軌跡 Rev.1

ぽよ

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7章

日常を紡ぐ中で

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 沸かしたお湯を入れたカップ麺を食べる。何の変哲もない安定した味のカップ麺。二人で食べながら、明日からのことを話す。

「いただきます」
「いただきます」
「明日からまた大学かぁ」
「授業が始まるな」
「めちゃくちゃ久しぶりだからなんか忘れてそう」
「レポートさえ出してれば大体何とかなるよ」
「そうかなぁ」
「テストに寝坊とかしなければね」
「あー、確かに」
「ま、大丈夫だよ。大体なんとかなる」
「うん、頑張る」

 明日からはまた大学が始まる。5連休なんてなかなかない。体が完全に鈍ってそうではあるけど、授業も始まる。賢も明日から毎日研究室に行くことになるだろう。
授業の合間にまた行くことが増えるだろう。休みだったからあの喧騒の中だと違和感を覚えたけれど、授業が始まればそんなこともなく意外と居心地がいいのかもしれない。
 昼食を食べながら、ぼんやりと考える。カップ麺を食べ終わり、ひと段落ついた時には賢はもう食べ終わっていた。空になった容器を廊下のゴミ箱に捨ててから、もう一度部屋に戻ってくる。座り直して何事もないかのようにゆったりと過ごす。

「しかしまぁ、充実した休みだったな」
「いろんなことができたもんね」
「そうだな。それが一番大きい」

 二人で何もしないまま時間だけが過ぎていく。しかし二人とも何も焦らず、ただただゆっくり時間が過ぎ去るのを感じる。ふとそんな時に賢に聞いてみる。

「午後からってなんか予定ある?」
「なーんもないよ」
「なんもないか。俺も何もないよ」
「いいじゃん。どうせ明日から大学だし、のんびりしようぜ」
「うん、そうしよう」

 5日目の今日は午前中に出かけたくらいで、それ以外は何もしていない。しかし、それもまた一つの過ごし方。賢との関係性や過ごし方も少しずつ変わってきている気がする。この二人の関係が、いつまでも続いていくのなら自分も変わっていかなければならない。昼になっても全く変わることのない外の景色を見ながら、そんなことを考えていた。
 2人で部屋で思い思いの過ごし方をすること数時間。やけに外が暗い。気がつけば時計は17時を表示していた。

「もう夕方かぁ」
「なんか出かけなくてもあっという間だったな」
「本当だね」
「明日から俺も研究室だ」
「頑張って!」
「ありがとう」

 苦笑いする賢を見ながら、仁も明日から授業であることを思い出す。今日はただひたすらゆっくりゆったり過ごしていたけれど、明日からはドタバタするそのことを考えると、少しだけ憂鬱な気もする。しかし、これから勉強することや研究することが少しずつ見えてきてやる気が満ちているのも感じている。自分でもよく分からないけれど、やる気があるのはきっといいことだと言い聞かせる。
 スマートフォンを操作して友人や実家への事務連絡を済ませる。そしてまた、何事もなくゆっくりする。そんな時に、ふと賢に話しかけられる。

「そういえばさ」
「うん、どうしたの?」
「最近、襲ってないし襲われてないなって思ったんだよ」
「え?あぁ、まぁ、うん」
「だから、今から襲ってもいい?」
「え?あぁ、え?」
「ダメか?」
「え、別に困らないけど」
「じゃあとりあえず風呂だな」
「え?あぁ、うん」

 賢に流されるままお風呂に行く。シャワーで流すだけかと思っていたが、どうやら本格的に風呂のようだ。

「特に汗をかくことがなければ、時間てきには早いけどこの風呂で今日はいいかなぁと思ってるから」
「え?あぁ、うん」

 何一つ状況を理解していないが、お風呂なのでとりあえず服を脱いで中に入る。二人で風呂に入っていつものように頭と体を洗う。そして何事もなく終わり風呂から出る。いつも通りの寝巻きになって部屋に戻ったところで賢に呼ばれた。どこから声がしているのか分からないと思ったら、賢はベッドの上だった。

「おいで」
「うん」

 少ない会話だが、仁は緊張していた。ベッドに横になると、馬乗りになる形で賢がいた。そして気がつくとズボンもパンツも脱がされていた。

「なんかすごく久しぶりな気がする」
「いつぶりかなぁ」
「夏くらい?」
「かもしれない」

 仁にはそんなことを考えている余裕はなかった。気がつけば賢に襲われていて、少しずつ増してくる快感になんとか抗おうとしていた。最初はそうでもなかったはずが、徐々に快感が体を包む。

「ちょ、ちょっとストップ!」
「んー?」
「あっ、ちょっと、ダメ」

 体の中心から脳天に向かって突き抜けるような快感の末に果ててしまった。前回とは全く違うそれだった。
 その後の脱力感を感じながら何もしないままぐったりとする。

「結構出たな」
「まぁ、最近してなかったしね」
「それもそうか」
「というかなんか前より上手くなってた気がする」
「それは多分気のせいだよ」
「本当かなぁ」

 いつのまにか用意されていたティッシュで賢に掃除をされながら、会話をする。自分一人でする時よりも遥かに快感が強かった気がする。これもまた技術の一つなのか、なんてことを考える。そして、考えながらも賢に話しかける。

「仕返ししたいけど、今はちょっと無理だ」
「かなり強めに果ててたしね」
「やっぱり?」
「うん、まぁ」
「まぁ、次仕返しする時は覚悟してて?」
「え、ちょっと」
「ふふふ」

 少しずつ意識が戻ってくる中で、そんな会話もする。夕方からもうすぐ夜になる。晩御飯の前に風呂に入ろうか悩む。思っていたより汗をかいた。掃除が終わってからベッドから降りた賢に続き、仁もベッドを降りる。

「そう言えば今日のご飯何?」
「なーんも決めてない」
「パスタ?」
「いやー、それは避けたいな」
「じゃあ、今から買い物?」
「そうだな。行くか」
「その前に風呂だけ入る」
「はいよー、了解」

 賢に律儀に戻してもらった服を脱ぎながら風呂へと向かっていく。その時に思っていたことを賢に伝える。

「そういえばさ」
「うん、どうした?」
「これくらいゆったりした時間がずっと続けばいいなって今日改めて思った」
「あぁ、そうだな。こういう時間が取れる時は積極的に取る方がいいかもしれない。また冬休みもあるし、こういう時間を過ごせたら、楽しくなるだろうな」
「やっぱりそう思う?」
「おう、思うぞ」
「年始の同棲に向けて色々頑張らなきゃいけないけど、たまにはゆっくりしようね」
「そうだな。あ、俺も一緒に風呂入るわ。俺もなんだかんだで汗をかいてるし」
「了解」

 その言葉の後、冷蔵庫を閉めてから賢も服を脱ぎ始める。今日2回目のお風呂だった。
 明日から大学が始まっても、この先同棲が始まっても、賢が社会人になっても、今と同じ幸せな日常が続いていきますように。2人でお風呂に入っていきながら、仁はそんなことを考えていた。
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