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2章
好きな人の部屋
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仁は5限の授業を受けながら、賢のことを考えていた。2歳年上で、研究室に身を置く四年生。身長は仁が見上げるぐらいの高さだった。おそらく180センチから185センチくらいだろう。
5限は教養の講義だった。試験はないが、まとめレポートを出さなければならない。3回に1回で、今回で2回目だ。前回の感じから見て、難しいことを書く必要はなさそうだが、考察が浅いと点数が低い傾向がある。
そんな講義も終わり、研究棟に行く。エレベーターに乗って賢の研究室まで歩く。道を覚えてしまえば遠いとは感じなかった。
「こんばんは」
「お、来たね」
ノックをしてから入り挨拶をすると、賢はまだ研究室に残っていた。教授と話している様子はないが、資料が机に広がっていた。研究に取り組む感じですらも真面目に見えて、仁にとっては惹かれるものがあった。
「もうちょっとだけ待っててくれ。今データを見比べてるから」
「分かりました」
そう言いながらも、扉を入ったところでおろおろする。賢がそれに気付き、椅子を出してくれた。それに有難く座らせてもらい、一息つく。
「5限はどうだった?」
「え?えーっと、普通でした」
「そうか。なら良かった」
よく分からない質問をされた。その場しのぎなのか、含みのあるものなのか分からなかったが、返答に困ってしまい、そこでもやはりおろおろした。
「まぁ、特に意味はないよ。困ってなければ大丈夫だ」
「あ、はい。ありがとうございます」
特に意味はなかったようだ。それが分かっただけでもありがたかった。まだ賢との距離感が測れていない。どうするべきか仁は悩んでいた。研究の邪魔になるようなら、今すぐにでも部屋から出るべきか。そんなことを考えていた。半ば放心状態だったが、賢に話しかけられ、現実に戻ってくる。
「ひとまず今日はここまでにするから、俺は帰るよ。仁はどうする?」
どうする。とはいったいどういうことか。意味がわからず無言になってしまう。そして、またしてもそれを察した賢が、言葉を付け加えてくる。
「俺の家、泊まるか?布団ならあるし、今日はどうせ暇だし、明日も土曜日だし。泊まれるけど、どうする?」
「えっと、泊まります」
「そうか、分かった」
仁が一番事態を理解していなかったが、賢の部屋にとまることになった。それだけは遅れて理解した。そして気がつけば、賢と一緒に研究室を出てバスに乗る段取りになっていた。その間の会話はまったく記憶になかった。
まだ猛暑と呼ばれるような夏の気配は感じない。それでも、夏が確実に迫っていることは分かるほどの暑さ。5限が終わっても18時。そして賢と会話して、バスに乗り込もうして現在は19時。夏とはいえ、暗くなりつつある空を見ながら賢と話する。
「研究室、忙しいですか」
「まぁまぁかな。最近はちょっと緩くなってきたけど、来週からまだドタバタすると思う。そう思えば、たまには休みたくもなるし、今の研究室の感じは俺は過ごしやすいよ」
「そうなんですね」
「なんやかんやあっても自分がやりたい研究の配属になったから、前のめりで取り組めるってのもある。楽しいことばっかりじゃないけど、基本的にはずっと頑張れる感じかな」
「ふむふむ、なるほど」
「そういえば、親とかに泊まる連絡しなくていいのか?」
「あ、忘れてた。ありがとうございます」
ふとした会話の中をする中で、連絡というものを完全に忘れていた。SNSを開き、親に連絡を入れる。その間に賢も、事務連絡を着々と済ませていた。
二人の連絡が終わり、バス停も最寄りに着く。いつの間にか暗くなっていた夜道を二人で歩いて、賢の部屋へと向かう。やはり賢は仁よりも10センチくらい身長が高い。少し見上げながらの会話になりながらも、その会話を楽しめていた。のんびり歩いていると、賢の部屋に着いた。賢が鍵を取り出し、部屋を開けて、中に入る。
