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私の心
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長岡。私の生まれ育った街。関東県の大都会ほど都会という街ではないけれど、何かをするには不自由しない街。そういう街だ。私も一度関東には出たことがある。埼玉の都会だった。長岡と同じくらいの都会だが、地元じゃないというだけですっきりとした気持ちで楽しむことができた。しかし、今はまた長岡に帰ってきている。人生色々あるものだ。地元に帰ってきて1年。激動の一年だった。そして落ち着きを取り戻し始めている今、友人と遊ぶ約束ができた。どうやら相手は長岡駅にはもう着いたらしく、少し急いで駅へと向かった。駅について改札前に行くと見たことのある友人が辿々しく手を挙げていた。
「久しぶりだね」
「前に来たのはいつだったかなぁ」
目の前の友人はそんなことを言いながら駅の中をくるくると歩き回る。自分もそれについていく形で歩く。相手は年上の男だが、デートでもなければ今流行りのパパ活でもない。どちらかと言えば現地のツアーガイドみたいなものだ。
「今日はあそこに行きたいかな」
「あー、あのゲームがあるところ」
「そうそう」
「バスに乗って20分で降りてから徒歩20分くらいかな」
「はいよ」
駅前のバス停に泊まっているバスに乗り込む。隣に乗り込んだ男を見ながら今でもかっこいいと思う。自分の横に座っているのはかつて好きだった人。今もその気持ちがないかと言われると嘘になる。しかし、その気持ちにはもう触れないことにした。友人として関わることができるのならそれでいい。自分にそう言い聞かせてきた。いつも見ている外の景色を見ながら20分。予定通りの時間で到着したバス停で降り、そこからは歩きだ。
「ここからどれくらい歩くの?」
「30分くらいかなー」
「そんなもんか」
「そんなもんよ」
今から向かうのはゲームセンター。前この人が来た時には行かなかった場所だ。いつもの歩き慣れた道を歩く。特に変わった話題があるわけでもなく、特に気まずい空気が流れるわけでもない。なんの変哲もない雑談をしながらゲームセンターへと歩いていく。舗装されたアスファルト、砂利道、横断歩道。いろんなところを歩くこと30分。いつもなら20分くらいだが2人で歩くと遅くなる、ということもあるのだろう。駐車場から入ってエレベーターで昇ればそこには見慣れた景色が待っていた。
「ここ広いね」
「まぁこの辺で言えば一番二番を争う広さだよ」
「なるほどねー。音ゲー探してうろうろしていい?」
「いいよ」
わざわざ東京からこんなところまで来て音ゲーをすると言うのだから、生粋の音ゲーマーなのだろう。それか旅行が好きなのか。一通り何の音楽ゲームがあるかを見て、やるゲームを決めたらしい。そのゲームをやっている間、自分はクレーンゲームをすることにした。何千円と溶かすことになってもいい。そこに楽しさが残ってくれるなら。取れてくれるならもっといい。値段が安く済むならもっと嬉しい。そんなこんなで苦戦して結局取れなかったと諦めたところで相手が帰ってきた。どうやら終わったらしい。
「どうだった?」
「うーん、なんかパネルが固いかも」
「パネルが固いとかあるんだ」
「あるんだよねー。固いと足壊したりするからやべーのよ」
「それはやばい」
店側のメンテナンス次第で体を壊すと言うのはもはや音ゲーの域を超えているのではないかと疑問もあったのだが、言わないことにした。そして、もう一種類だけやりたいゲームがあるというのでそれは後ろで見ていることにした。自分もやっているゲームだ。後ろからやっている動きを見る。自分がやっているゲームとは別のものなんじゃないかと言う譜面が流れている。そしてそれを何事もなくパーフェクトを出しているこの人は人間なのかと言うことも考える。15分ほどでそれも終わり、このゲームセンターに用事がなくなる。最後にクレームゲームとガチャガチャを見て回りながらエスカレーターを降りる。また2人で並びながら歩く。自分より20センチ以上も身長が高いこの人は、かつて私が好きだった人。優しくて、音ゲーが上手くて、少し変で、でもそれでもなぜか好きになった。何故かは分からないし、今更分かってもいいことなんてどこにもない。そんな気持ちを抱えながら帰り道を歩く。
