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あなた
11話
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スマートフォンの時計が9時を表示した頃、先輩が立ち上がりながら言葉を発した。
「さて、そろそろ行きましょうか」
「そういえば、どこ行くんですか?」
「適当に喫茶店でいいんじゃない?」
「服とか見に行くのかと思ってましたけど」
「それでもいいけど、夏服は別に着こなせるタイプじゃないのよ、私」
「なるほど」
先輩はスタイル自体は悪くない。しかし、服に興味があるタイプに見えるかと言われると、そんなことはなさそうだった。毎年服を買ってう服を着てるというようなタイプではない。しかし、何を着ていても似合っていた。その姿をここ何年も見てきた莉子にはそれがわかっていた。
準備も終わって立ち上がり、玄関へと向かう。そこに立ついつもと違う先輩に、莉子はドキッとした。
「あら、どうしたの?」
「先輩、私服はそんな感じなんですね」
「まぁ、誰かと出かけるときはそれなりに頑張るわよ」
「仕事の服ってほとんど同じですか?」
「まぁそうねえ。仕事行って帰るだけなら最低限でも間に合うし」
「なるほど」
普段の仕事の様子と似たような雰囲気を出しながら家の鍵を閉める。その時見えた先輩の顔は、いつも通りの顔だった。でも、どこか楽しそうな顔だった。
先輩の家を出てしばらく歩くと、昨日小倉と合流したコンビニがあった。そこをそのまま通過して、駅の反対側に出て少し歩くと、そこには喫茶店があった。
「こんなところに喫茶店なんてあったんですね」
「私はたまーに来るわよ」
「あら、そうなんですか」
「コーヒー飲みながらだらだらするの。何も考えなくていいから楽よ」
適当に歩きながらそんなことを言う先輩だが、その歩く姿は慣れていた。
扉を開けるとベルが鳴る。来店を知らせる昔からのシステムだ。土曜日の朝の喫茶店は思っていたより人が多かった。
「2人で」
「ご案内します」
先輩を見るなり駆け寄ってきたウェイターに人数を告げると、先輩は歩き始めた。遅れないために後ろをついていき、ウェイターと先輩が立ち止まったところで忘れず立ち止まる。
「先輩、あのウェイターさんと仲良いんですか?」
「この前連絡先聞いたわ」
「なんでナンパみたいなことしてるんですか」
今度は悪戯っぽく笑っていた。メニューを開きながら何を頼むか悩む。
結局頼むものはアイスココアに決めて先輩に伝えると、呼び出しのベルを押した。
「私はアイスココアで」
「私はカフェラテで」
手短にオーダーを伝えると店員はすぐに戻っていった。喫茶店は少しずつ人が入っていく。これから昼に向けてピークが来るだろう。何時間いられるかは運次第だ。
先輩と2人で来たところで特にやることがあるわけでもなく2人ともスマートフォンを操作していた。喫茶店の中は騒がしくない。飲み物が来るまでは落ち着いていた。
乗り物が運ばれてくると、先輩がここぞとばかりに話し始めた。
「莉子ちゃんは小倉のことどう思う?」
「まぁ、悪くないとは思いますけど」
「そっかぁ。まぁあいつは無難な人間だからね」
苦笑しながら呟く先輩の顔は少しだけ寂しそうだった。過去には恋人だった人のことを思いながら話すというのは、やはり辛いことなのだろうか。今まで恋人ができたことのない莉子にとっては分からないことだった。
仕事のことを話し、人生相談もしながら進む喫茶店での女子会。もはや昨日の続きのような気がする。
「そういえば、この後の予定ってどうするんですか?」
「なーんにも決まってないわよ。なんかしたいことある?」
「うーん、私も特にないです」
「じゃあ、喫茶店を出たら莉子ちゃんの家に行こうかな」
「え?」
「なんか困る?」
「え、いや別に大丈夫ですけど。何もないですよ?」
「気にしないわ」
今の部屋は果たして掃除をしていただろうか。そのことを気にしつつも、先輩との話に耳を傾ける。色んなことを経験してきたのであろう話題の幅広さは、尊敬の域だった。
2時間ほど話し込み、スマートフォンの時計が11時40分ごろを示していた時、先輩が立ち上がった。
「ちょっとお手洗いに行ってくる」
「あ、分かりました」
何事かと思ったが、身構えるほど重大なことにはなっていないらしい。先輩が来て大丈夫だろうか。来客用の布団はある。寝巻きもなんとかある。ご飯は買えばなんとかなる。色んなことを考えるだけ考えて、考えるのをやめた。なせばなる。どうせ来るのが先輩なら、特に困ることもないだろう。そう言い聞かせて、心臓の高鳴りを抑えた。