「ただいまー」
「おじゃまします」
「ちょっと休憩するか」
その言葉に頷き、荷物を置いて、一度座る。部屋の中は小綺麗で、生活感はあるが、散らかっている様子はない。賢も座って一息ついていた。
「晩ご飯どうする?嫌いなものとかある?」
「お任せします!嫌いなものはないです!」
好きな人の部屋に入っているという現実を直視すると、緊張した。しかし、ここで動けなければ賢は恋人にはなってくれないだろう。まだまだ、賢の心は掴めてないことが、仁にははっきりと分かっていた。辛かったが、恋とはいつもこういうものだとも思っているのも事実だ。すこし時間が経ってから、賢がキッチンに立った。
「いつも通りのご飯にするね」
「あ、お願いします」
キッチンに立つ賢に見惚れる。いままで、男性に恋をしたことはあるがここまで見惚れるほど好きになったことは未だかつて経験が無かった。すごく綺麗な姿だった。そのキッチンにたつ姿も15分ほどで終わり、気がつけばいい匂いと共にパスタが運ばれてきていた。
「いつもこんな感じなの。味付けとか変だったら言ってね」
「そうなんですか。わかりました。ありがとうございます」
なんだか失礼な返答をしている気がしていながらも、賢がニコニコしていたので、仁はひとまず安心していた。
ありふれた時間の中に少しだけある、特別な時間。その時間がいまなんだと気づいていなかった。しかし、賢にとっては特別な状況だった。自分を好きだと言ってくれていた後輩が自分の部屋に来ている。それがどれほどの気持ちかはまだ分からないけれどおそらく本気だ。
恋愛感情として好きだと言っていることは間違い無いと分かっていた。賢も男性に恋をしたことがある。けれどその時は、振られてしまった。その悲しさと辛さを知っているからこそ、いま仁に優しくできている。いつかこれが、残酷な優しさとならないための一歩を歩む必要があった。気持ちに応えることになっても、そうならなくても、慎重にならざるを得なかった。それは理解していた。
そんなことを考えているうちに、仁はパスタを食べ終わっていた。賢も食べ終わっていた。
「ご馳走様でした!」
「はい、ご馳走様でした」
仁が食器を持ってキッチンまで運んだ。戻ってきた仁と対面で話をする。
「泊まりとかしたことある?」
「ないです。服とかどうしようってなってます」
「あ、そうだったわ。俺のやつ貸すね」
「え、あぁ、はい」
「まぁ、パジャマもひとまず貸すわ」
「あ、ありがとうございます」
好きな人の服を着るという事態に慣れていない仁は、やっぱりここでもおろおろする。しかしすこし笑いながら賢は服を出してきてくれた。
「まぁ、ウエストがオーバーサイズじゃなきゃなんとかなるし、これでいいかな」
試しに着てみると、ウエスト的には悪くない感じだった。そしてすぐ戻す。ドキドキする仁とは対照的に、賢は残っている家事をテキパキとこなす。家事が終わった賢が戻ってきて、仁に話しかける。
「仁は猥談とかできるの」
「えっ、えっと」
「ざっくりいえばエロい話」
「あー、えっと、まぁ、耐性はありますよ」
「そっか。じゃあ聞いちゃうおうかな。仁は男の人との経験はある?」
仁はどきっとした。経験はない。怖いが憧れはある。賢が初めての人になるのか、という気持ちを抱えつつ答える。
「まだ、ないです」
「そっか。じゃあ、やってみる?」
「えっ、えっと」
思わずまごついた返答になってしまう。緊張と心の準備ができていなかった。またしてもそれを察した賢は、それとなく言い足してくれた。
「まぁ、また今度にしよっか。俺も準備できてないし」
このとき、賢はすごくドキドキしていた。して欲しいと言われたらどうしようかと思っていた。賢にも深い経験があるわけでもない。正直命拾いしたと思った。背中に冷たいものを感じていると、仁が話しかけてくれた。
「これから何しましょうか」