「もう片方のゲームセンターも寄っていい?」
「うん、いいよ」
「よっしゃ」
今歩いている帰り道の終着点であるバス停の近くにショッピングモールがある。そこにあるゲームセンターを見ておきたいのである。行きの時とは違う道を歩いているような感覚に陥るほど、時が経つのが早かった。話題が膨らみ、話を聞いてもらえたりしていたからだろうか。この人は前からそうだ。どんな話でも聞いてくれる。そして、話している本人よりも詳しいことすらある。その知識の広さはいったいどこから来るのか、さっぱり分からないけれど、それも好きになった理由の一つかもしれない。しばらく歩くとショッピングモールが見えてくる。まずはバス停まで戻ってから、適当な入り口を見つけて中に入る。ここもまた、いつも通りの風景だった。相手は入ってから随分とキョロキョロしていた。何か探して物でもしているのかと思ったらそうではないらしい。
「ゲーセンは2階か」
「そうそう」
「行く?」
「行くよ」
短い会話の後にゲームセンターへと向かう。本日第二弾である。そんなゲームセンターだったが、特にめぼしいものがあるわけでもなく、15分ほどでゲームセンターを出た。その後は適当にショッピングモールを回り、出る。そしてバス停へと向かう。ちょうど来ていたバスに乗り、長岡駅へと帰っていく。
「お昼どうする?」
「ラーメンでも食べようか」
「賛成」
前にこの人が来た時も食べたのがラーメンだったけれど、ラーメンは美味しいから仕方ないのである。美味しいとおすすめしたラーメンを頼む。いつも食べてるラーメンのはずが、今日はいつもより美味しい。食べてる間ずっと理由を考えていたけれど結局分からずじまいだった。私と同じラーメンを食べているはずが、私より遥かに早いスピードで食べ進めていた彼は今、何を考えているのか。自分は次に何をするかを考えている。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
考え事をしていても箸は進んでいたようで、気付けば食べ終わっていた。レジで会計を済ませて店を出る。その勢いでまた駅前に出る。大都会ほど栄えた街ではない。しかし、不便というほど寂れた街でもない。2人で歩きながら実感する。この人は私のことを好きではない。それでも隣で歩いていて胸が高鳴るのは、私がまだこの人を好きだからなのか。いい天気の昼下がりだが、これから行くところは室内だった。
「じゃあ、行くかぁ」
「行くのか」
「うん」
今から向かうのはラブホテルだった。この人も私も経験がないわけではない。しかし、2人とも今後の人生のためにということで行くことに決まった。流れから行くことになる決定まで全てが不思議だったが、決まってしまったなら仕方ない。ラブホテルに入り、部屋を決めてそこへ向かう。
「へぇ、こんな感じなのか」
「普通のホテルとしても使えそうな感じ」
「ね、そんな感じだよね」
自分の緊張とは裏腹に部屋の設備をあれこれと見て回っている彼を見る。どうやら窓は開かないらしい。それが唯一不便そうなところだった。特に開ける用事も予定もないのだけれど。
「しっかりゴムとかもあるんだね」
「ラブホならまぁあるだろうね」
随分と生々しいものが置いてあったが、そういう役割の建物だから仕方ない。通常宿泊用のホテルとしても稼働しているためか、テレビがあった。しかし、それよりも二人の目を引くものがあった。
「へぇ、こんなのもあるんだ」
「私もそれっぽいのはやったことあるよ」
「衝撃の事実だ」
「まぁ言ってなかったし」
「私もいろいろあったよ」
「まぁ、それはそうだろうな」
特に感情の起伏もなく淡々と返事をしてくる。大した衝撃がないというよりは、人間だからそういうこともあるという反応だった。しばらくテレビを見ていたが、急な問いかけが来た。
「こしょばしていい?」
「え、あ、あぁ、うん」
唐突だった。そして、性的欲求の押し付けじゃないことに安堵しながら、了承する。この人への信頼は、いつまで経っても崩れない。その信頼がいつからできて、なぜ信頼できて、なぜ崩れないのかは自分でもわからなかった。それでも、この人なら大丈夫だと思った。何ともない部分もあれば、ガードしなければくすぐったい部分もある。そして、私はついに禁断の領域に手を出す。
