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6章
三日目
しおりを挟む枕の横に置いてあるスマートフォンの画面を付けて今の時間を確認する。スマートフォンの時計は7時を表示していた。
ベッドの上から起き上がるか悩む。もう少し寝ていてもいい気はするが、歯を磨きたい気持ちも無いわけではない。
スマートフォンの画面を睨むだけの時間が過ぎていく。季節は少しずつ秋に変化している。朝の気温でそれがわかる。クーラーをつけなければ寝られなかった夜も、少しずつ無くなってきている。つまり、それだけ時間が立っているということなのだ。
仁と恋人になってから今で半年ほどが経過している。ここまで喧嘩なく歩んできた。それはとてもいいことのようで、少しだけ怖い。何か我慢をさせていたりしないか。ということが気になっていた。
最近は仁と一緒にいられることだけを考えていたが、それは果たして正しいことなのかということも含めて、仁ともう一度話してみてもいいかもしれない。ベッドから上半身だけを起こした状態で動かずにいたら、仁が起きた。
「おはよー」
「おはよう、早起きだな」
「賢も早起きでしょ」
「二度寝しようか迷っているところだ」
「なるほどね」
「何時から出るかによっては今から準備してもいいんだがな」
「もうちょっとゆっくりでもいいと思うよ。今7時だし」
「そっか、まぁそうだな。もうちょっと寝るか」
「うん、もうちょっとだけね」
昨日の夜は23時ごろまで色々と話し込んだが、あれやこれやと踏み込んだ話は一切していない。趣味や楽しい話をしていた。いつも思うだけで終わっていたが、今日こそ仁と真面目な話をしなければいけない。じっくりと考え事をしていたが、その間にも仁は二度寝に入っていた。賢もそのままもう一度寝ることにした。
次に起きた時にはスマートフォンが9時を表示していた。どうやら2時間ほど寝ていたらしい。仁はすでに起きていたらしいが、ちょっと眠そうだった。しかし、布団からは完全に出ていて、今から歯磨きに出ようというところだったようだ。賢もそれに続いて洗面台へと向かう。
「今日は本屋だったよね」
「そうだな。まぁ、ゆっくり見れる時間があるうちに見ておきたいし」
「また卒論関係で忙しくなるの?」
「ま、発表の資料作りだ」
「なるほど」
「12月までには片付ける」
「はーい」
洗面台で歯を磨きながら今後の予定の話をする。おそらくながら、また卒論絡みでバタバタするだろう。その間はまた研究室に入り浸ることになる。仁といられる時間も少なくなるだろうが、それも仕方ないことだ。
歯を磨き終わってから、部屋に戻る。2人で服に着替えてから、仁は布団を畳む。鞄の準備をしたところで、ひと段落。
「そういえば、朝ごはん食べてない」
「確かに。食べるか」
「これでいいかな」
「俺はこれにしよう」
キッチンに吊ってある袋を部屋に持ってくる。袋の中を見てパンが入ってることを確認して、食べるものを選ぶ。仁も袋の中を覗きながら選んでいた。
賢はカレーパン、仁はクリームパンにした。スーパーのパンコーナーで買ってきたものだが、味は悪くない。普通に食べると普通に美味しい味だ。2人ともパンを食べ終わった後、いよいよ出る準備をした。
「そろそろ行くか」
「うん、行こっか」
立ち上がり、鞄を持ち、玄関へと歩いていく。ドアを開けて、外に出て鍵を閉める。
2人で歩きながら駅に向かう。こんな時間がずっと続けばいいのにと思う5連休も、いよいよ3日目。折り返しを迎えた。今日を除けば後2日でまた大学に通う日々が始まる。そのことも頭に入れながら動く必要があるだろう。駅までの道は、少しだけ暖かかい。できるうちに、できることをやろう。そのうちのひとつがこのデートだった。
「本屋かぁ、久しぶりかも」
「俺も最近行ってなかったな」
家を出て駅に向かう途中でそんな会話をする。図書館にある本をずっと読んでいると本屋というものの存在すら忘れてしまうほど、大学の図書館というのは規模が大きい。しかし、全てが揃っているわけではない。話題の文庫本や娯楽の本が常に置いてあるわけではないのだ。そんな時に、本屋に行く。読みたい本をそこで探すのだ。
家を出て川沿いをしばらく歩けば駅に着く。駅に入り改札を抜けてホームに出る。いつも通りの動き。
「電車来たね」
「今日は月曜日だからな」
「そういえばそうだった。月曜日かー」
「普段なら授業だな」
「うん、そうだね」
「休みというのは素晴らしい」
「ゆっくりできるもんね」
「そういうことだな」
目の前に来た電車に乗って、座席に座る。通学ラッシュの時間帯だが、大体の学生はこの駅で降りる。だから電車は空いていることになる。今の電車には、2人以外はほとんど乗り合わせていなかった。
「なんか思ってたより人が少ないな」
「仕事の人とか結構いそうだけどね」
電車に揺られながら話をする。平日の朝ということを考えれば少し異様なほど乗車率が低かった。しかし、それは広いスペースを使えるということであり、心理的に余裕ができるということでもある。電車に揺られること10分。降りる駅に到着した。
「さてと、降りるか」
「乗り換え?」
「乗り換えだな」
「はーい」
かなり都会の駅の方まできた。しかし、この街に本屋はない。乗り換えてまたそこから15分ほど電車に乗る。駅の中を移動しながら、朝の街を見渡してみる。商業施設が開き始めたり、食べ物屋さんもそろそろ準備に取り掛かっている。
駅の中を抜けて別の路線の乗り換えの駅へ進んでいく。普段の生活では見ない風景がそこには広がっていて、少しだけ新鮮だった。そして乗り換えの駅に到着してから、また同じことをする。改札を抜けてホームに出て電車を待つ。
「ここから何駅くらい?」
「7駅かな?多分」
「はーい」
目の前に電車が来た。2人で乗って、しばらく揺られる。電車に乗ってる間は何も考えなくていい。ゆっくりと時間の流れを楽しもうと思ったところで、仁に話しかけられた。
「次降りる駅だよ」
「あれ、もうそんな時間か」
電車とは時に優雅であり、時に残酷である。駅に到着した電車のドアが開く。2人で降りる。さっき降りた駅とは対照的にかなりの人混みの中に降りることになった。
ホームに出た後、階段を登り迷子になりながら改札を抜ける。駅の中にはコンビニ、食べ物屋、お土産屋などが並んでおり、さすが有数の都会だと思った。
「本屋はどっち?」
「本屋はあっち」
改札を抜けてから左の方向を指差す。自分が指差している方向が、何の方角かはさっぱり分からないけど、そっちに本屋があることだけは知っている。そんな時に、仁が話しかけてくる。
「どうしたの?行かないの?」
「いや、行こう。そういえばあっちって方角で言えばどこなんだろうなと思っただけだよ」
「あーなるほど。それは俺も分からないなぁ。まぁでも、いいんだよ。着けばなんとかなる! 」
「そうだな。行くか」
2人で本屋のある方向へと歩いていく。楽しい3日目のデートはまだまだ始まったばかり。仁の文庫本の趣味はどういうものなのだろうか。それを知るのが楽しみになってきた。
本屋でお互いのおすすめの本を見せ合うというのも良いかもしれない。仁と2人で歩きながら、そんなことを考える、3日目の始まり。
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