「うーん、まぁだらだらしようぜ。明日は土曜日だし」
「そうですね」
その後の時間は平穏になった。二人で大学の話を一通りした後は、あっさりと寝ることになった。布団も別々で寝ることになり、仁は心の中で安堵と寂しさを同時に抱えながら眠りについた。
5限は教養の講義だった。試験はないが、まとめレポートを出さなければならない。3回に1回で、今回で2回目だ。前回の感じから見て、難しいことを書く必要はなさそうだが、考察が浅いと点数が低い傾向がある。
そんな講義も終わり、研究棟に行く。エレベーターに乗って賢の研究室まで歩く。道を覚えてしまえば遠いとは感じなかった。
「こんばんは」
「お、来たね」
ノックをしてから入り挨拶をすると、賢はまだ研究室に残っていた。教授と話している様子はないが、資料が机に広がっていた。研究に取り組む感じですらも真面目に見えて、仁にとっては惹かれるものがあった。
「もうちょっとだけ待っててくれ。今データを見比べてるから」
「分かりました」
そう言いながらも、扉を入ったところでおろおろする。賢がそれに気付き、椅子を出してくれた。それに有難く座らせてもらい、一息つく。
「5限はどうだった?」
「え?えーっと、普通でした」
「そうか。なら良かった」
よく分からない質問をされた。その場しのぎなのか、含みのあるものなのか分からなかったが、返答に困ってしまい、そこでもやはりおろおろした。
「まぁ、特に意味はないよ。困ってなければ大丈夫だ」
「あ、はい。ありがとうございます」
特に意味はなかったようだ。それが分かっただけでもありがたかった。まだ賢との距離感が測れていない。どうするべきか仁は悩んでいた。研究の邪魔になるようなら、今すぐにでも部屋から出るべきか。そんなことを考えていた。半ば放心状態だったが、賢に話しかけられ、現実に戻ってくる。
「ひとまず今日はここまでにするから、俺は帰るよ。仁はどうする?」
どうする。とはいったいどういうことか。意味がわからず無言になってしまう。そして、またしてもそれを察した賢が、言葉を付け加えてくる。
「俺の家、泊まるか?布団ならあるし、今日はどうせ暇だし、明日も土曜日だし。泊まれるけど、どうする?」
「えっと、泊まります」
「そうか、分かった」
仁が一番事態を理解していなかったが、賢の部屋にとまることになった。それだけは遅れて理解した。そして気がつけば、賢と一緒に研究室を出てバスに乗る段取りになっていた。その間の会話はまったく記憶になかった。
まだ猛暑と呼ばれるような夏の気配は感じない。それでも、夏が確実に迫っていることは分かるほどの暑さ。5限が終わっても18時。そして賢と会話して、バスに乗り込もうして現在は19時。夏とはいえ、暗くなりつつある空を見ながら賢と話する。
「研究室、忙しいですか」
「まぁまぁかな。最近はちょっと緩くなってきたけど、来週からまだドタバタすると思う。そう思えば、たまには休みたくもなるし、今の研究室の感じは俺は過ごしやすいよ」
「そうなんですね」
「なんやかんやあっても自分がやりたい研究の配属になったから、前のめりで取り組めるってのもある。楽しいことばっかりじゃないけど、基本的にはずっと頑張れる感じかな」
「ふむふむ、なるほど」
「そういえば、親とかに泊まる連絡しなくていいのか?」
「あ、忘れてた。ありがとうございます」
ふとした会話の中をする中で、連絡というものを完全に忘れていた。SNSを開き、親に連絡を入れる。その間に賢も、事務連絡を着々と済ませていた。
二人の連絡が終わり、バス停も最寄りに着く。いつの間にか暗くなっていた夜道を二人で歩いて、賢の部屋へと向かう。やはり賢は仁よりも10センチくらい身長が高い。少し見上げながらの会話になりながらも、その会話を楽しめていた。のんびり歩いていると、賢の部屋に着いた。賢が鍵を取り出し、部屋を開けて、中に入る。
「ただいまー」
「おじゃまします」
「ちょっと休憩するか」