「胸、触ってみる?」
「え?あぁ、いいんだったら」
驚いた様子の返答だったが、特に変なことをするわけでもなく触ってくる。特にスタイルが良いわけでもない。おそらく世間で言えば標準くらいだ。触られている間も特に何かがあるわけでもなく、何かが起きるわけでもなく。何かを期待した自分が悲しくなるほど何もない。そして満足したのかこれ以上は気まずくなると思ったのか手を離した。その後は二人でテレビを見ていた。ご当地食材を使った料理をやっていた。その料理も最後まで見て、ひと段落ついたら出ることになった。少しだけ可能性を感じていた。しかし、それは自分だけだったらしい。ラブホテルに昔からついていたという旧式の精算機で彼がお金を出していた。自分も払うつもりだったのだが、この人にそんなつもりはないのかもしれない。あとで払うとしよう。ホテルから出て、しばらく歩く。東京からこんなところまで来てくれたこの人と別れるのが何となく嫌で、カラオケを提案した。ほとんど押し付けたようなものだったから、代金は私は払うことにした。駅前のカラオケボックスに入り、二人分の代金を払う。部屋に入って二人とも思い思いの曲を好き放題に歌う。ボーカロイド、話題の曲、懐かしい曲。いろんな曲が入り乱れていた。
「前よりは上手くなったんじゃない?」
「まぁ流石にね」
「楽しいなぁ」
「ほんといいよね」
「カラオケはいいものだ」
たまに休憩を挟みながら2時間。歌いきって少し喉が疲れてきたくらいの時間で、終わりの時間が来た。この人との時間も終わりが近づいている。部屋を出て会計を済ませる。しきりに出すと言ってきたが、これは私のわがままだからと私が全額出す形で押し通した。カラオケからも出て、駅へと歩いていく。改札の前まで来たところで、相手がこっちを向いた。
「今日はありがとうね。急だったりなんやかんやがあったのに」
「大丈夫。楽しかった」
「そりゃ何より。また来るかもしれん」
「待ってるね」
「ありがとう。じゃあ、またね」
「うん、またね」
そう言って改札を抜けていく後ろ姿を見送る。結局、私は現地ガイドを兼ねた友人なのだ。そして、見送った後も改札を見つめながら思う。あの人はやっぱり優しい。そして、私はまだあの人が好きなんだろうと思う。この気持ちがいつか擦り切れてなくなるその瞬間、私は何を思うのだろうか。この気持ちの終着点に、正解はあるのだろうか。まとまらない思考を捨てて、在来線の改札へと歩いていく。その一瞬に空が見えた。晴れていた長岡の空は少しずつ曇り、今にも雨が降り出しそうになっていた。
「久しぶりだね」
「前に来たのはいつだったかなぁ」
目の前の友人はそんなことを言いながら駅の中をくるくると歩き回る。自分もそれについていく形で歩く。相手は年上の男だが、デートでもなければ今流行りのパパ活でもない。どちらかと言えば現地のツアーガイドみたいなものだ。
「今日はあそこに行きたいかな」
「あー、あのゲームがあるところ」
「そうそう」
「バスに乗って20分で降りてから徒歩20分くらいかな」
「はいよ」
駅前のバス停に泊まっているバスに乗り込む。隣に乗り込んだ男を見ながら今でもかっこいいと思う。自分の横に座っているのはかつて好きだった人。今もその気持ちがないかと言われると嘘になる。しかし、その気持ちにはもう触れないことにした。友人として関わることができるのならそれでいい。自分にそう言い聞かせてきた。いつも見ている外の景色を見ながら20分。予定通りの時間で到着したバス停で降り、そこからは歩きだ。
「ここからどれくらい歩くの?」
「30分くらいかなー」
「そんなもんか」
「そんなもんよ」
今から向かうのはゲームセンター。前この人が来た時には行かなかった場所だ。いつもの歩き慣れた道を歩く。特に変わった話題があるわけでもなく、特に気まずい空気が流れるわけでもない。なんの変哲もない雑談をしながらゲームセンターへと歩いていく。舗装されたアスファルト、砂利道、横断歩道。いろんなところを歩くこと30分。いつもなら20分くらいだが2人で歩くと遅くなる、ということもあるのだろう。駐車場から入ってエレベーターで昇ればそこには見慣れた景色が待っていた。
「ここ広いね」
「まぁこの辺で言えば一番二番を争う広さだよ」
「なるほどねー。音ゲー探してうろうろしていい?」
