世界で一番遠い場所 Rev.1

ぽよ

文字の大きさ
2 / 40
邂逅

梨咲という人間

しおりを挟む
 大学の中でも少し小さめの講義室の中で英語の授業は行われる。梨咲のクラスも例に漏れずそれに該当した。小さめの講義室ながら特に席順は決まっておらず、毎回自由席で学生が好きな席に座る。
 20人ほどの少人数で行われる授業だが、各々が席に対してはこだわりは無いらしい。梨咲は今回後ろの壁側に座った。高杉のことが気になっていて、考える時間が欲しかった。

「結局何がしたかったのかな」

 高杉は、明るく溌剌とした印象を受けるがコミュニケーション能力がずば抜けて高いということは無さそうだった。梨咲に話しかけて来た時の敬語がその証拠だった。英語の授業はぼんやりと説明を受け流すように聞きながら適当にやり過す。授業が終わるチャイムがなって、学生がぞろぞろと講義室から出る。梨咲もその流れに乗って講義室を出た。ちょうど扉を出て左の壁に高杉が凭れていた。待ち伏せをされていたということだ。

「お疲れ」
「お疲れ様です」
「どうしたの」
「いや、うーん、あの」

 辿々しく話しかけてくる高杉。焦っているからなのか、敬語が抜けていた。しかし、分からないことがある。高杉の方が授業に行くのは早かったはずで、見送られたわけでもない。梨咲の授業の教室を知っていたとは思えなかった。ということは調べたということだろう。そこまでして会いたい理由には何かがあるのか。

「小宮さんはこのあとなんかあるの?」
「それ、さっきも聞いたんだけど。敬語抜けてるけど大丈夫?」
「あ、うん。大丈夫」
「あぁ、そう。次は空いてるよ。図書館にでも行こうか悩んでた」
「そっか」
「で、要件は何?」
「連絡先が欲しいなって」
「あぁ、うん。別にそれは構わないけど」
「ありがとう!」

 敬語が抜けた理由がいまいち分からない。講義室を出てすぐの所で立ち話をしながら連絡先の交換をした。大学生になってから作った大手のメールアドレスで、まだまだ使いこなしてるとはいえない。2年ほど前にリリースされたアプリのアカウントもあるけれど、まだ教える気にはなれなかった。そんなことをしている間に休み時間は足早に過ぎていき、そろそろ4限が始まろうかというところで、高杉は走り出した。

「急にごめんね!俺はこのあと4限あるから!またね!」
「あ、うん」

 そんなにゆっくり話す気が無かったのかもしれない。連絡先が聞ければ万々歳だったのか。それとも、もっと深いところまで話すつもりがあったのかもさっぱり分からない。梨咲としては悪い気持ちにはならなかったので気にしないことにした。高杉のことが少しだけ気になったが、大学の中にある図書館へと向かう。
 15時を過ぎた大学の構内は、梨咲が大学にいる時間帯の中で、一番活気がある時間だった。そんな構内を10分ほど歩けば図書館に着く。盗難防止用のセキュリティのゲートを抜けて2階への階段を登ればそこに広がるのは専門書のエリアであった。一歩間違えれば5分は迷う迷宮のような広さをしている。適当な席に着いたところで、スマートフォンが振動した。

「梨咲は教職取ってないんだっけ?」
「うん、取ってないよ」
「そっかー」
「そっちは取ってるんだっけ」
「まぁ、一応ね。次がそれだから、梨咲取ってたらなーって思って」
「あー、なるほど」
「そういうこと!じゃあ、頑張ってくる!」
「頑張って」

 大学で作った数少ない友人の一人から連絡が来ていた。どうやら4限は教職課程があるらしい。高杉が受ける4限の授業もそれだろうか。普段の会話には興味がなくても、高杉の動きには気になってしまう。ぼんやりと考えながらそのままの流れでスマートフォンを操作していた。
 図書館には通い詰めているというほどの頻度で行くわけではなかった。たまたま暇潰しで入った図書館が思いのほか居心地が良く、何かに集中したり、休憩するのに最適だった。大学が始まって一週間。特に高校と変化のない生活が、高杉が話しかけてきたことで少しだけ変わる気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

皇宮女官小蘭(シャオラン)は溺愛され過ぎて頭を抱えているようです!?

akechi
恋愛
建国して三百年の歴史がある陽蘭(ヤンラン)国。 今年16歳になる小蘭(シャオラン)はとある目的の為、皇宮の女官になる事を決めた。 家族に置き手紙を残して、いざ魑魅魍魎の世界へ足を踏み入れた。 だが、この小蘭という少女には信じられない秘密が隠されていた!?

一条さん結婚したんですか⁉︎

あさとよる
恋愛
みんなの憧れハイスペックエリートサラリーマン『一条 美郷(※超イケメン)』が、結婚してしまった⁉︎ 嫁ラブの旦那様と毒舌地味嫁(花ちゃん)....とっ!その他大勢でお送りしますっ♡ ((残念なイケメンの一途過ぎる溺愛♡))のはじまりはじまり〜 ⭐︎本編は完結しております⭐︎ ⭐︎番外編更新中⭐︎

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜

侑子
恋愛
 小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。  父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。  まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。  クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。  その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……? ※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

氷の宰相補佐と押しつけられた厄災の花嫁

瑞原唯子
恋愛
王命により、アイザックはまだ十歳の少女を妻として娶ることになった。 彼女は生後まもなく始末されたはずの『厄災の姫』である。最近になって生存が判明したが、いまさら王家に迎え入れることも始末することもできない——悩んだ末、国王は序列一位のシェフィールド公爵家に押しつけたのだ。

処理中です...