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6章
ひと段落
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卒論の訂正もひと段落。もう一度見直したらそれで卒論は完成になる。ドタバタした半年間だったが、なんとか終わることができて万々歳というところだ。時間は11時30分だった。あと30分は仁は帰ってこない。ゆっくり卒論の原稿を見ながら、誤字脱字を直していこう。
「そういえば」
「はい」
ひと段落したところを狙ったのか、はたまた偶然なのかはさっぱり分からないが、教授がもう一度顔を出してきた。ここ最近の喧騒が嘘かのように静かな研究室に、教授の声がやけに響いた。
「仁くん、うちの研究室に来たいらしいんだけど、なんか聞いてる?」
「えぇ、まぁ」
「期待しておくよ」
「恐れ入ります」
「困ってたら支えてあげて」
「はい」
唐突な話題すぎて返答が正しいのかすら分からなかったが、優しい人で良かったと思うしかない。
しばらく2人とも一歩も動かなかったが、そういえばというところで賢からも話題を出す。
「そういえばこれ、直し終わったんでお願いします」
「はいよ、ところで」
「はい、なんでしょう」
「これ終わったらしばらく来ないのか?」
「まぁ、そうなりますかね。どうでしょう。教授はあいつらの対応に追われるでしょうし」
「ははは、なんとかしたいんだが」
「頑張ってください」
「言葉だけ受け取っておくよ」
苦笑しながら卒論を受け取る教授。あの騒がしさを思い出したからなのか疲れた顔になった教授は、教授室に戻っていった。時間は11時45分になっていた。
まだかまだかという気持ちに押されて、時計を見る頻度が増える。それだけ仁が大きな存在になっているということなのだろう。卒論もひと段落で何もすることがなくなった。冷房で涼しくなった研究室で、仁を待つ。ここ最近では一番静かであろう空間で。
「おじゃましまーす」
「きた!」
11時55分ごろ、研究室の扉が開く。それと同時に聴き慣れた声も聞こえる。思わず飛び出しそうなほどの姿勢と声が出てしまう。仁も少しだけ驚いた顔をする。
「どうしたの」
「暇で暇でしかたなかったんだよ」
「卒論の修正は?」
「終わって、もう教授に出したよ」
「なるほどね」
飼い主を待っていた犬のように抑えきれずに飛び出してきた賢に仁は少しだけ押されていた。しかし、不快な感じはないようだった。賢は飛び出したことを反省しつつも、安堵していた。気持ちを落ち着けてから、椅子に座る。
「あとは5限だっけ?」
「うん、それまでは特に何もないよ。レポートとかあるけど」
「なるほどね」
「まぁ、ゆったりしながら5限まで過ごすことになるかな」
「俺もしばらく暇だし、ここが喧騒にならなかったら、今日はここでゆっくりしようかな」
教授が何時間、もしくは何日間を想定してゼミ生を送り出したのかさっぱり分からない。つまり、いつ帰ってくるかも分からない。それまでは2人でゆったりの時間。と言いつつも、時刻は昼。お腹が空いていたので、提案する。
「お昼、食べにいくか」
「そうだね! 行こっか」
2人で荷物を持って食堂に向かう。何気に久しぶりな気がする。扉を開けて、研究室を出て、研究棟のエレベーターに乗る。比較的新しいタイプのエレベーターで、なかなかの速度で1階まで降りていく。
扉が開いたら降りて、研究棟からも出る。2限が終わりかけている構内は少しだけ人がいたが、そんなに人だかりができている雰囲気はない。朝の学祭に関する騒ぎは結局どうなったのだろうか。2限に出た仁に聞いてみる。
「そういえば、あれから学祭の騒ぎって2限の前はなんかあったの?」
「なんかすごい人だかりになってた。中止だとかなんだとかってわちゃわちゃしてたよ」
「なるほどね」
「賢は教授からなんか聞いてないの?」
「鋭いな。もう中止の内示が出てるってさ」
「じゃあデートしようよ!デート!」
「おう、デートしような」
今度は逆に仁の方からぐいぐい来る形になった。それに応じる形で返答する。学祭は中止。つまり3日間は暇になる。最近卒論を始めたゼミ生は間違いなく研究室に缶詰になるだろうけれど、気にすることはない。そんなことを話したり考えたりしているうちに、食堂に着いた。