「いいよ」
わざわざ東京からこんなところまで来て音ゲーをすると言うのだから、生粋の音ゲーマーなのだろう。それか旅行が好きなのか。一通り何の音楽ゲームがあるかを見て、やるゲームを決めたらしい。そのゲームをやっている間、自分はクレーンゲームをすることにした。何千円と溶かすことになってもいい。そこに楽しさが残ってくれるなら。取れてくれるならもっといい。値段が安く済むならもっと嬉しい。そんなこんなで苦戦して結局取れなかったと諦めたところで相手が帰ってきた。どうやら終わったらしい。
「どうだった?」
「うーん、なんかパネルが固いかも」
「パネルが固いとかあるんだ」
「あるんだよねー。固いと足壊したりするからやべーのよ」
「それはやばい」
店側のメンテナンス次第で体を壊すと言うのはもはや音ゲーの域を超えているのではないかと疑問もあったのだが、言わないことにした。そして、もう一種類だけやりたいゲームがあるというのでそれは後ろで見ていることにした。自分もやっているゲームだ。後ろからやっている動きを見る。自分がやっているゲームとは別のものなんじゃないかと言う譜面が流れている。そしてそれを何事もなくパーフェクトを出しているこの人は人間なのかと言うことも考える。15分ほどでそれも終わり、このゲームセンターに用事がなくなる。最後にクレームゲームとガチャガチャを見て回りながらエスカレーターを降りる。また2人で並びながら歩く。自分より20センチ以上も身長が高いこの人は、かつて私が好きだった人。優しくて、音ゲーが上手くて、少し変で、でもそれでもなぜか好きになった。何故かは分からないし、今更分かってもいいことなんてどこにもない。そんな気持ちを抱えながら帰り道を歩く。
「もう片方のゲームセンターも寄っていい?」
「うん、いいよ」
「よっしゃ」
今歩いている帰り道の終着点であるバス停の近くにショッピングモールがある。そこにあるゲームセンターを見ておきたいのである。行きの時とは違う道を歩いているような感覚に陥るほど、時が経つのが早かった。話題が膨らみ、話を聞いてもらえたりしていたからだろうか。この人は前からそうだ。どんな話でも聞いてくれる。そして、話している本人よりも詳しいことすらある。その知識の広さはいったいどこから来るのか、さっぱり分からないけれど、それも好きになった理由の一つかもしれない。しばらく歩くとショッピングモールが見えてくる。まずはバス停まで戻ってから、適当な入り口を見つけて中に入る。ここもまた、いつも通りの風景だった。相手は入ってから随分とキョロキョロしていた。何か探して物でもしているのかと思ったらそうではないらしい。
「ゲーセンは2階か」
「そうそう」
「行く?」
「行くよ」
短い会話の後にゲームセンターへと向かう。本日第二弾である。そんなゲームセンターだったが、特にめぼしいものがあるわけでもなく、15分ほどでゲームセンターを出た。その後は適当にショッピングモールを回り、出る。そしてバス停へと向かう。ちょうど来ていたバスに乗り、長岡駅へと帰っていく。
「お昼どうする?」
「ラーメンでも食べようか」
「賛成」
前にこの人が来た時も食べたのがラーメンだったけれど、ラーメンは美味しいから仕方ないのである。美味しいとおすすめしたラーメンを頼む。いつも食べてるラーメンのはずが、今日はいつもより美味しい。食べてる間ずっと理由を考えていたけれど結局分からずじまいだった。私と同じラーメンを食べているはずが、私より遥かに早いスピードで食べ進めていた彼は今、何を考えているのか。自分は次に何をするかを考えている。
「ごちそうさま」
「ごちそうさまでした」
考え事をしていても箸は進んでいたようで、気付けば食べ終わっていた。レジで会計を済ませて店を出る。その勢いでまた駅前に出る。大都会ほど栄えた街ではない。しかし、不便というほど寂れた街でもない。2人で歩きながら実感する。この人は私のことを好きではない。それでも隣で歩いていて胸が高鳴るのは、私がまだこの人を好きだからなのか。いい天気の昼下がりだが、これから行くところは室内だった。
「じゃあ、行くかぁ」
「行くのか」
「うん」
