世界で一番遠い場所 Rev.1

ぽよ

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最後

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 高杉は何も言えずに、ただ梨咲の言葉をただ受け止めることしか出来なかった。しかし、高杉は言葉を失ったわけではなかったようで、少しずつ話し始めた。

「梨咲と結婚するって決めてから、色々考えててさ」
「うん」
「難しいことがいっぱいあってさ」
「うん」
「それで、色々考えてた」
「そっか」

 高杉の言葉を聞きながら、梨咲は言葉を反芻していた。結婚する上で難しいこと。梨咲も考えたことがないわけではない。しかし、そんなことはまだまだ先の問題だと思っていた。それに、難しいからこそ、相談することもできたはずだ。二人は同棲していたのだから。少しの沈黙の後、高杉が話し始める。

「俺たちがやってるのは学生の恋愛ごっこじゃないんだよ」
「そんなことは分かってるよ」
「いろんなことを考えなきゃいけない」
「それも分かってるよ。でも、会話はちゃんと返事してほしかった」
「ごめん」
「いいんだよ。もう」
「そっか」

 高杉は、全てを受け入れたように頷いてから言葉を発しなくなった。梨咲も全てを話し終え、部屋は異様なまでに静かになっていた。今までの日常で起きてきた高杉との全ての思い出に、終わりが来る。

「ごめん。ごめんね」
「うん」
「幸せになって」
「あはは、うん。頑張るよ」
「じゃあ、色々と準備しないとね」
「うん、そうなるね」

 高杉の言葉を聞きながら、最後の瞬間が来るということを、改めて実感した。
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