2限がまだ終わっていないということもあって、席には余裕があった。2人で食券を買って、ご飯をもらいにいく。賢は定食で、仁はラーメンだった。2人で向かい合って椅子に座って、ご飯を置く。2人とも食べ始めようとしたところで、仁がつぶやく。
「賢と最初にまともに話をしたのも確かこの席だった気がする」
「そうだったか?」
「多分、だけど」
「確かに見える景色は似てるな」
「あの時からもう、何ヶ月も経ってるんだね」
「そうだなぁ、早いな」
「本当に早いなぁ」
あの食堂での邂逅からもう半年が経過していた。あの頃はまだ仁も敬語だったし、そもそも恋人ですら無かった。もっと言えばあの頃は賢が仁を認識し始めたくらいのタイミングだったはずだ。つまり、半年前の今頃は、こんなに仲良くなかったし、こうなることもお互いに分かっていなかった。少しだけ、しみじみする。そんなことを考えていたら、仁はラーメンを食べ始めていた。
「ご飯、食べないの?」
「食べるよ!考え事してた」
「そっか」
「うむ、食べよう」
目の前にある定食を食べる。いつも通りの味。いつも通りの安定した美味しさ。ゆったりと食べ進めていく。
最近は仁という恋人もできて食生活に気を使い始めた。その影響で少しだけ食べる量が減り、目の前の定食を食べるとお腹いっぱいになった。仁はそれに気付いた様子もなく、麺を食べ進めていく。今日はラーメンのようだが、うどんだったりすることもあった気がする。ほどなくして仁も食べ終わった。
手を合わせて、食器を持って流し台へ。2人とも流して、食堂を出る。その頃には2限も終わっていて、1回目のラッシュに入ろうというところだった。既に出来つつある人混みを避けながら、2人で研究室へと戻っていく。
「このあとどうする?」
「俺はひと段落ついたしゆっくりする予定だよ」
「そっか、じゃあ俺はその横でレポートでも書こうかな」
「おう、頑張れ」
「分からなかったら質問しようかな」
「頑張って答えられるようにするぞ」
2人で研究棟に入って、エレベーターに乗る。ほどなくして2階に上がり、そこから少し歩いて研究室。さっき出てくるために開けた扉を、今度は入るために開ける。
「ただいま」
「おじゃまします」
仁が5限までレポートをやるというので、賢はその横でゆったりしようと決めた。せっかくなら2人でいる方が、楽しいから。
「そういえば」
「はい」
ひと段落したところを狙ったのか、はたまた偶然なのかはさっぱり分からないが、教授がもう一度顔を出してきた。ここ最近の喧騒が嘘かのように静かな研究室に、教授の声がやけに響いた。
「仁くん、うちの研究室に来たいらしいんだけど、なんか聞いてる?」
「えぇ、まぁ」
「期待しておくよ」
「恐れ入ります」
「困ってたら支えてあげて」
「はい」
唐突な話題すぎて返答が正しいのかすら分からなかったが、優しい人で良かったと思うしかない。
しばらく2人とも一歩も動かなかったが、そういえばというところで賢からも話題を出す。
「そういえばこれ、直し終わったんでお願いします」
「はいよ、ところで」
「はい、なんでしょう」
「これ終わったらしばらく来ないのか?」
「まぁ、そうなりますかね。どうでしょう。教授はあいつらの対応に追われるでしょうし」
「ははは、なんとかしたいんだが」
「頑張ってください」
「言葉だけ受け取っておくよ」
苦笑しながら卒論を受け取る教授。あの騒がしさを思い出したからなのか疲れた顔になった教授は、教授室に戻っていった。時間は11時45分になっていた。
まだかまだかという気持ちに押されて、時計を見る頻度が増える。それだけ仁が大きな存在になっているということなのだろう。卒論もひと段落で何もすることがなくなった。冷房で涼しくなった研究室で、仁を待つ。ここ最近では一番静かであろう空間で。
「おじゃましまーす」
「きた!」
11時55分ごろ、研究室の扉が開く。それと同時に聴き慣れた声も聞こえる。思わず飛び出しそうなほどの姿勢と声が出てしまう。仁も少しだけ驚いた顔をする。
「どうしたの」
「暇で暇でしかたなかったんだよ」
「卒論の修正は?」
「終わって、もう教授に出したよ」
「なるほどね」
飼い主を待っていた犬のように抑えきれずに飛び出してきた賢に仁は少しだけ押されていた。しかし、不快な感じはないようだった。賢は飛び出したことを反省しつつも、安堵していた。気持ちを落ち着けてから、椅子に座る。
