軌跡 Rev.1

ぽよ

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6章

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「さてと、風呂に入ってゴロゴロするか」
「そうだね」

 美味しいハンバーグを食べて部屋でゴロゴロすること1時間。少しだけ暑かった気温も下がり、過ごしやすくなってきたところでお風呂に入るモチベーションがやっと復活した。光熱費と水道代を安く済ませたいということもあり、2人で入る。
 特に何かがあるわけでもなく、いつも通りの風呂。ただ少し狭いことを除けば、特に不便な点はない。シャワーを浴びて、頭を洗って体も洗って。少しずつ準備をするというアドバイスに基づいて、シャンプーとか体を洗うタオルは持ってきた。常備しておけば困ることは恐らくないだろう。今日はゆっくりする。けれど、湯船には浸からない。二人で浸かれるほど広くないという現実もあれば、掃除が完全に終わってないことも一つだった。 
 まだまだ湯船が綺麗じゃなかった。そんなこんなをしているうちに頭も体も洗い終わり、二人で風呂から出る。濡れた頭と体を拭いてから、寝巻きに着替える。

「はー、ひと段落」
「後は寝るだけだね」

 賢はベッドに、仁は布団の上に座りながら、お茶を飲んで一息つく。コップを机の上に戻したタイミングで、ふと賢に話しかけられる。

「仁は、これからどうしていきたい?」
「どうしていきたい?恋人でいたいけど」
「結婚とかは考えてるのか?」
「まぁ、多少はね」
「今の日本だとまだまだ同性婚は遠い」
「まぁ、それはそうだけど」
「でも、諦めるのはしたくねえ」
「うん」
「仁と一緒にできるなら、そういう運動もしていきたい」
「うん、え?」
「流石に二人だと無理だから、色々と巻き込むことにはなるんだろうけど」

 賢は淡々と話をしていたが、仁は混乱していた。何気なく続いていく日常が変わる瞬間。結婚。それは、日本なら異性でするのが本来の制度だと認識していた。
 最近は同性結婚についても議論され始めているが、まだまだ現実に追いついていない。一番現実だと思える空間で、一番現実とは程遠い話についてだった。
 イマイチ話を噛み砕けていないのだけれど、それについては今後も話を詰めていくことになるのだろう。今の時代の婚姻制度を根本から変えることになる。それだけはまだ分かる。だからこそ、難しいどころの話ではないことも分かっている。ぼんやりながら、仁は考えていた。

「同性結婚、俺たちが生きているうちにできなくても、未来の人たちができるようになれば、進歩だと思う」
「確かに。長い目で見れば確かにそうだ。しかし、今にでも変えるという意識がないとみんな動いてくれないというのもある。難しいところだ」
「なるほど、それはそうだ」
「ま、その辺も含めて色々とな」
「うん」

 何気ない日常の中で感じる、同性愛者の肩身の狭さ。それを少しでも広くするというのは、やはり大事になってくる。誰も広くしてくれないのなら、自分で広げる努力をしてみるのも、また一つ。
 大学生になって、できることが増えた。だからこそ、やりたいことがある。これから賢と過ごしていく中で、未来を見据えて動いていくことも大事だ。そのための準備を今しておくのも、当然大事なこと。堅実で、盤石な体制を。未来のあれこれを考えていたら、難しい顔をしていたようで、賢に心配された。

「大丈夫か?まぁ、俺から話を振ってしまったのはあるけど、色々様子見ながらやっていくから、そんなに心配とか考え事とかしなくても大丈夫だよ」
「あ、うん。ありがとう」
「おうよ」
「なんだか眠くなってきた」
「最近俺も仁もバタバタしてたり忙しかったりしたからな。昼寝したけど、明日に備えて寝るか」
「明日って、何するの?」
「まだ何も考えてない」
「はーい」

 明日はデート。ご飯の後ゆっくりするというのはちょっと崩れてしまったけれど、明日は多分ゆっくりできるはずだ。何もない日曜日。ゴロゴロしたり、散歩に出たりする二人の時間に心を躍らせながら、仁は布団の中に潜っていった。
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