その言葉に頷き、荷物を置いて、一度座る。部屋の中は小綺麗で、生活感はあるが、散らかっている様子はない。賢も座って一息ついていた。
「晩ご飯どうする?嫌いなものとかある?」
「お任せします!嫌いなものはないです!」
好きな人の部屋に入っているという現実を直視すると、緊張した。しかし、ここで動けなければ賢は恋人にはなってくれないだろう。まだまだ、賢の心は掴めてないことが、仁にははっきりと分かっていた。辛かったが、恋とはいつもこういうものだとも思っているのも事実だ。すこし時間が経ってから、賢がキッチンに立った。
「いつも通りのご飯にするね」
「あ、お願いします」
キッチンに立つ賢に見惚れる。いままで、男性に恋をしたことはあるがここまで見惚れるほど好きになったことは未だかつて経験が無かった。すごく綺麗な姿だった。そのキッチンにたつ姿も15分ほどで終わり、気がつけばいい匂いと共にパスタが運ばれてきていた。
「いつもこんな感じなの。味付けとか変だったら言ってね」
「そうなんですか。わかりました。ありがとうございます」
なんだか失礼な返答をしている気がしていながらも、賢がニコニコしていたので、仁はひとまず安心していた。
ありふれた時間の中に少しだけある、特別な時間。その時間がいまなんだと気づいていなかった。しかし、賢にとっては特別な状況だった。自分を好きだと言ってくれていた後輩が自分の部屋に来ている。それがどれほどの気持ちかはまだ分からないけれどおそらく本気だ。
恋愛感情として好きだと言っていることは間違い無いと分かっていた。賢も男性に恋をしたことがある。けれどその時は、振られてしまった。その悲しさと辛さを知っているからこそ、いま仁に優しくできている。いつかこれが、残酷な優しさとならないための一歩を歩む必要があった。気持ちに応えることになっても、そうならなくても、慎重にならざるを得なかった。それは理解していた。
そんなことを考えているうちに、仁はパスタを食べ終わっていた。賢も食べ終わっていた。
「ご馳走様でした!」
「はい、ご馳走様でした」
仁が食器を持ってキッチンまで運んだ。戻ってきた仁と対面で話をする。
「泊まりとかしたことある?」
「ないです。服とかどうしようってなってます」
「あ、そうだったわ。俺のやつ貸すね」
「え、あぁ、はい」
「まぁ、パジャマもひとまず貸すわ」
「あ、ありがとうございます」
好きな人の服を着るという事態に慣れていない仁は、やっぱりここでもおろおろする。しかしすこし笑いながら賢は服を出してきてくれた。
「まぁ、ウエストがオーバーサイズじゃなきゃなんとかなるし、これでいいかな」
試しに着てみると、ウエスト的には悪くない感じだった。そしてすぐ戻す。ドキドキする仁とは対照的に、賢は残っている家事をテキパキとこなす。家事が終わった賢が戻ってきて、仁に話しかける。
「仁は猥談とかできるの」
「えっ、えっと」
「ざっくりいえばエロい話」
「あー、えっと、まぁ、耐性はありますよ」
「そっか。じゃあ聞いちゃうおうかな。仁は男の人との経験はある?」
仁はどきっとした。経験はない。怖いが憧れはある。賢が初めての人になるのか、という気持ちを抱えつつ答える。
「まだ、ないです」
「そっか。じゃあ、やってみる?」
「えっ、えっと」
思わずまごついた返答になってしまう。緊張と心の準備ができていなかった。またしてもそれを察した賢は、それとなく言い足してくれた。
「まぁ、また今度にしよっか。俺も準備できてないし」
このとき、賢はすごくドキドキしていた。して欲しいと言われたらどうしようかと思っていた。賢にも深い経験があるわけでもない。正直命拾いしたと思った。背中に冷たいものを感じていると、仁が話しかけてくれた。
「これから何しましょうか」
「うーん、まぁだらだらしようぜ。明日は土曜日だし」
「そうですね」
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