軌跡 Rev.1

ぽよ

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5章

体験

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 バスに乗ってしばらく行けば、駅の最寄駅。そこに賢の家もある。二人で降りて、そこから家まで一直線で帰ろうとしたところで、賢が別の方向に歩き出した。

「どうしたの」
「晩ご飯の買い物、何もしてなくてな」
「なるほどね」

 今まで何も気にしてこなかったけど、よく考えてみたら当たり前である。食材がなければご飯は作れない。
 二人でスーパーに行くことになったので、適当に歩いて行く。15分ほど歩いたところにある。中に入るとまだ冷房が効いていた。少しだけ肌寒いくらいだったが、暑くて汗をかくよりは気持ち的にも衛生的にも良いのだろう。少しだけ寒い店内を見回していたが、賢は自分のペースで食材をカゴの中に放り込んでいく。
 今日のご飯はなんだろうか。泊まりということもあって気分はウキウキだ。15分ほどついて歩いていけば、レジの前だった。最近はセルフレジなんていうものも普及している。
 軽やかな動作で商品を通していき、その後会計をさっと済ませる。賢は袋詰めの技術もあるらしく、カゴを持って台まで運ぶとさっさと詰めて店を出て行く。それについて行く形で、仁も店を出た。そこからは買い物袋を二人で持ちながら家まで歩く。そんなとき、賢が話しかけてきた。

「相談ってなんだ?」
「まぁ、夕方ぐらいに話すよ」
「夕方かぁ」
「ご飯の後とかの方がいい、かな?」
「なんでそんな迷いがあるんだ」

 少しだけ笑顔が溢れる賢を見ながら、急に緊張に襲われる。賢が果たして受け入れてくれるかどうか、というのもあった。しかし、それもまた経験かもしれない。
 二人で並んで歩きながら賢の家を目指す。こうして外の景色を見ると、スーパーなんてどこにも見えないはずなのに賢はどうやって見つけたのか。そんな疑問も出てくる。しかし4年間も一人暮らしをすれば散歩もするし必要に応じて地図検索もするだろう。そこで見つけたという可能性が一番高いと見ていいかもしれない。
 周りの景色を見ながら歩いていると賢の家に到着。もうすぐ秋口と言うのに部屋の中は少し暑かった。

「ただいまー」
「ただいま」

 仁もただいまというくらい馴染みがあった。居心地はいいし、気持ちも楽だ。しばらくゆったりひと段落。寝るときに布団を敷いてある場所に座り、一息つく。賢と、一歩先の関係へ。今日こそ踏み出す。
 ゆったりしながらも決意は固い。今日という日を境に、色々と変わっていく。仁は賢と話をしながら、そんなことを考えていた。
 のんびりしていただけなのに、時間が経つのは早かった。

「さて、そろそろご飯にするか」
「ご飯だ」

 時刻は18時。二人で話をしたりゴロゴロしたり昼寝をしたり。楽しい時間ほど早く過ぎ去っていく。そんなこんなでもう晩ご飯を作る時間になっている。のんびりしつつも立ち上がり、晩ご飯の準備を始める。

「さてと、今日は適当に炒め物にしよう」
「うん」
「30分もありゃできる」
「はーい」

 今日は普段より多めに作ることになる。買ってきた野菜と肉を適当な大きさに切っていく。フライパンを温めて油を入れて、油の粘性がなくなってきた頃を見計らって具材を入れていく。いつもと同じ工程で料理をする。今日は硬いものが入っていたので、少しだけしっかり目に火を通したら、完成。
 さっきの淡白な返事とは打って変わって、とても元気な声での返答がきた。
 皿に盛ってテーブルに持っていくと、すごく楽しみそうにしている仁がいた。いつもと変わらぬ夕食だが、二人で食べると美味しくなる。そんな言葉があったような気もする。
 二人で晩ご飯を食べるのも、これで片手の回数を超えた気がする。なんだかんだと泊まりに来るわけじゃないが、何気ないところで回数が増えている。しかし、こんな回数でもって、同棲まで踏み込むのは正直少しだけ怖かったが、今この瞬間を逃せば、次はない。直感がそう叫んでいた。何気なく続いていくこの日常を、手放したくなかった。
 何気なく、しかしはっきりとそんなことを考える。思っていたより早くご飯が食べ終わり、二人ともひと段落することになった。そんな中、仁から話しかけられる。

「あのね」
「うん、どうした」
「俺、賢と恋人になれて嬉しい」
「おう、ありがとう」
「賢と色々やってみたり、デートしたりして、だんだん緊張がなくなってきた時に、ふと思ったんだよ」
「どうしたの」
「俺、賢をまだ襲ったことないなぁって」
「え、あぁ、おう」

 唐突な話題が出てきた。そういえばそうだ。俺はまだ仁に襲われたことがなかった。そして俺は床に布団が敷かれていることに気付いた。準備まで万端すぎる。気がつけば俺は、仁に詰め寄られるような形になっていた。

「襲ってもいい?」
「え?」
「えいっ」

 油断していた隙に押し倒される。まさかの事態に頭がついていかない。というかさっきまで仁が枕側にいたはずなのに俺が押し倒される時は枕が頭にちゃんとついてるんだけど。なんでだろう。そんなことを悠長に考えていたら、ズボンが脱がされていた。何故だかわからないがとてもハイペースなことはわかる。仁がとても緊張しているのもわかる。

「そういえば」
「何?」
「お風呂入らなくていいのか?」
「うん、大丈夫」
「そうか、ならいいんだが」

 ふと冷静になって問いかけてみたが、そこは気にしなくていいらしい。いいのか。仁に任せるしかないのだが、そこは、頑張ってもらうしかない。
 なされるがままに脱がされていく。仁の手つきが想像していたより遥かに手慣れている気がした。
 目の前のどう見ても緊張してる仁を目の前にしながらなすがままになれるというのも不思議な風景な気もするが、頑張ってもらうことにする。賢もなぜこんなに冷静でいられるのかさっぱり分からない。と思っていたら仁の手が伸びてくる。

「こ、こう?」
「おう?おう」

 ここで初めて感を出される。不思議すぎる。ゆったり考えていると、始まった。最初は何ともなかったのに、徐々に快感に襲われる。しかし、仁はそんなことを知る由もないようで手を止める気配はない。手加減を知らないままの容赦ない攻撃の末、俺はすぐに果ててしまった。

「はぁ、はぁ」
「出たね」
「お、おう」
「初めてだったんだけど、どうだった?」
「わりと容赦ない攻撃だったね」
「なるほど、そっか」
「初めてにしては上手かったんだけど、勉強してきた?」
「全然」
「そうか」

 仁にとっては初めてだったから、緊張して力が篭ったのだろうか。しかしこの涼しい部屋で信じられないくらい汗をかいた。恐ろしいものだ。俺から提案をすることにした。

「風呂、一緒に入るか」
「え、あぁ、うん」

 恋人を襲いながらなぜここで照れるのか分からないが、それも仁の一つの個性なのだろう。一通り片付けてから、脱衣所へと向かう。仁は実はこのことを結構気にしていたのかもしれない。これからの仁との色々なことについて、もう一度考えてみるべきかもしれない。
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