「さて、そろそろ行きましょうか」
「そういえば、どこ行くんですか?」
「適当に喫茶店でいいんじゃない?」
「服とか見に行くのかと思ってましたけど」
「それでもいいけど、夏服は別に着こなせるタイプじゃないのよ、私」
「なるほど」
先輩はスタイル自体は悪くない。しかし、服に興味があるタイプに見えるかと言われると、そんなことはなさそうだった。毎年服を買ってう服を着てるというようなタイプではない。しかし、何を着ていても似合っていた。その姿をここ何年も見てきた莉子にはそれがわかっていた。
準備も終わって立ち上がり、玄関へと向かう。そこに立ついつもと違う先輩に、莉子はドキッとした。
「あら、どうしたの?」
「先輩、私服はそんな感じなんですね」
「まぁ、誰かと出かけるときはそれなりに頑張るわよ」
「仕事の服ってほとんど同じですか?」
「まぁそうねえ。仕事行って帰るだけなら最低限でも間に合うし」
「なるほど」
普段の仕事の様子と似たような雰囲気を出しながら家の鍵を閉める。その時見えた先輩の顔は、いつも通りの顔だった。でも、どこか楽しそうな顔だった。
先輩の家を出てしばらく歩くと、昨日小倉と合流したコンビニがあった。そこをそのまま通過して、駅の反対側に出て少し歩くと、そこには喫茶店があった。
「こんなところに喫茶店なんてあったんですね」
「私はたまーに来るわよ」
「あら、そうなんですか」
「コーヒー飲みながらだらだらするの。何も考えなくていいから楽よ」
適当に歩きながらそんなことを言う先輩だが、その歩く姿は慣れていた。
扉を開けるとベルが鳴る。来店を知らせる昔からのシステムだ。土曜日の朝の喫茶店は思っていたより人が多かった。
「2人で」
「ご案内します」
先輩を見るなり駆け寄ってきたウェイターに人数を告げると、先輩は歩き始めた。遅れないために後ろをついていき、ウェイターと先輩が立ち止まったところで忘れず立ち止まる。
「先輩、あのウェイターさんと仲良いんですか?」
「この前連絡先聞いたわ」
「なんでナンパみたいなことしてるんですか」
今度は悪戯っぽく笑っていた。メニューを開きながら何を頼むか悩む。
結局頼むものはアイスココアに決めて先輩に伝えると、呼び出しのベルを押した。
「私はアイスココアで」
「私はカフェラテで」
手短にオーダーを伝えると店員はすぐに戻っていった。喫茶店は少しずつ人が入っていく。これから昼に向けてピークが来るだろう。何時間いられるかは運次第だ。
先輩と2人で来たところで特にやることがあるわけでもなく2人ともスマートフォンを操作していた。喫茶店の中は騒がしくない。飲み物が来るまでは落ち着いていた。
乗り物が運ばれてくると、先輩がここぞとばかりに話し始めた。
「莉子ちゃんは小倉のことどう思う?」
「まぁ、悪くないとは思いますけど」
「そっかぁ。まぁあいつは無難な人間だからね」
苦笑しながら呟く先輩の顔は少しだけ寂しそうだった。過去には恋人だった人のことを思いながら話すというのは、やはり辛いことなのだろうか。今まで恋人ができたことのない莉子にとっては分からないことだった。
仕事のことを話し、人生相談もしながら進む喫茶店での女子会。もはや昨日の続きのような気がする。
「そういえば、この後の予定ってどうするんですか?」
「なーんにも決まってないわよ。なんかしたいことある?」
「うーん、私も特にないです」
「じゃあ、喫茶店を出たら莉子ちゃんの家に行こうかな」
「え?」
「なんか困る?」
「え、いや別に大丈夫ですけど。何もないですよ?」
「気にしないわ」
今の部屋は果たして掃除をしていただろうか。そのことを気にしつつも、先輩との話に耳を傾ける。色んなことを経験してきたのであろう話題の幅広さは、尊敬の域だった。
2時間ほど話し込み、スマートフォンの時計が11時40分ごろを示していた時、先輩が立ち上がった。
「ちょっとお手洗いに行ってくる」
「あ、分かりました」
何事かと思ったが、身構えるほど重大なことにはなっていないらしい。先輩が来て大丈夫だろうか。来客用の布団はある。寝巻きもなんとかある。ご飯は買えばなんとかなる。色んなことを考えるだけ考えて、考えるのをやめた。なせばなる。どうせ来るのが先輩なら、特に困ることもないだろう。そう言い聞かせて、心臓の高鳴りを抑えた。
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