今から向かうのはラブホテルだった。この人も私も経験がないわけではない。しかし、2人とも今後の人生のためにということで行くことに決まった。流れから行くことになる決定まで全てが不思議だったが、決まってしまったなら仕方ない。ラブホテルに入り、部屋を決めてそこへ向かう。
「へぇ、こんな感じなのか」
「普通のホテルとしても使えそうな感じ」
「ね、そんな感じだよね」
自分の緊張とは裏腹に部屋の設備をあれこれと見て回っている彼を見る。どうやら窓は開かないらしい。それが唯一不便そうなところだった。特に開ける用事も予定もないのだけれど。
「しっかりゴムとかもあるんだね」
「ラブホならまぁあるだろうね」
随分と生々しいものが置いてあったが、そういう役割の建物だから仕方ない。通常宿泊用のホテルとしても稼働しているためか、テレビがあった。しかし、それよりも二人の目を引くものがあった。
「へぇ、こんなのもあるんだ」
「私もそれっぽいのはやったことあるよ」
「衝撃の事実だ」
「まぁ言ってなかったし」
「私もいろいろあったよ」
「まぁ、それはそうだろうな」
特に感情の起伏もなく淡々と返事をしてくる。大した衝撃がないというよりは、人間だからそういうこともあるという反応だった。しばらくテレビを見ていたが、急な問いかけが来た。
「こしょばしていい?」
「え、あ、あぁ、うん」
唐突だった。そして、性的欲求の押し付けじゃないことに安堵しながら、了承する。この人への信頼は、いつまで経っても崩れない。その信頼がいつからできて、なぜ信頼できて、なぜ崩れないのかは自分でもわからなかった。それでも、この人なら大丈夫だと思った。何ともない部分もあれば、ガードしなければくすぐったい部分もある。そして、私はついに禁断の領域に手を出す。
「胸、触ってみる?」
「え?あぁ、いいんだったら」
驚いた様子の返答だったが、特に変なことをするわけでもなく触ってくる。特にスタイルが良いわけでもない。おそらく世間で言えば標準くらいだ。触られている間も特に何かがあるわけでもなく、何かが起きるわけでもなく。何かを期待した自分が悲しくなるほど何もない。そして満足したのかこれ以上は気まずくなると思ったのか手を離した。その後は二人でテレビを見ていた。ご当地食材を使った料理をやっていた。その料理も最後まで見て、ひと段落ついたら出ることになった。少しだけ可能性を感じていた。しかし、それは自分だけだったらしい。ラブホテルに昔からついていたという旧式の精算機で彼がお金を出していた。自分も払うつもりだったのだが、この人にそんなつもりはないのかもしれない。あとで払うとしよう。ホテルから出て、しばらく歩く。東京からこんなところまで来てくれたこの人と別れるのが何となく嫌で、カラオケを提案した。ほとんど押し付けたようなものだったから、代金は私は払うことにした。駅前のカラオケボックスに入り、二人分の代金を払う。部屋に入って二人とも思い思いの曲を好き放題に歌う。ボーカロイド、話題の曲、懐かしい曲。いろんな曲が入り乱れていた。
「前よりは上手くなったんじゃない?」
「まぁ流石にね」
「楽しいなぁ」
「ほんといいよね」
「カラオケはいいものだ」
たまに休憩を挟みながら2時間。歌いきって少し喉が疲れてきたくらいの時間で、終わりの時間が来た。この人との時間も終わりが近づいている。部屋を出て会計を済ませる。しきりに出すと言ってきたが、これは私のわがままだからと私が全額出す形で押し通した。カラオケからも出て、駅へと歩いていく。改札の前まで来たところで、相手がこっちを向いた。
「今日はありがとうね。急だったりなんやかんやがあったのに」
「大丈夫。楽しかった」
「そりゃ何より。また来るかもしれん」
「待ってるね」
「ありがとう。じゃあ、またね」
「うん、またね」
そう言って改札を抜けていく後ろ姿を見送る。結局、私は現地ガイドを兼ねた友人なのだ。そして、見送った後も改札を見つめながら思う。あの人はやっぱり優しい。そして、私はまだあの人が好きなんだろうと思う。この気持ちがいつか擦り切れてなくなるその瞬間、私は何を思うのだろうか。この気持ちの終着点に、正解はあるのだろうか。まとまらない思考を捨てて、在来線の改札へと歩いていく。その一瞬に空が見えた。晴れていた長岡の空は少しずつ曇り、今にも雨が降り出しそうになっていた。
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