「あとは5限だっけ?」
「うん、それまでは特に何もないよ。レポートとかあるけど」
「なるほどね」
「まぁ、ゆったりしながら5限まで過ごすことになるかな」
「俺もしばらく暇だし、ここが喧騒にならなかったら、今日はここでゆっくりしようかな」
教授が何時間、もしくは何日間を想定してゼミ生を送り出したのかさっぱり分からない。つまり、いつ帰ってくるかも分からない。それまでは2人でゆったりの時間。と言いつつも、時刻は昼。お腹が空いていたので、提案する。
「お昼、食べにいくか」
「そうだね! 行こっか」
2人で荷物を持って食堂に向かう。何気に久しぶりな気がする。扉を開けて、研究室を出て、研究棟のエレベーターに乗る。比較的新しいタイプのエレベーターで、なかなかの速度で1階まで降りていく。
扉が開いたら降りて、研究棟からも出る。2限が終わりかけている構内は少しだけ人がいたが、そんなに人だかりができている雰囲気はない。朝の学祭に関する騒ぎは結局どうなったのだろうか。2限に出た仁に聞いてみる。
「そういえば、あれから学祭の騒ぎって2限の前はなんかあったの?」
「なんかすごい人だかりになってた。中止だとかなんだとかってわちゃわちゃしてたよ」
「なるほどね」
「賢は教授からなんか聞いてないの?」
「鋭いな。もう中止の内示が出てるってさ」
「じゃあデートしようよ!デート!」
「おう、デートしような」
今度は逆に仁の方からぐいぐい来る形になった。それに応じる形で返答する。学祭は中止。つまり3日間は暇になる。最近卒論を始めたゼミ生は間違いなく研究室に缶詰になるだろうけれど、気にすることはない。そんなことを話したり考えたりしているうちに、食堂に着いた。
2限がまだ終わっていないということもあって、席には余裕があった。2人で食券を買って、ご飯をもらいにいく。賢は定食で、仁はラーメンだった。2人で向かい合って椅子に座って、ご飯を置く。2人とも食べ始めようとしたところで、仁がつぶやく。
「賢と最初にまともに話をしたのも確かこの席だった気がする」
「そうだったか?」
「多分、だけど」
「確かに見える景色は似てるな」
「あの時からもう、何ヶ月も経ってるんだね」
「そうだなぁ、早いな」
「本当に早いなぁ」
あの食堂での邂逅からもう半年が経過していた。あの頃はまだ仁も敬語だったし、そもそも恋人ですら無かった。もっと言えばあの頃は賢が仁を認識し始めたくらいのタイミングだったはずだ。つまり、半年前の今頃は、こんなに仲良くなかったし、こうなることもお互いに分かっていなかった。少しだけ、しみじみする。そんなことを考えていたら、仁はラーメンを食べ始めていた。
「ご飯、食べないの?」
「食べるよ!考え事してた」
「そっか」
「うむ、食べよう」
目の前にある定食を食べる。いつも通りの味。いつも通りの安定した美味しさ。ゆったりと食べ進めていく。
最近は仁という恋人もできて食生活に気を使い始めた。その影響で少しだけ食べる量が減り、目の前の定食を食べるとお腹いっぱいになった。仁はそれに気付いた様子もなく、麺を食べ進めていく。今日はラーメンのようだが、うどんだったりすることもあった気がする。ほどなくして仁も食べ終わった。
手を合わせて、食器を持って流し台へ。2人とも流して、食堂を出る。その頃には2限も終わっていて、1回目のラッシュに入ろうというところだった。既に出来つつある人混みを避けながら、2人で研究室へと戻っていく。
「このあとどうする?」
「俺はひと段落ついたしゆっくりする予定だよ」
「そっか、じゃあ俺はその横でレポートでも書こうかな」
「おう、頑張れ」
「分からなかったら質問しようかな」
「頑張って答えられるようにするぞ」
2人で研究棟に入って、エレベーターに乗る。ほどなくして2階に上がり、そこから少し歩いて研究室。さっき出てくるために開けた扉を、今度は入るために開ける。
「ただいま」
「おじゃまします」
仁が5限までレポートをやるというので、賢はその横でゆったりしようと決めた。せっかくなら2人でいる方が、楽しいから。
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