欠かせない時代になっていることに驚くとともに、なにやら人々を操ってしまう力が大きくて危ういとも感じた。
未来のSNSなどとは異なるが、いつも新聞やラジオのニュースでしか名前を聞かない政府の大物が、生の声で生の考えをリアルタイムで国民に伝えた事がこれほどまでに大きな効果が出るとは予想以上の結果だった。
やはりみんな、政権の公約や予めタイプした文章を読み上げるより、政治家本人の本音を欲しがっているのだ。
「ところで放送に関して、苦情は来なかったですか?」
私は、この企画で一番気になっていた事を聞いた。
すると先方は、陸軍から激しい苦情があり、次回放送時の参加を表明してきたことを教えてくれた。
電話を切ったあと、傍らで電話を聞いていた薫さんが「困ったことになったわね」と言ったが、私は彼らが私の仕掛けた罠にまんまと引っ掛かってくれたことを逆に喜んでいた。
訓練と言っても何処か広い場所に移動して行ったわけではなく、市ヶ谷の大本営のビルの中で市街戦ならぬ屋内戦の訓練をした。
陸軍でも屋内戦の練習などはしたことがないので、手本にしたのは薫さんたちが未来から持ってきた小型映像装置で見せてもらった中東地域での市街戦の様子。
何名かがチームを組んで、お互いの死角を補い、更に援護し合いながら進むのは理に適っている。
また兵士たちが使用する武器は三八式歩兵銃ではなく、性能比較サンプルとして購入してあったアメリカのM1928トンプソン。
こいつは銃弾初速が極端に遅いので射程距離も短いが、サブマシンガン故に連続射撃ができるうえに寸法が短いので屋内での取り回しが楽になるし、そもそも屋内で戦うのに射程距離なんて殆ど関係ない。
狙いを定めて撃つ余裕もないだろうから、瞬時に沢山の銃弾を飛ばせるほうがいいだろう。
「ふ~ん、さすがね。タブレットに入れてあった映像も見てちゃんと習得していたなんて、さすがアノ柳生さんが最後にとっておいただけの事はあるわ」
訓練を指導している私の傍に来た薫さんが、私の背中に覆いかぶさるように近くに来て耳元で甘く囁く。
「まっ、まあな……」
肩甲骨の少し下の辺りに、彼女の柔らかい部分が当たっていて少し動揺した。
放送日当日、用心のために30人の兵士たちを6班に分けて放送局の各入り口などに配置したが特に問題なく放送は終了し、今度は6班を3班に集約して3人の出演者を家まで送り届け当日はそのまま朝まで警護させた。
「ふぅゎ~ぁ……結局、朝まで何もなかったわね」
帰っていいと言ったのに、結局朝までつきあってくれた薫さんが背伸びをしながら言った。
「だから、何もないのは分かっているって言ったじゃないか」
「だったら、どうして? 警備の人たちだって、きっと眠かったと思うわよ」
「ちゃんと警備をして守り抜く姿勢が大切なんだ」
「それって、どういうこと?」
「相手に付け入る隙を見せないってこと」
そして私たちも宿舎に向かった。
宿舎に戻ると柳生は、なにやら設計図を描いていた。
しかも大量の。
何をしているのかと聞くと、柳生は兵器の改良や新しい兵器の図面だといったあと、これから忙しくなるぞ!と何やら嬉しそうに言った。
彼が最近顔を見せないのは、こういった事に没頭しているからだった。
次の日の朝、軍令部に向かう途中、街の人たちの様子が何だか少し違う気がした。
なんとなくウキウキしていると言うかソワソワしていると言うか、とりあえず明るい雰囲気で話をしている人が多い。
また街頭には『戦車1台よりも、米! 軍艦1隻よりも、家‼』と言う、真新しいポスターも貼られていた。
「あのポスター、チョッと危なくない?」
薫さんがポスターを見て言った。
たしかに、この時代では危ういが、こういうポスターが見られるというのは先行きの明るさを感じさせる。
私がここに戻る前の時代では、軍部を批判するような意見はタブーとされていたのだから。
しかし一体何が変わった?
軍令部に着くとすぐに放送協会から電話があった。
“何かあったのか⁉”と、少し緊張が走る。
電話を取ると、ヤケに大きな声で昨夜行われた『政治討論会』の担当者が陽気な声で「昨夜の放送は大成功でした!ありがとうございます‼」と、放送の反響が非常に良かった旨を伝えてくれた。
なるほど、街が明るく思えたのは、討論会のラジオを聞いた人たちの明るい顔と会話だったのだ。
最近の外交情勢は芳しくなく、陸軍も海軍も来るべき戦争に備えて予算拡大を求めていた。
もう戦争は不可避。
そんな風潮が、市民の顔にも表れていた。
そこに2人の総理経験者と海軍の予備役とはいえ将軍が、今は軍備拡大よりも国力向上や国民の生活向上を優先するべきだと言葉で討論会を締めたのだから希望の光が差さないはずはない。
未来の事を勉強しながら、Youtubeやインスタグラム、Xなどのメディアを政治家が有効に利用している話や、それらSNSなどが欠かせない時代になっていることに驚くとともに、なにやら人々を操ってしまう力が大きくて危ういとも感じた。
未来のSNSなどとは異なるが、いつも新聞やラジオのニュースでしか名前を聞かない政府の大物が、生の声で生の考えをリアルタイムで国民に伝えた事がこれほどまでに大きな効果が出るとは予想以上の結果だった。
やはりみんな、政権の公約や予めタイプした文章を読み上げるより、政治家本人の本音を欲しがっているのだ。
「ところで放送に関して、苦情は来なかったですか?」
私は、この企画で一番気になっていた事を聞いた。
すると先方は、陸軍から激しい苦情があり、次回放送時の参加を表明してきたことを教えてくれた。
電話を切ったあと、傍らで電話を聞いていた薫さんが「困ったことになったわね」と言ったが、私は彼らが私の仕掛けた罠にまんまと引っ掛かってくれたことを逆に喜んでいた。
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